2話
長話を始めようとする榊原に対し、バイトがあるからと伝えるとバイト先に向かいながら話を聞くことになった。
つまるところ、逃げられなかったのである。
榊原の話を要約するとこうであった。
曰く、数年前にこじれた影野との仲を取り持ってほしいとのこと。
曰く、ついでに影野との恋のキューピットをやってほしいとのこと。
確実についでが本音であった。
とはいえ、なまじ内容を聞いてしまったがために断るに断りづらい。
結局、「俺ができる範囲でなら」という注釈付きで協力をすることになった。なってしまった。
とはいえ、これはこれで普通の高校生っぽい気もするなと思えばそれなりに楽しめそうではあり、何よりクラスでも上位の美人である榊原と知り合いになれたのは僥倖であった。
そのうち友達でも紹介してもらおう。
というわけで榊原と連絡先を交換し、別れたのが昨日の話。
そして今日、さっそく行動を開始しようとしたところで事件が起きた。
「なぁ、日向」
昼休み、購買に行こうとする俺を捕まえ屋上に連れ出したのは影野だった。
そして彼の口から語られたのは衝撃の一言であった。
「彼女が、できたぁ?」
昨日の今日で耳を疑う言葉に、思わず大声で復唱してしまう。
「バカ、声がでけぇよ!」
影野に諫められ思わず周りを見渡す。
幸い屋上には誰もおらず、ほっと胸をなでおろす。
・・・ではなく。
「いや、ちゃんと説明しろよ。」
思わず影野に詰め寄る。
このままでは俺の「美人の友達は美人だろう計画」がおじゃんだ。
「わかってるって、それをじま・・・話したいからわざわざここに連れてきたわけだし、な!」
自慢と言いかけて咳ばらいをする影野を殴りたい衝動に駆られながら、俺は事の顛末を問いただした。
「で、そのあと彼女から俺にコクってきたってわけ。」
「はぁ・・・」
影野の話を一通り聞き、嘆息。
つまるところ、影野がオタクショップでカード購入をしていた時、知らないギャルが友達にオタクショップにいるところを見られ、彼氏である影野の付き添いということにして難を逃れたというのが昨日の出来事らしい。
事情を知らない影野であったが、ラノベで見た光景だとラノベ知識をフル活用し(?)その場をうまく合わせ、影野の顔がいいのもあってギャルの友達も無事納得。
その後デートという体でファミレスでだべっていたところ思いのほか趣味があい意気投合。
最終的にはすっかり影野を気に入ったギャルから「彼女いないなら付き合ってよ」と熱烈ラブコールを受け今に至るというわけだ。
・・・それこそどこのラノベだよ。
「にしても、オタクに優しいギャルって実在するんだな!」
話しているうちにだんだんとテンションが上がってきたらしい。
影野は「ギャル最高!」なんて叫びながら持ってきたパンを食べ始めた。
一通り話して腹が減ったのだろう。
「まぁ、よかったな・・・?」
俺は自分の口から出た相槌に我ながら生返事だな、と思いつつ榊原のことを考える。
榊原と影野がこじれた理由は、小学校卒業式に影野から受けた告白が原因だったという。
小学生当時、恋愛感情というものが分からなかった榊原は、親友のように思っていた影野から異性として見られていたことに戸惑ってしまったそうだ。
結局告白を断ったことで中学以降影野が榊原を避けるようになり、そうなったことで榊原は自分の思いに気が付いたがあとの祭り。
結局今日にいたるということだ。
昨日知った事情とはいえ、あと1日早ければ、というのはあまりにも同情の余地が大きすぎた。
その後も延々とのろける影野の話を聞き流しつつ、俺は榊原になんて説明しようかという悩みで頭がいっぱいになるのであった。
当然、昼食は食いそびれた。