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遊ぶ2

 水曜日。義母の昼食はかめ屋。茶道教室は13時からだけど11時前に家を出た。

 私もお出掛け準備よし。洗濯物も布団干しも問題ないし昨日うんと掃除した。帰宅後にクララとエイラをお出迎えする準備も済んでいる。


(クララとエイラが来たら荷物を預かる。それで4人でミーティア。義母が全部説明済み。楽しみ)


 ドキドキしていたらまずクララが来てくれた。すぐエイラとクリスタも来訪。

 クララに「荷物は玄関に置いておきましょう」と言われたのでそうして家に鍵をかけて皆で出発。


「いやぁ、テルルさんはたまにいらっしゃるけど2人きりは初めてでした。緊張したけど根回しするから嫁と遊んできてだなんて。お義母さん、お昼は自分で用意しますだって。リルさん最高」


 隣を歩くクララに褒められた。嬉しい。義母に感謝。

 エイラとクリスタは私達の後ろを歩いている。自然とそうなった。


「私もテルルさんと家の中で2人きりは初めてでした。それに大お義母さんにしっかり北区料理を教わってきなさい。昼食はお義母さんに頼みますからって。旅行までジッと我慢と思っていたから嬉しいです」

「旅行? ジッと我慢? エイラさん最近そっけないなぁと思っていましたけど旅行をするから我慢していたんですか」


 クララが振り返る。エイラは照れ笑いを浮かべた。


「はい。出世祝い休暇で旦那様が私と2人で旅行をしてくれます。遊びまわって大お義母さんに何か言われないように巣ごもりして年末年始も気合を入れて働きました」

「そういうことですか。ええですね。紙婚式の旅行を思い出します。テルルさんって褒め上手、根回し上手なんですね。あなたの嫁に頼りたいのはあなたが良いからみたいに話してくれて」

「私もこっそり聞いたら似たような感じです。月曜日から大お義母さんの機嫌が良くて感謝です」


 ふむふむ。これが大黒柱妻の仕事。

 クリスタのこと、クララやエイラのこと、私の味盗みに茶道の基礎を教わる事を全部乗っけて相手の家の機嫌も取ったみたい。これはすごい。

 これ、ぼんやりな私でもいつか出来るのかな?


「テルルさんは細かくて怖いけど頼りにされているらしいですからねぇ。お義母さん、あの嫁と親しくしてテルルさんの機嫌を損ねたら困りますみたいに言っていたのにどんどん手のひらコロリ」

「私の母はルーベルさん家のお嫁さんは奥さん達からきっと厳しくされるしお嫁さん達も遠巻きにするだろうからあなたくらい仲良くしてあげなさいって言うていたので、あれ? って驚いています。しかも松茸をいただいてルンルン」


 クララは義母にそう言われても私に声を掛けて誘ってくれた優しい女性。ルリとエイラもエイラの母もそうなる。

 嫁姑問題って嫁の交際関係にも影響が出るのか。

 それは大変……になりそうでならなかった。ロイに伝えて義母を褒め称えてもらおう。


「今日は夕方までのびのび出来ます。そうそうクリスタさん、簡易お見合いをしたそうで。どのような方ですか?」

「はい。あの、ルーベルさん家の若旦那さんのご友人です。高等校から職場までずっと同じだそうです。うんと素敵な方で……なので私とはまた会って下さるかも分かりません」


 にこやかなクララの問いかけに、クリスタは少し頬を赤らめた後しょぼくれ顔になった。


「ヨハネさんは新年はどこの家も忙しいからクリスタさんをいつお誘いするか、どこがええか悩んでいるそうです。それで旦那様が共同茶室でヨハネさんに亭主をしてもらうのはどうかと」

「亭主? リルさん。そのヨハネさんは茶道を(たしな)んでいるのですか? いえ、クリスタさん。知っていたら教えて下さい」


 エイラの問いかけにクリスタは小さく頷いた。かわゆく微笑んでいる。

 私はクリスタの髪にヨハネから贈られた(かんざし)が飾られていたことが気になっているというか、花言葉の話題を出したい。今はそのタイミングではないと思うので黙っておく。


「小等校も中等校も手習があるところだったそうです」

「それはまた華族のようですね」


 そうなの?

 後でクララはなぜそう思ったのか教わろう。


「はい。おばあさま、お母様は華族の方でお姉様も華族へ嫁がれたそうです。ヨハネさんは華族とお付き合いのある卿家の次男さんです」

「それはまた……争奪戦です争奪戦。それでテルルさんはクリスタさんをしかとよろしく頼みますと。昨日フォスター家の奥さんもいらっしゃいました」

「クララさん。争奪戦ってどのような方かも分からないのに。でもうんと素敵な方か」


 エイラの発言に私はうんうん、と大きく頷いた。私は最初からヨハネをとても素敵な人だと思っている。ベイリーもだけど。

 なにせ2人に恋の音、と間違えたくらいだ。

 ロイは「向こうは知らないですけどヨハネさんを大親友と思っています」と言っているし、お土産を特別に買ってきた相手。

 今回の仲人練習の件で彼からヨハネの数々の長所を聞いている。


「リルさんはヨハネさんとお会いしたことがありますよね? テルルさんが仲人ならリルさんもお手伝いですから」

「はい。旦那様やクリスタさんと何度か」

「リルさんから見ても素敵な方ですか? あとは逆に欠点。いやむしろ欠点です。そうですよクリスタさん。欠点を知らないと浮かれて目が曇ります。リルさん、私達に教えて下さい。クリスタさんの後押しのために。逆に止めるにも。町内会の大事なお嬢さんの未来の旦那様候補。厳しくいきますよ」


 おお。クララの発言はロイの予想通り。

「自分が思うヨハネさんの良いところと悪いところを教えるので聞かれたら伝えて下さい」と頼まれている。

 義母に仲人は自分だけど私とロイも仲人の練習。クララとエイラも同じ。クリスタのことを3人で相談しながら義母に報告。それでこの件は言いふらしてはいけない。


 フォスター家と義母は今後クララやエイラにも付き添い人を頼むそうだ。ただし、なるべく旦那様にも付き合ってもらう。付き添い人に惚れたりとか何か色々あるらしい。

 縁談話は義母に聞けば聞くほど難しい。ロイと私は破天荒結婚。ベイリーは幼馴染と恋愛結婚みたいなものだからヨハネの手本にならないそうだ。

 でも未来の自分の子どもやその友人の為に勉強しないとならない。


「旦那様から教わってきましたけどヨハネさんは賢いそうです。高等校の入学式の新入生代表挨拶、卒業生代表挨拶、入社式の代表挨拶は全てヨハネさんだそうです」

「それはまた素晴らしいですね」


 エイラの発言にクララとクリスタが頷く。代表挨拶は全て成績最優秀者、1番の仕事だと教わった。つまりヨハネはすごく賢い。


「でもリルさん。知りたいのは欠点です」

「はい。それでやっかまれやすくて自分では上手く立ち回れなかったそうです。武術系授業はからきし。努力家なのにそれを上回る才能の無さだと。それで得意な琴を好んでいます。料理や甘いものを好むので茶道も」


 これはロイから絶対に伝えるようにと言われているからしっかり話した。

 ヨハネが今年の試験に落ちたのはその武術系分野のせいらしい。卿家なので来年はその武術系分野が贔屓(ひいき)されるという。


「おっ。リルさんはロイさんからきちんとヨハネさんの悪いところを聞いてきたんですね」

「あの。ヨハネさんはそのことを私にも話して下さいました。お兄様やロイさん、それから同僚のベイリーさんのようになりたいのに体が細いし弱いと」

「それは誠実な方ですね。私の旦那様も自慢はあまりしないです。こういうところがあるので助けて欲しいですとか、改善しようとしていますとか、そういう……コホン。今は惚気を言う場面ではありませんでした」


 照れ笑いをしたクララは美人がさらに美人。かわゆい。


「立ち回り下手かあ。それは気になります」

「クララさん。旦那様達が何度も説教してかなり良くなったそうです」

「他には何か聞いていますか?」とエイラにも質問された。

「簡易お見合いをしたいと思って友人知人に伝えたらワッて話がきて、当たり前なのに本人はビックリしていたそうです。自信がないのも悪いところだと」


 これもロイから伝えるように頼まれたこと。ロイからの任務はほぼ完了。喋れて良かった。


「ロイさんはかなりヨハネさんと親しいと。リルさん、ヨハネさんはそのワッと集まった話はどうしているんですか?」


 クリスタが悲しそうな表情をして、エイラが彼女に優しい眼差しを向けている。

 クララに聞かれたけど私は振り返ってクリスタを見つめた。クリスタは私の視線に気がつかないみたい。


「聞きそびれていました。聞いておきます。桔梗には別の花言葉がありました。そのことにソワソワしてついぼんやり伝え忘れていました」

「桔梗? ああ。クリスタさんの(かんざし)は桔梗で……もしかしてその方からの贈り物ですか?」


 エイラは気がついたようでクリスタに向かってうんと優しい笑顔を浮かべた。


「エイラさん。そうです。ヨハネさんからクリスタさんへの贈り物です。それで旦那様の雅なところはヨハネさん経由です」

「雅なところ……もしや花言葉! ちょっとエイラさんとリルさん。私にも教えて下さい。いや、クリスタさんに教えるから聞けますね。さあ、どうぞ」

「クララさん。クリスタさん。皇族の方は誠実という意味の桔梗にこう結んだそうです。君により思ひならひぬ世の中の人はこれをや恋といふらむ」


 エイラが恥ずかしさに口にした。ロイが作って勝手に意味をつけたのは内緒。

 エイラは我が家でオーウェンとロイの秘密の話を聞いて「ご存知ないかもしれないので」と改めてオーウェンに桔梗とこの龍歌を贈った。

 それで「返事は旅行の際に」と言われて翌日エイラは無言で金平糖を贈られた。1つくれと言われて2人で食べたそうだ。文通でのコソコソ恋話。


「本気か演出やお洒落か分からないですけどそれは気分がええ話ですね。それでロイさんはリルさんにその桔梗に結んで例の龍歌を贈ったと。そうですか」


 クリスタの話だったのにクララは私ににんまり顔。

 軽く立ち話しをした後にロメルとジュリーの冊子を貸したからクララは「月が綺麗ですね」の意味をもう知っている。

 クリスタはまだ悲しそうな顔。でも微笑んだ。それで赤くなっていく。ヨハネと会っている時もこうなるけどかわゆい。クララは腕を組んで唸った。


「クリスタさん、ヨハネさんの趣味は聞いていますか?」


 クララの問いかけにクリスタは小さく頷いた。


「幼少から続けている琴だそうです。それから料理に甘味を食べること。それで茶道も少し続けていると」

「ロイさんとご友人なんですね。お会いしたら雰囲気や性格が似ているんでしょうか。趣味を聞いている限りは想像出来ません」

「エイラさん。旦那様とヨハネさんの雰囲気は似ていません。でも仲良しです。優しくて気配り上手なのは同じです」

「華族に近い卿家の次男。成績優秀で親身になってくれる友人がしっかりいる。琴、茶道、料理、甘味など女性と共通の趣味になりそうなことが好み。しれっと流行りでアピール。これは本人も他の女性も強敵ですよ。まさか見た目良しでもありますか?」


 クララな発言にクリスタがこくんと頷く。私は自分がのっぺり顔だから皆格好良く見える。

 でも贔屓(ひいき)目でロイの見た目を好むようになっているから、ヨハネよりベイリーの方ががっしりしていたり背が高くてええなぁと思う。

 だけどヨハネは格好悪いとは正反対。ヨハネは猫みたい。ベイリーは少し熊みたい。オーウェンはもっと熊みたい。

 私は蜂と熊が恐ろしいからオーウェンは少し怖い。

 エイラはオーウェンを男らしくて素敵と言っているし、私は熊より猫がかわゆくて好き。でもヨハネは好みではない。難しい。


「ヨハネさんに共同茶室で亭主をしてもらったらどうかかぁ。リルさんにお客の練習と2人を会わす為ですよね。もしかしたらクリスタさんのご両親に会わせるとか? その辺りを決めるのはテルルさんか」

「はい。私がクリスタさん、旦那様がヨハネさんに聞いて2人が乗り気ならお義母さんに相談すると」

「あの、私は見てみたいです。お茶を点てるところ。祖父も父も兄もしませんし、うんと高望みでももしも夫婦になれるのなら2人でその……」

「夫婦で亭主。夫婦で大寄せ。夫婦で茶菓子探し。美術館に茶道具を観に……ええなぁ。旦那様は甘いものは好かんだから茶道も嫌いで」

「でもエイラさんには点てて欲しいそうですね」


 いつも揶揄われる側なのでエイラにこう言ってみる。

 オーウェンは通っている柔道道場での催し物でエイラを見せびらかしたいらしい。これはエイラの盗み聞きで発覚したことだ。


「そ、そ、それはリルさん。内緒の話です! その顔はいつかのやり返しですね」

「内緒? えー、私は除け者ですか?」

「クララさんになら話しますけど……直接話すのは苦手です」

「クララさんもエイラさんと文通すると良いです」

「クララさんにも頼もうと思っていたんです。大お義母さんやお義母さんは私が遊ぶのは気に入らないみたいで。それでリルさんと文通していました。言いたかったんですけど年末年始はバタバタしていて」

「懐かしいから交換日記でもしますか。クリスタさんのこともあるし」


 交換日記?

 新しい知らない単語。クララに聞いたら3人で同じ筆記帳に書いて回すらしい。

 今日買ってエイラ、クララ、私の順で飽きるまでしようとなった。


「私はあまり遠慮しない性格なので嫌になったら言います」

「クララさん。その方が気楽です。私もその時ははっきり言います」

「はい。嫌な時や嫌なことは直すので言うて欲しいです」

「そうそう。こうして欲しかったとか察しては苦手です」

「クララさん。それ私もです」

「だからエイラさんと気が合うんだと思います」


 お喋りをし続けていたらミーティアへ到着した。

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