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お見合い結婚しました【本編完結済】  作者: あやぺん
おまけ 兄ちゃん編
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俺と妹と義弟の話8

 約半年後大陸中央、煌国。

 この国の結婚は家と家の結びつき。特に皇族華族はそうらしい。でも俺は長屋住まいの平民。結婚に関して家と家なんてあまり関係ない。

 そう思っていたけど結婚に関して家と家は関係あった。


 1月は忙しい月なので俺が通う剣術道場の出稽古は1月は休み。それで毎年2月から出稽古開始。

 俺の師匠も出稽古先の師匠も元兵官なので「腕を磨いてこい!」と少し手当が貰える特別日勤扱い。

 ただし出稽古終了後は休憩を挟んで18時から0時までの凖夜勤仕事がある。本当は16時からだけど融通されている。


 久々の出稽古楽しみだぜ!

 と張り切って剣術道場へ顔を出した。

 軽く道場周りを走って道場内で素振りなどをする。その後参加者全員で出稽古先へ行き新年の挨拶をするのが毎年の流れ。

 道場を2つ持つ成人門下生約30人の大半が同じ規模の道場へ移動。

 未成年門下生は本日逆に出稽古先の門下生をお出迎えする。

 俺の家は剣術道場と出稽古先の間にある。なので走るのとか素振りは自分でして出稽古先へ直接行きたいなぁ、とたまに思う。

 それから稽古着で行って稽古着で帰ればよくない? とも思っている。

 その面倒くさい精神を克服するのもまた剣術也らしい。いつそうなるやら。


 親しい先輩友人達と話しながら着替えていたら義弟に声を掛けられた。格上の義弟。すこぶる慣れない。


「ネビーさんおはようございます」

「ロイさんおはようございます」


 ピシッとした会釈をされたので真似をする。俺は今年から「卿家の男のように暮らしてください」とロイの両親に頼まれている。

 ルーベル家は我が家の商売や俺の出世などの後押しをしてくれる大切な家。

 昨年までは基本交流なしだったけど、家と家が結ばれて約半年経ったので、今年からは少しずつお互いの家に良い影響があるようにしましょうと決まった。

 去年の時点で親父の仕事に良い影響が出ていたと最近知ったのもあり、結婚は家と家と結びつきということをジワジワ実感している。


「先週の稽古でお会いした時に伝えましたけど本日は妻がネビーさんのお弁当を用意しました」

「はい! ありがとうございます。そうそう、ジンまで海釣りへ連れていってもらってありがとうございます。我が家に大きなカニがきて目玉が落ちるかと思いました」

「あのカニ、我が家は今夜食べます。リルさんの運が良くてビックリです。カニを1匹売ってカニを6匹買うなんて。ではまた昼に。昼休憩の際に声を掛けて下さい」


 昨日土曜日、俺の妹にしてロイの妻リルは海釣りへ行った。ロイの父と同僚、ロイの同僚、それから俺の義弟ジンと5人で行ったらしい。

 おかげで我が家には毛むじゃらカニという大きなカニ、赤い小さめのイカたくさん、カサゴ、ムルル貝、ちびホタテ貝がやってきた。

 おまけに母は今日、ルーベル家にリルがとった魚のお裾分けをもらいにいくらしい。

 毛むじゃらカニはルーベル家と我が家は2匹ずつ。それで我が家分の毛むじゃらカニはかめ屋へ1匹売られてその代金も今日母が受け取る。


「おいネビー。前もロイさんに話しかけられていたよな」

「なんでロイさんのお嫁さんがお前に弁当を作るんだ?」

「ロイさんのお嫁さんって秋に師範達へ挨拶に来た大人しそうなかわゆいお嬢様だよな。高そうな仕出し弁当を持ってきてワイワイ楽しそうで羨ましかった」

「格上の家のお嫁さん達にはお世話になるから楽しみ。花見に他のお嫁さん達と一緒に色々してくれるのか? 夏祭りからか? まあ目の保養が増えた」


 年上年下関係なく「格上のお嬢様は素敵」みたいな顔。


「言い忘れていたんだけどあれ妹のリル。出稽古の時に俺の家の近くを通るからロイさんはリルを見初めて、ロイさんのお父上は煌護省なので俺が親戚は有りみたいな」


 詳しくは省略。俺も未だに理解不能。

 着飾らないリルはボサボサ頭でブサイク気味だった。ロイはリルは服や髪型を整えれば平々凡々、人によってはかわゆいと評価する女だと見抜いたという感じでもない。


「女性はお洒落でかなり雰囲気が変わりますね」とは言っていた。

 彼の目だと元々リルをブサイクと思わなくて着飾ったリルはとてもかわゆい、なのかもしれない。

 俺は背の高い少しふっくらした女性が好みだけど痩せた女性が良いとかちんまりが良いとか男の好みは十人十色。


「は、はああああああ⁈ リ、リルちゃん⁈ まさか。あれが……」


 リルちゃんはなぁ、とお見合いを断った1つ年上の友人ダズは放心気味。


「女は化粧と髪型と着物で化けるみたい」

「リルちゃんすごい玉の輿だな。うちの娘にもそういう事が起こるのか? 起こらないか。いやリルちゃんにあったなら……」

「あの高そうな仕出し弁当に見えたのは甘味まで全てリルの手製。俺も驚き。ロイさんはリルの才能を見抜いた。俺の弁当が気になったって」

「手製って団子がうさぎになっていたぞ。それに模様の入った漬物とか紅葉の形の……お前が時々食べていた弁当に似てるといえば似てるな」

「そういうこと。使えるものが増えて知識も増えたリルは進化した」


 俺はリルの弁当はちまちま食べにくいとか、食べられないものが入っていると不満だったけど考えてみれば貧乏なりの仕出し弁当。


「女性を見る目が俺にはなかったってことか。いや分かるか! 別人に見える。いや言われてみれば顔はリルちゃんだ。ルルちゃんみたいな別嬪じゃなくて服や髪型なんかの雰囲気込みのかわゆさだった。貧乏長屋暮らしの男が成り上がり兵官なのも驚きなのに、妹が玉の輿で妹の義父が煌護省ってとんでもないな」

「成り上がり兵官って俺はきちんと励んだんだけど。リルも長男長女の将来のために貧乏くじで10人家族の家事に妹達の世話。ロカなんてリルが育てたようなものだぜ。見てる人は見てたってこと」


 これは俺もロイに指摘されないと気がつかなかったこと。我が家では当たり前みたいになっていたけど、10歳から家事育児の中心ってうんと大変。

 両親は俺が思っているより、貧乏をバカにするご近所達より賢かったことも知った。

 知識量ではなくて先を見通すとか全体を見るとかそういう力。俺に足りないもの。


「そういう言い方をされたら……いやあ、あのリルちゃんだしなあ。でもけっこう喋っていたな。あんなに喋ったっけ?」

「周りがペラペラ喋ると上手く喋れなかったって。嫁いだから励んでいるしロイさん達も助けてくれている。だから俺はロイさんの家にもリルにも迷惑をかけないように……。稽古始まる」

 

 整列に身分は関係ない。年齢順。現在俺はロイの2つ下座側。稽古開始の挨拶時に真似をしようとしたら背中を()りそうになった。

 背筋を伸ばしているつもりだったけど何かが違う。今まで特に気にしていなかったけど「卿家の男のように」と告げられたから今は気になる。

 挨拶後、道場周りを軽く5周。

 その後素振り。上下素振り、正面素振り、斜め素振り、跳躍早素振り。未だに師範に軽く注意される。

 それで出稽古先へ向かう。移動時は年齢順とかない。特に決まりはないけど何となく似たような近い身分同士で集まって移動。

 だけど今日は違った。ごくごく自然にロイが俺の隣に来た。


「ネビーさん。父は最近浮かれています」

「浮かれる? どういうことですか?」

「父は昔剣術を(たしな)んでいました。仕事で必要なくなったのもあり趣味が将棋と釣りに逸れましたけど好みは好みです」


 このゆっくりした話し方には慣れない。続きがあるのか俺が返事をするところなのか悩む。

 身分の差というより、これはきっと生活してきた地域や環境の違い。でもリルは似てるな。性格もあるのかも。


「それがどうして浮かれに繋がるんですか?」

「長男ネビー。嫁の兄は皇族守護をしていますという夢がある。老後の健康は大事だけど道場は嫌。ネビーさんなら個人的に稽古をつけてもらえます。次男ジン。嫁の兄は皇女様の花カゴを作りましたという夢がある。しかも釣り好きとはええと」

「長男、次男……ロイさんが三男って何の冗談ですか⁈」


 どう考えてもロイが長男。格、職業、立ち振る舞いなど全てにおいてそうだ。

 しかも俺もジンもガイの義理の息子ではない。吹き出しそうになった。


「堅実に家を継いでくれる平凡な三男です」

「平凡って、平凡って何ですか⁈」

「卿家の男として平凡です。最初の出世は同期より早かったくらいですね」

「うわあ、高望みですよそれ。いや、父親ってそういうものかもしれないですね。親父も長男の俺に兵官か火消しになれでしたから」


 うんうん、とロイが頷く。


「嫁はなんだか運がええから我が家は安泰な気がする。三人とも将棋を指すからさらに機嫌が良いです。という訳で近いうちに我が家へ来て下さい。将棋の腕を知りたいと。趣味としてではなく仕事関係でです」

「俺の仕事に将棋も関係してくるんですか? 頭悪いんで弱いです。駒落ち早指しで遊んでもらうか山崩しにはじき将棋と雑です」


 はじき将棋とは何ですか? と首を傾げられた。ロイが知らなくて俺が知っていることもあるのか。


「駒を並べて交代で指で弾いて盤から落としまくります」

「我が家の駒や盤で行っていたら祖父や父に延々と説教されて最後は押し入れに閉じ込められて夕食抜きになっていたので知らなくて良かったです。知っていたらしていた気がします」


 卿家の息子も折檻されるのか。最初から今のロイ、お行儀の良い子どもではなかったかもしれない。そうか。同じ人間だもんな。


「弱いと怒られますか? 好きだけど弱いんですよ。バカなせいです。これだ! と思っても悪手なんてザラです」

「私兵派遣の依頼主の暇相手なので強い弱いより、自分の実力を理解してご機嫌取りの方法学びの方が大切です。つまり父の機嫌を取るのも練習。ご存知のように自分も父も土曜日は半日勤務、日曜日は休みなのでどちらかでお願いします」

「今日から木曜日まで凖夜勤で金曜日が休みで土曜日は半勤です。半勤だけど新人正官は多分夕方までです」

「それでしたら我が家で夕食と風呂をどうぞ。父から伝言で我が家へ来る時用の着物を買うまでは兵官の勤務服で来るようにと」

「風呂は入ってから行きます。中古でええ反物を仕入れたらしく祖母が仕立ててくれています」

「ええ。亡き祖父の着物です」


 ぶほっと吹き出しそうになった。それはええ反物どころではない気がする。まだ見てないけど。


「買ったって言うてましたけどいただきものですか。ありがとうございます」

「いえ。母がリルさん経由で安値で売りました。親戚価格ですと」

「それは気が楽です」

「まあネビーさんは勤務服で我が家へ来続けた方がええです。我が家の役に立ちます」

「役に立つんですか?」

「まず防犯になります。地区兵官の知り合いがいるんですか? と聞かれるので親戚ですと教えるとそれなら父に頼みたいことがあるとか出てくるかもしれません」


 話しながら仕事をしている気分だな、と思った。ロイは義弟というより上司。そういう付き合いになりそう。

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