1話
久々に筆を執りました。
お見苦しいかと思いますがよろしくお願いします。
新生活への希望と不安を胸に校門をくぐったのがつい2か月前。
俺、日向 春樹はそれなりに好調な新生活のスタートを切れたのではないか、と自画自賛してみる。
「なぁ、どっか寄っていかね?」
今日最後の授業が終わるや否や、そう声をかけてくる友人もできた。
「おう。影野はどっか行きたいとこあるのか。」
俺は声をかけてきた友人、影野 志木を見る。
影野は端正な顔立ちに似合わぬ自信なさげな猫背がアンバランスな、高校最初の友人だ。
「実は今日快技王の新弾発売日なんだけど、俺の行きつけのとこ個数制限あってさ~」
一緒に来てくれたらバーガーおごるよ、と笑う影野に了承の意を返し、荷物をまとめる。
と、そこに
「ちょっと日向、今日日直でしょ。」
と声をかけてきたのはショートカットの女子。
「古木か、悪い忘れてた。」
彼女は古木 佳奈。
剣道部所属のスポーツ女子だ。
日向と古木で出席番号が前後しておりよくペアを組まされるため、すぐに仲良くなった。
この速さで女子と仲良くなれたというのも好スタートといえるだろう。
「もー、ウチが言わなかったらすっぽかして逃げる気だったでしょ。勘弁してよ。」
「ほんとに忘れてただけだ、すまん。」
怒る古木をなだめながら、影野にもそういうわけですまんな。と謝る。
「しゃーないな。んじゃ、ほかのやつ誘っていってくるわ。じゃあな。」
ドタキャンに気を悪くした様子もなく影野は席を立ち、颯爽と去っていった。
「んじゃ、さっさと終わらせよ。ウチも早く部活行きたいし。」
影野の背中を見送ったあと、俺は古木と二人で日直の業務に取り掛かった。
「そういや日向って部活とかやんないの?」
数学教師が書きっぱなしにして帰った黒板を消し始めたところで、古木がそんなことを問いかけてきた。
「そうだな、やってもいいがバイトが忙しいからな。」
スポーツは別に得意でも苦手でもない。
やってるうちは楽しいが上手くなりたいとは思わないのが正直なところだ。
それに、バイト優先だとまじめにやっている人たちに迷惑をかけてしまいそうだ。
「バイトかぁ~。ウチも始めようかな、高校生ってお金かかりそうだし。」
俺の言葉に触発されたのか、古木がそんなことをつぶやく。
確かに花のJK(死語)はいろいろと物入りだろう。
「もし始めるなら紹介、安くしとくぞ。」
「金とんのかよー。そこは友情価格でしょ。」
思いのほか思案顔の古木に冗談を言いながら、俺たちは着々と業務をこなしていった。
業務自体に大した分量はないため、すぐに片付いた。
「よっし終わり。ウチ部活行くわ、またね!」
日報を書き終えた古木が勢いよく立ちあがると、カバンを持って小走りで去っていった。
時計を見ると時間は4時50分、ちょうどバイトの時間だ。
俺は誰もいなくなった教室を離れ、学校をあとにしようとした。
「ちょっと、いいかしら。」
教室のドアを出たところで、だれかから声をかけられる。
声の方角を向くと、そこには黒髪ロングの美少女が立っていた。
「えっと・・・榊原さん、だよな?」
榊原 波留。
声をかけてきたのはこのクラスにおける女子カーストの頂点にいる女子の一人。
「ええ、話すのは初めてね。よろしく、日向春樹君。」
そんな彼女が俺のフルネームを認識したうえで話しかけてきた。
今まで話したことがないにも関わらず、である。
・・・嫌な予感がする。
新生活が開始して早々にも拘わらず、平穏な日常に入るひび割れを感じた気がした。
「よ、よろしく。」
挨拶を返し、相手の出方をうかがう。
面倒ごとの気配がするとはいっても相手はクラスメイト。
できれば波風を立てずに退散したいというのが正直なところだった。
「さっそくだけど、一つ教えてほしいの。」
挨拶を交わしたところで、榊原はずい、と一歩近づいてくる。
同じクラスの女子に接する距離としてはいささか近すぎる距離に立った彼女は、口元に手を当て、小さな声でこう聞いてきた。
「・・・君、志木の友達?」
・・・間違いなく面倒ごとだった。