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お見合い結婚しました【本編完結済】  作者: あやぺん
日常編

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ある日のお料理前編

 旅行帰宅翌日の日曜日。

 残念ながら死んでしまったプクイカは今夜煮付けにする。プクイカ入りあんかけは注文した平鍋が我が家へ来たら作る予定。

 プクイカは義母も気になっているようだったので夕食作りは他を優先。と、思っていたら私が台所に立った時に義父母が帰宅。

 お出迎えに向かったけど廊下で鉢合わせ。


「お帰りなさいませ」

「リ、リ、リルさん! な、何を怒っているんだ! 手を下ろしなさい!」


 ん? と思ったら手に包丁を持ったまま。白菜を切ろうとしていて慌ててお出迎えに来たせいだ。ぼんやりを直さないといけないのに難しい。


「ぼんやりですみません。白菜を切るところでお出迎えだと慌てました」

「そ、そうか。肝が冷えた」

「冷えませんよ。リルさんのことだからそういう事だろうと思いました。慌てなくて良いので気をつけなさい。今夜は白菜の何か?」

「はい。すみませんでした。失礼します」


 深くお辞儀して謝罪して台所へ戻る。今夜は華やぎ屋流お鍋に挑戦。肉団子ではなくてイワシのつみれ。

 お鍋と雑炊だけでロイのお腹が膨れるか心配なので、安売りかぼちゃの煮物も作るしお鍋には安かった白菜を追加する。

 高いので春雨はなし。雑炊は贅沢にたまごを入れる! そこに小ネギと海苔も散らす。 

 白菜を切り終わってかつお節飾り器で大根削りに挑戦、と思った時に義母が台所へやってきた。


「リルさん、手に持っているものはかつお節ではありませんよ」

「はい。大根です。削ります」

「削る?」

「はい」


 華やぎ屋流お鍋について説明。


「そう。大根も人参も薄く飾るの。だから白菜をこう斜めに切ったのね」

「はい」

「見せていなかったでしたっけ。手がしんどい時の皮剥き用に皮剥き器を作ってもらったんです。リルさんがきてから使ってなかったわね」


 皮剥き器は初めて。貧乏人だったから知らないのではなくて特注品だった。高くはなかったらしい。


「どう使うのですか?」

「簡単よ。こうするだけ」


 小さいちりとりみたいな形の木の端っこは金属だなと思っていた部分は刃で、そこで削れるそうだ。


「お義母さん、どんどん削れます!」


 これは楽しい。かつお節削り器で失敗したら桂剥きして細くしてみようと考えていた。


「どれ、私が大根も人参も削りますからイワシのつみれをお願いします」


 嫁姑問題勃発。楽しい皮剥き器の奪い合い。今日しか使えないものではなくてまた使えるから素直に譲る。


「はい。冷たいし臭いから私がします」

「そうではなくて手付きの問題です。今日は少し震えるから魚を(さば)くのは不安。出来ることはしないと石になってしまうわ」

「痛くないですか? 手湯は必要ないですか?」

「ええ。ありがとう」


 それはホッとした。楽しい皮剥き器の奪い合いではなかった。

 次からは「こっちをする」と言われたらどこか痛くないか聞こう。


「居間かそこで座りながらしますか?」

「今日は座ることが多かったから立つ訓練をします」

「いつでも座って下さい」

「ええ」


 出入り口前の場所に使うものを広げていたけど移動。居間から半座椅子と座布団を持ってくる。義母が座る準備よし!

 義母の向かい側でイワシを(さば)く準備。


「ありがとう。それにしてもイワシを沢山買ったのねえ」

「旦那様はしばらく旅行のお腹で沢山食べそうらしいです」

「あらあら。そもそも走り過ぎなのよあの子は。今朝も走りに行って何を目指しているんだか」


 そう言いながら義母は嬉しそう。3月にデオン剣術道場も参加する剣術大会があって、ロイは初めて応援側ではなくて参加するかもしれないそうだ。

 若手門下生部門の先鋒。1番下っ端狙い。新年最初の出稽古の練習試合結果後に最終決定。

 そんな話は知らなくて、大会というものも知らなくて今日の朝食後の義母の発言で知った。

 ロイは「また逃すかもしれませんが気合いが入っています。リルさんには決まってから言おうかと思って」と言っていた。


「リルさん。新年最初の出稽古日のお弁当は特製にしましょうか」

「はい」

「あなたが手伝ってくれるなら出来るんじゃないかって思っていることがあるのよ」

「何でも手伝います」

「ロイに伝えておくからお兄さんの分も用意しましょう」


 兄? いいの? 

 義父母は今日かめ屋と私の両親に会いに行ったけど、その話は「夕食後に話があります」なのでその時だろう。なので特に今は聞かない。

 今日何か話した結果ネビーにお弁当を用意なら実家にとって良いことを話してくれたということ。

 そういえば兄は強いらしいけど剣術大会に出ないのだろうか?

 何も聞いたことがない。ふと思った。兄は「俺は強い」という話はしないな。

 仕事で活躍した、成り上がる、稼ぐ、豪邸を建てる、お嬢様を嫁にするは良く言うけど「俺は強いぜ!」は言わない。だから兄が強いなんて知らなかった。

 どんどんイワシを(さば)きながら義母の案を聞く。作るのうんと楽しそう。ロイもうんと喜びそう。


「お義母さん。兄ちゃんはちまちまよりドドンッて弁当が好みだったそうです。作るのも楽になるから兄のは手抜きで良いです。材料が何でも豪華なのでそれで十分です」

「手抜きって。他の方も見るんですよ。それなら3色弁当かしら。お正月みたいにヒシカニを買って。ロイのお弁当にも使えるわ」


 ヒシカニ!

 あれはイソカニよりもかなり美味しいカニ。義母に年末は高くなると言われて早く買ってしばらく生簀で飼った。


「前日に海へ行って材料を増やしたいです」

「そう言う気がしてお父さんがジンさんを海釣りに誘いました。一緒に行っても良いけど寒い……その顔にその目は行く気満々ね」


 ジン?

 そうなのか。ネビーのお弁当を作るとかジンも一緒に海へみたいな話をしに行ってくれたのか。


「お父さんにお礼を言います」

「イーゼル海老を釣る。リルさんはいつなら行けると思う? とうるさくて。あなたは今週末は多分祓屋。それで翌週末は初出稽古日。それなら材料をとりに行く、リルさんなら出稽古日の前日でもまた行くと言うって。疲れるからやめてあげたらと言うたけど元気ねあなた」

「はい。元気いっぱいです。ヒシカニを探してきます」


 家事禁止と言われたけどロイは走りに行ったり素振りをすると言うから私も義父母をお見送り後に掃除をした。それは内緒。


「お父さんにも言いましたけど冷えて体を壊したら困るから早めに帰ってきなさい。そうすれば最後の買い出しに間に合います。ヒシカニなんてきっととれないというかどうやってとるのよ。とれなかったら帰り道に買ってきて」

「お父さんに相談します。それでとってきます」


 義母はずっと呆れ顔。釣りが嫌いらしいからだろう。

 ヒシカニ代が浮いたら何か買える。海釣りますます燃えてきた!

 義父と旅行後に海釣りに行こうという話はしていた。それで2月に1度、次は3月にイーゼル海老に挑戦するか? と義父から言われていた。

 イーゼル海老は冬の海老らしく春になるとちっともお店や高級魚屋で見なくなるらしい。


「それにしてもお鍋にそんなにつみれを入れるの? ロイが沢山食べそうと言っても多いわ」

「明日の夕食の串焼き分もです。焼くまで氷蔵に置いておこうかと」

「今日も明日もイワシなら明日の分は生姜を減らして梅を混ぜたら? それか梅煮。梅煮ならつみれは同じ味付けで作っておけば良いわよ」

「美味しそうなので明日梅煮を教えて欲しいです」

「ええ。私はれんこんを入れているわ」

「ちょうど今日買ってきました」

「そこにありますからね」


 あそこ、と目で示されたのは野菜入れ。

 朝食に梅干しは中止。梅煮楽しみ。イワシが安くておまけまでしてくれたから先に相談すればよかった。


「お義母さん達はエドゥアールで温泉たまごを食べましたか?」

「温泉たまご。懐かしい」

「お義父さんとお義母さんは好みですか? 温泉たまごもどきの作り方を教わってきました」

「まあ。どうやって作るの? お線香で時間を測りながら煮る時間を試したけど上手くいかないから諦めました」


 砂時計がないならお線香でおおよその時間を測って下さいと言われたけど、義母も知っている方法なのか。


「沸かしたお鍋か薬缶にたまごを入れて火にかけないで放置だそうです」

「火にかけない、その発想はなかったです」

「お線香半分が消えるくらいが目安らしいです」

「作りましょう。2度と食べられないと思っていました。お父さんが大喜びします」

「旦那様の明日のお弁当は温泉たまごもどきご飯です。久しぶりのお仕事なのでそれがええと。お義父さんにも聞いてみます。私とお義母さんの明日の昼食も温泉たまごもどきご飯でどうですか?」


 義母に首を横に振られた。


「私は朝食がええです。炊きたてご飯。お父さんもそうだろうけど一応聞いてみて」

「はい。言われたら私も炊きたてご飯がええです」

「ロイにも聞いてみたら? お弁当箱に温泉たまごは食べにくそうですけど……まあ相談済のようなのでお好きにどうぞ」

「後で聞いてきます」

「あなたはうっかりだから先に聞いてきなさい。キリが良さそうですし」

「はい」


 つみれ作り終了だったので手を洗って義父探し。居間でロイと将棋中だった。義父の近くに正座。


「対局中すみません。お義父さん。明日の朝、温泉たまごもどきを作ります。朝食の炊きたてご飯とお弁当にして午後の元気。どちらがええですか?」

「ん? 温泉たまごもどき? 温泉たまごみたいなものを作れるのか?」

「はい。教わってきました。その通りに作ってみます。初なのでもどきです」

「そりゃあ炊きたてご飯……午後の元気?」


 あぐらの膝の上に手を置くと、義父はうーんと悩み出した。


「旦那様の分は昆布の佃煮かかつお節のふりかけとお醤油の混ぜご飯にします。お茶碗を持っていくと。おかず用に白米も別に用意します」


 昆布の佃煮とかつお節のふりかけは作っておくと便利。


「リルさん、自分は炊きたてご飯に少し傾いてきました。いや昼です。明日の昼は癒されないと乗り越えられません」


 そうだった。ロイにも聞きにきたのに一瞬忘れていた。でも結局お弁当か。

 温かいご飯のままのお弁当はどうしたら用意出来るのだろう。湯たんぽのお弁当版があれば良いのに。

 皮剥き器みたいにどこかで高くない特注品を作れないのかな?

 とりあえず今度父に聞いてみよう。


「旦那様の温泉たまごもどきはお弁当にします」

「何かな? と蓋を開けるのも楽しいですけど予告されるのもよかです」


 ロイの北区言葉は何日続くかな。気がついているのかわざとなのか不明。旅行中みたいに感じて楽しいので放置。


「うーん。炊きたてご飯……。昆布かかつお節のふりかけとはええ。茶碗を持っていくのは面倒……でもないな。目立つしな。聞かれるな。ガイさん、そちらは何でしょうか?」


 ロイがパチっと駒を移動させた。私から見ると良くない手。駒が取られる。

 と思ったのに義父は「あっ……」と失敗みたいな顔をした。将棋は難しい。


「リルさん。雑炊のたまごを父の朝ごはんの温泉たまごもどきにどうでしょうか」

「それならネギと海苔だけ散らします」

「ええよ、ええよ。そんな気を……今夜は雑炊なのか?」

「いえ、華やぎ屋流のお鍋です」

「温泉たまごといい旅行で仕入れた料理。プクイカも煮ると言うていたよな?」

「はい。あっ、お弁当用のちびしいたけの飾りクズを雑炊に散らします。豪華です。たまごなしでええです」


 温泉たまごもどき問題解決。


「工夫をありがとう。朝は梅干しと共にかなぁ。別々に食べるかもしれないけど潰して欲しい。おお、ええな。月曜日は少し気鬱だけど朝から元気で、昼にまたうんとやる気が出るとはええ」


 朝ご飯に梅干し復活。潰す。忘れないようにする!

 夕食は梅煮……。義母に聞こう。


「ありがとうリルさん」

「はい。お父さん。再来週の土曜日の海釣りを楽しみにしています」

「おお行くか。やはり行くのか。夕食後に聞こうと思っていた。夕食の支度をしてくれているから邪魔すると思って。そうかそうか」

「ヒシカニをとりたいです」

「ヒシカニ? よし、調べておこう」

「お願いします」


 挨拶をして撤収。義母に報告。


「両方ですか。お父さん即決かと思ったら迷ったのねえ」

「炊きたてご飯と午後の元気とどちらかええか聞きました」

「そういう聞き方をしたのですか」

「はい。お茶碗を持っていくと目立って何ですか? と聞かれるからええなぁと」

「お茶碗を持って……ああ。本人が良いならそれが1番食べやすいですね」

「父にまだちび醤油入れを頼んでいないので、明日はお醤油混ぜご飯と普通のご飯を用意します。かつお節のふりかけと昆布の佃煮はどちらがええと思いますか?」


 義父もロイもそこは気にしていない様子だったことを伝える。

 ちびお醤油入れとは何かと聞かれた。温泉たまごもどきご飯ならたまごの上からお醤油をかけたくなるのと、他のおかずで食べる前にお醤油をかければ持ち運び時に他のおかずに醤油味がうつらないと思った話をした。

 冬はお刺身乗せご飯を持っていけるのでお醤油が欲しくなるもの。

 自分には無理そうなので竹細工や竹や木を使って作れないか、それから先程の冬用の温かいままのお弁当箱は作れないものなのか父に聞く予定なのも伝える。


「頼もしいお父さんですこと。茶道具の草案が楽しみ。かつお節ふりかけか昆布の佃煮。あなたの事だから明日の朝は両方用意かしら」


 義母が父の話をするのは初めてだと思う。頼もしいって褒められた。草案が楽しみだって。

 調子に乗ったりまた意味不明なメソメソ泣きをされるのは嫌だから教えないでおこう。


「決めた方で出汁を取ります」

「かつお節ふりかけで。昆布の佃煮は次回。逆でも良いですけど私はかつお節の気分です」

「それならそうします。それでお義母さん。お義父さんは朝に梅干しを潰したものを使うそうです」

「夜も梅煮で良いかってこと? お父さんは朝と昼、昼と夜みたいに続かなければ気にしないから良いです」


 ふむふむ、それは知らなかった。もっと早く確認すれば良かった。会話はやはり大事。相談も大切。


「料理のことをお義母さんと話すと色々分かってうんと楽しいです」

「そう?」

「手足を動かしたい時はまた助けて欲しいです。特別料理以外の時もです」

「あなたって変わっているわね」

「よく言われます。直せますか?」

「今のは悪い意味ではないから良いんじゃない」


 義母は肩を揺らして少し呆れ顔。その後にっこり笑ってくれた。悪い意味ではない変。何だろう。聞いても教えてくれなかった。

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