遊ぶ5
クリスタを家まで送ってクララとエイラと共に我が家へ帰宅。2人を居間へ通した。
「楽にして下さい。お茶を用意します」
「水でええです。お腹がいっぱいなので何も要りません。ねえ、エイラさん。大事なのはのびのびお喋りだと思いませんか?」
クララは何も言わなくても義母がいつも座る位置に腰を下ろした。
エイラはその向かい側。同じ状況ならそこに座る、と義母から教わった場所。それで2人とも横坐り。
「ええ。こんなにのびのびは久しぶりです。年明け、実家に泊まるのも止めました。友人達のあんまり我慢しない方がええという意見は封印して今は冬眠。再来週はついに旅行で嬉しい」
「そんなに我慢しなくてもええと思いますけどねぇ。ルーベルさん家の台所以外に入るのは初めてです。囲炉裏はないんですね。ブラウン家はどうですか?」
「家はありますよ。実家はないです」
「失礼します」
台所へ行って少し悩む。お茶を淹れる準備をしてあった。
(とっくりと大きめのお猪口!)
お膳盆に手拭きとお猪口と今朝義母が庭の木から摘んだ椿。自分のお膳盆にはとっくり。義母に聞いて事前準備していたし、手拭きを濡らして折ったので良し。
居間へ行ってかめ屋で習った通りにお膳盆を出した。
「ありがとうございます。リルさん、これってテルルさんに言われたんですか? 手拭きがうさぎです。それで花で……とっくりにお猪口」
「早いですね。あらかじめ準備していたってことですか?」
「お客さまが増えるかもしれないのでお義母さんと相談したり練習中です。とっくりとお猪口はさっき思いつきました」
「とっくりとお猪口とは昼間からお酒みたいでええですね。お茶を淹れますのでどうぞ、とか真似しよう」
手を拭いたクララとエイラに聞かれて義母から習ったうさぎを教える。
「天ぷらの盛り付けもそうでしたけど、テルルさんは細かい分おもてなしが大得意そう。義母がリルさんと仲良くして色々教わりなさい。あなたはガサツですって。一言多いですよね」
クララは肩をすくめた。
「そういえば私もあなたはうっかりだから、と一昨日言われました。本当のことなのでええです。お義母さんは物知りで発想上手で楽しいです」
「テルルさんが追い出さない嫁なら逆に親しくなった方がええ、みたいな噂になっていますよ。リルさん、テルルさんに庇われたって知っていますか?」
ふむふむ、と話を聞く。知っている話だった。なにせ私が隣にいた。
「喉がヒュッてしました。お義母さんの悪口を言われるのは嫌なのでやめた方がええです。旦那様にそう言いました」
「何ですかね。あの常日頃嫁にネチネチ言うたり地味な嫌がらせをするのによその家には我が家の嫁! みたいな。息子が生まれて嫁がきたら分かるんですかね。私は3人姉妹なので母も謎だと」
「お義母さんにあなたの実家よりテルルさんからの方が学べることがあるから教えを乞うてきなさいと言われました。私はええけど実家のことは言わんで欲しいです」
はあ、とエイラは溜め息を吐いた。嫁姑問題大変そう。
「エイラさんのお父さん、昔エイラさんのお母さんとブラウン家の奥さん両方と簡易お見合いをしたらしいですよ。ご近所さんの動向確認不足。エイラさんはとばっちりですね」
「ええー。そんな話は知らないです」
クララって物知り。ふむふむ、と話を聞いて終わった時にクララに「手土産が先でした」と言われた。エイラが「私も」と続く。
クララからは「年始に実家の父から贈られたカラメル」だった。飴に似ているけど柔らかいらしい。
四角い箱に入っていて後で中身を見る。西風菓子でクララも年始に初めて食べたという。お菓子大好きだから嬉しい。
カラメルはエイラへもある。
エイラからは「兄の通う空手道場で先週ついたお餅」だった。紅白の丸いお餅が2種類。これもクララへもある。
「年末年始のお祭りでお小遣いをついつい使ってしまったので来週の旅行土産は厳しいかもしれません。いただいたのにすみません」
「エイラさん、お返しが欲しくて買ってきたのではありません。今年沢山仲良くして欲しいから下心です。お礼合戦は大変なのでしなくてええです。なので今日の私は特別な何かは用意していません」
下心以外は義母からそう言われた。
エイラとクララが顔を見合わせた後に「下心ですなんて言いますか?」と笑った。
笑われたの方か。でも嫌な笑われ方ではなくてホッとした。私はこういうところが変なのだろう。
「そうそう旅行。今日はその話を聞きにきました。なのでその前にテルルさんから頼まれた事を教えます。見返りは旅行料理を教えてくれるとか。いやあ、テルルさんと初めて2人きりであらたまって会話は初で緊張しました」
「そうですね。先に終わらせましょう。私も行事で少し2人などはありましたけど家で2人は初でした。今年後半から町内会で嫁がお世話になります。ご迷惑をおかけしたらすぐに教えて下さいって頭を下げられました」
そうなんだ。義母が帰宅したらお礼を言わないと。
「ほら、私はそろそろ若奥さんとして町内会に参加でしょう? 義母が慌ててうちも挨拶しないと示しがつかないって。テルルさんには負けるわぁって。あんな嫁の為に頭を下げるのかって居間から聞こえてきました。あんなは余計です」
「エイラさんは旅行中にオーウェンさんにチラチラ密告するとええです。私なんてエイラさんくらいの時、結婚1周年の時に言いました。子どももまだですし目に余るなら実家に帰って改めてお見合いをしますって」
クララって勝気。ふむふむ、とエイラが話を聞く。私は「ええ義母で助かった」と思ったけど自慢になるからやめた。
それに余計な一言はちょいちょい言われている気がする。
「クララさんに伝えたかったんですけど、ロイさんとリルさんが気働きしてくれて旦那様の本心が少し分かったんです」
「それがリルさんと文通していたとか冬眠に繋がるんですね」
「ええ。なので思い切って、こうしおらしくクララさんの言う通り少し旦那様に頼んでみます。今まではこう、結婚してみたら嫌だとか違ったと思われたのかと自信が無くて何も言えなくて。代わりに実家に顔を出したり友人と遊びに行っていました」
エイラがルーベル家でロイと私が何をどうしてくれたのかをクララに説明。それからオーウェンがなんて言ったのかも話した。
「オーウェンさんも大変ですね。嫁を守りたくても構うと祖母も母も機嫌が悪くなるとは。ロイさんも破天荒結婚したから気配りをしていると。旦那様もそうなのかなぁ。この話をしていつもありがとうとか言うておこう」
「ようやく新婚らしくなったと言うか、へへっ」
エイラの照れ笑いはかわゆい。
「このまま延々と話していたい! でも先に働きますか」
「そうでした。クララさんの言う通り。ずっと喋りそう。リルさん、練習はどちらでと言われていますか?」
「旦那様の寝室です。お義母さんと準備しました。道具も2階に運んであります」
「旦那様の寝室ってリルさんは別のところで寝ているのですか?」
クララが首を傾げた。エイラも続く。
「いえ、一緒の部屋です」
「夫婦の寝室とは言わないんですね」
「言われてみればそうです。こういうところが変なのかもしれません。変わっていると言われます」
「世の中皆変わっていますから普通とか当たり前とか無いですよ。個性です個性。見た目も中身も皆違います。嫁いできた身だから自分の部屋とか自分の家と中々自覚出来ないですよね。私、未だに実家のことを我が家と言うことがあります」
クララの言葉は16年間生きてきて1番嬉しい言葉かもしれない。ロイからの数々の幸せな言葉と横並び。
「いますよね。普通はそうします、って言う方。自分ならそうしますなのに」
「そうそう。皆はこうですとかも。私はこうですなのに。確認したら結構意見がバラバラ。お義母さん達からの場合は黙って従っておきますけど」
エイラもそう思うんだ。卿家だとこういう考え方をするの?
「リルさん? 驚いた顔をしてどうしました?」
「というより大丈夫ですか?」
「こういう風に言ってくれる方はいなかったので嬉しくて。嬉し泣きは人生で2回目です」
嬉しい事を伝えたくて私は思いっきり笑った。
クララとエイラは顔を見合わせた後に「それは良かったです」と笑いかけてくれた。
次にリルちゃん変わってると言われたら「個性です」とか「それが良いと言ってくれる方もいます」と口にできたら良いな。




