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お見合い結婚しました【本編完結済】  作者: あやぺん
おまけ 兄ちゃん編
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俺と妹と義弟の話6

 しょっ中会いに行くと邪魔だろうと7月になってからまたリルに会いに行った。今度はかめ屋の従業員へ事前に知らせて堂々と。

 友人に頭を下げて見栄えの良い着物を借りた。

 両親はやはり勇気が出ないらしい。それでルカが同行。

 ルカは「リルはすぐ出戻りだろうけど大きな旅館で修行したことは役に立つし、サボってないか見にいってあげる」とほざいた。


 手土産は親父が気合いを入れて作った小さい花カゴ。安い菓子折りを良い旅館の旦那や女将には渡せない。

 花カゴは高い特注品の模倣、改善版らしいから安い菓子折りより良いという判断。

 ルカも本日はきれいな格好。お見合いの日と同じ着物なので母に頼んでまた知り合いから借りたのだろう。


 女将と受付部屋で挨拶と少し雑談。昼食後と思ってきたけど、客の昼食後でリル達は昼食中。嘘かも。事前に訪問する日時を知らせておいた。

 俺がうんと稼いだらこの旅館の料亭で家族の食事会とか出来るのか?

 ルルに間に合えばルルの元服祝い。そこにリルも呼ぶ。もしも来てくれるなら向こうの家族も招いてごちそうする。

 格が近くなれば親戚として交流しましょうとなるかもしれない。そうすると家族はリルに会いやすくなる。


「安い菓子折りよりお気持ちと気合いの入った自作品。お心遣いありがとうございます」


 女将はあけすけない人だった。父が職人ですので特注で作る作品を手土産にしましたと伝えたのに「安い菓子折りしか買えない」とバレている。

 祖母と母の間くらいに見える笑い皺がくっきりとした女性だ。


「これは目を惹きます。ありがたくいただいて使います。特注……リルさんが無事に嫁いだら依頼しようかしら。ルーベルさん家とは親しくしていますので縁がなかった場合には良い品でも気持ち的に買いにくいです」

「無事にですか? 何か悪いところがありますか? 妹は——……」

「妹はモタモタしていたりぼんやりする時もありますけど丁寧にとか、次に何をすると良いか考えているだけです。小さい頃は物覚えが悪かったですけど今は普通です。真面目で我慢強いです。どうか見捨てないで下さい。よろしくお願いします」


 ルカのやつ、来る途中まで「リルには無理だね。大店で奉公なんて逃げ帰ってくる」と言っていたのに。


「妹さん想いなお姉さんで。実はですね。私はリルさんを次男の嫁に欲しいんです」


 はい?

 目が点とは隣に座るルカの表情だろう。


「いやあ。何の文句も愚痴も言わずに素直にはい。教えたら教えただけ覚えるからつい頼まれていないこともさせてしまって。10人の炊事をしていたからか料理の手際が良いし、なにより感性が良いわぁ。足りないことは教えれば良いだけです」

「感性ですか?」

「あれは才能です。欲しくても手に入りませんよ。良かったですね。こういう機会がないとあまり知られずに埋もれたままでした。まあテルルさんが首を縦に振らないから無理です。嫁いで慣れた頃に働いてもらおうかなぁと。それでは仕事が立て込んでいますので失礼します。リルさんは少ししたら来るかと」


 会釈、立ってお辞儀をすると女将は去った。

 立ち振る舞いが剣術道場の花見でお世話になる格上の家の門下生の嫁達に似ている。

 でもキビキビしている。商売人の妻——特上——って感じ。


「リル、褒められてるんだ。良かったね兄ちゃん」

「そうだな。良かった。感性って何か分からないけど……こんな立派な旅館の次男の嫁に欲しいってうんと励んでいるってことだ」


 しばらくしてリルがやってきた。室内でくつろいでいるお客にピシッとした会釈をしながら近寄ってきた。先月より様になっている気がする。

 ただ口元に白米が1粒ついていた。リルが椅子に座るとルカがそれをこんこんと説教。


「そういうぼんやりを直さないとリルなんて要らん言われる。だから励むんだよリル。3ヶ月も耐えられないときっと破談。帰ってきてももう布団はないし次の嫁入り先もないからね」

「うん。励む。だから勉強してくる」


 リルは立ち上がって綺麗なお辞儀をした後に小さく「ありがとうバイバイ」と手を振って去っていった。

 ルカと店を出る。


「お前は母ちゃんみたいな台詞を言うなよ。リルの布団も何も(うち)に1人1組の布団なんてないだろう。リルが本当は帰って来たいって思っていたらどうするんだ。リルがさっさと行っちゃうから何も言ってやれなかった。辛かったら相談してくれれば俺がロイさんに話をするから……ルカ?」

「うえええええ。兄ちゃんリルが少し太ってた。沢山食べてるよ。あの従業員服も髪型もええよ。ロイさんがやっぱり嫌って言ってもあんなに立派なお店の次男のお嫁さんだって。いつでも帰ってきななんて言ったら寂しくて帰ってきちゃうよ。私が帰ってきて欲しい」


 うおっ。ルカがついにというか、まさか泣いた。人通りの多い街中なのに俺の着物の袖を握りしめて大号泣。


「悪い。親父も母ちゃんもルル達もあんなだし悪かったルカ。今はお前が大黒柱妻みたいになっているし辛かったな」

「今日の花カゴでお父さんに沢山注文入れてもらって兄ちゃんも稼いでルーベルさん家の近くに豪邸建てて……。私も人気職人になる……」

「そうだな。そうするか。少し遠いよな。格が違いすぎてごめんくださいって会いに行けないしな」

「うん」


 手っ取り早く出世なら志願出征だけど我が家がこの状況だと行けない。家計も心配。俺はまずしっかり年明けに正官へ出世だな。堅実は大切。

 ルカの頭を撫でながら歩いていたら、逃げるスリと追いかける兵官がいたので、ひょいっとスリを転ばしておいた。

 ルルがあっち、レイはそっち、ロカは向こうみたいに嫁にいったら残る俺達家族はどこに住めば良いんだ?


 ★


 ルル、レイが順番に暴れて家事を放棄。俺はこれまで勉学剣術仕事に集中させてもらっていたから手伝いつつルル、レイを叱りつけた。

 2人には母より俺の方が怖いと判明したから。ロカは相変わらず母にひっつくので母が「これまで放置気味だったからね!」と笑いながら仕事へ連れていく。大変そうな表情だ。

 違法薬物関係の調査と大捕物もあってヘロヘロでリル不在の寂しさは薄れた。存在もたまに忘れた。

 ただ披露宴での食事に向けて作法の練習はしっかりした。俺がデオンの妻に頭を下げて習い、次は父、母、祖母、ルカ、ジンと披露宴出席者に順番に教えて一緒に練習。


 剣術道場では宴会の話が進んでいった。俺は不参加を表明。参列者側とは言わずに「所用です」と断った。平家は参加費はなしだし、そもそも不参加だけど少し払った。

 新郎新婦に注目がいくから参列者だとバレない気がする。バレたらロイに今後の対応を聞けば良い。

 隠せとは言われていない。その方が良いと勝手に思っているだけだ。


 そうして8月最初の土曜日。ガイが我が家へやってきた。3週目の日曜日の祝言についての打ち合わせだ。

 祖母は調子が悪く寝込んでいて、母はロカがぐずり過ぎているのでルル、レイを連れていった。

 なので親父、俺、ルカ、ジンが打ち合わせに参加。

 来週土曜日にルーベル家が神社で予行練習。翌日の日曜日は我が家が予行練習。これにはロイが来る。

 ロイは前々日に予行練習。リルは前日に予行練習。リルの予行練習には両親と俺が付き添う。リルは予行練習後に1度我が家へ帰宅。

 祝言前は両家は共に行動しないものらしい。嘘か本当かはデオンに聞けば分かるだろうけど聞くほどのことではない。

 他にもリルがルーベル家の台所を使う練習をするので母が付き添うとか色々告げられた。


「下の娘達は反抗期みたいで挙式には姉の式だと伝えずに自分の友人夫婦に神社へ連れてきてもらいます。散歩です。気が付かないと思いますけど気が付いた時のことは友人夫婦に頼みます」


 今日の父はしっかり話せている。安堵。


「分かりました」

「借りていただいた娘が着る白無垢や私達が着る着物を汚すわけにはいきません」

「その辺りのことは任せます。私は聞き分けの良かった息子しかいませんので。ではあとは当日。何かあれば息子に任せます」


 全員でガイをお見送り。ロイの所作って父親そっくり。聞き分けの()()()()息子。過去形?


 そうしてあっという間に祝言前日の夕方。凖夜勤の俺とほぼ入れ替わりでリルが帰ってきた。

 昨日出て行って今日帰ってきたみたいな雰囲気で帰宅。

 帰宅するなり母はリルをルカとジンの部屋へ入れて、出勤しようとする俺を連れて自宅の奥の部屋で「リルが白無垢を着た」とおいおい泣いた。

 ルル達は祖母の家にいる。父は祖母と共にルル達に「明日は普段頑張っているから神社に楽しいお出掛けをして遊んで良い」みたいなことや騒がないこと、迷惑をかけないことなどを説明中。

 ルカとジンはまだ仕事で不在。

 

「母ちゃん気持ちは分かるけど俺これから仕事。せっかく帰ってきたのにリル1人ってどうかと思う」

「メソメソ泣く姿をリルに見せられるか!」

「別にいいんじゃね? 遅刻するから行ってくる」


 リルは3ヶ月1人で頑張って帰宅後ひとりぼっちってあんまりだと俺は思うけど、母の気持ちも分かる。

 リルは俺やルカと違って友人の家にお泊まりなんてしたことがない。すぐ近くの祖母の家くらい。それなのにいきなり3ヶ月間も他人と暮らして明日からもそうなる。

 

「リル。兄ちゃん今日凖夜勤で今から仕事だ」


 ルカとジンの部屋にはリルしかいないからスパンっと扉を開けて入室。

 リルが玄関正面の板の上に正座していて、三つ指ついて頭を下げた。


「お帰りなさいませ旦那様」


 ……。


「た、た、た、ただいま……。ただいま帰りました? ただいまリル。いやリルさん。どうも」

「兄ちゃん大丈夫かな?」


 俺はコクコクと頭を揺らして「仕事行ってくる!」と家を飛び出した。

「リル、深夜に帰ってくるけど俺はどこで寝る? 今夜は親父と母ちゃんと過ごすか?」と聞くつもりだった。


(ロイさんは毎日ああやってお出迎えされるっていうか、リルにあれをさせるのか! まじか! 卿家ってそうなのか! ぶほっ)


 両親がまたリルを独占するのか、その後大暴れしたルル達が今夜はリルを離さないか、リルが望む家族全員で寝るのか不明のまま。

 俺としては両親はリルと3人で寝て、手前の部屋で俺と暴れる娘3人がいい。

 あいつらもそのうち嫁にいってしまう。


 深夜に帰宅したら狭い部屋に祖母もルカとジンも全員いて俺の寝る場所がなかった。

 目を覚ましたリルが「もう無理。暑い」と言ってルカとジンの家へ移動。リルはわりと薄情かもしれない。おかげで俺はリルを独占。

 翌朝リルの居ないところで母とルカに無言でペシペシバシバシ叩れて親父に「親不孝息子」と睨まれた。痛いし酷い。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ネビー視点、とても良いです! 本編等で垣間見えていた家族のリルへの愛情が溢れていて、ほっこりします。 ネビーはロイからの評価も散々ですが、おおらかで下の子の面倒をよくみる良いお兄ちゃんなん…
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