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14 光と影


 ルクレツィアが食堂に姿を現す。二十人だって座れそうな大きなテーブルに、ラミリオはひとりで座っていた。


 支度に思いのほか時間がかかってしまい、すでにスープの給仕が始まっている。


 ラミリオは食べながら目をあげ、ルクレツィアを見た。


 手に持っていたスプーンがボトリと落ちる。


 給仕の少年は戸惑い、執事はスプーンを回収しようと身をかがめ、そしてラミリオは口を開けて硬直していた。


「仕立てたドレスが、到着しましたので」


 はにかみながら、軽くお辞儀をして、裾を広げてみせる。


「いかがでしょうか?」


 ――少し派手だったかしら、わたくしのようなどんよりとした目の女が着る服ではないと笑われないかしら?


 ドキドキしながらラミリオの反応を待つ。


 しかし彼は魂が抜けたように、ずっとルクレツィアを眺めている。


「あ……あの?」


 ラミリオは軽く頭を振って、何でもないと仕草で示した。


「……すまない、少しぼんやりしていた。ジロジロ見て失礼した」

「い、いえ……」


 それで、どうなのだろうかとルクレツィアは焦れた。自分自身では気に入っている。夜だから暗いのもあってか、それなりに素敵に見えていたと思ったのだ。


 ――でも、わたくしがいいと思っても、ラミリオ様から見てもそうとは限らないわよね。


 社交界で『白髪令嬢』という不名誉なあだ名をつけられた挙げ句、父親からも日常的に薄気味の悪い娘だと言われ続けていたルクレツィアには、いまいち自分の感覚はあてにならないという実感があった。


「君は趣味がいいんだな。見違えたよ。いや……すまない。無作法なもので、こんなときなんて言ったらいいのかよく知らないんだ」


 ラミリオがなんだか照れくさそうにしている。


「上手にドレスを仕立てたんだな。君によく似合っている」


 ルクレツィアはぱっと気分が上昇するのを感じた。夜なのに、頭上から光が差し込んだかと思うくらいの、明るく浮かれた気分だ。


「か、かわいいドレスにできたと、思いましたの」

「そうだな、かわいいよ」

「わ……わたくしに、似合っている、でしょうか?」

「当然じゃないか、君はそんなにかわいいんだから」


 ルクレツィアはもううれしくて、その後、何を食べても上の空だった。


 その昔、ルクレツィアを褒めてくれた男性はファルコだけだった。あのときもうれしかったけれど、今のはその比ではない。


「君は綺麗な髪をしているから、結い上げずに流していた方がいいね」


 ルクレツィアはこの日ほど自分の銀髪が好きになれたことはなかった。


***


 ローザは父親の機嫌がいいときを狙って、おねだりをすることにした。


「パパ、ファルコ様との婚約発表に向けて、新しいドレスを作ってもいい?」


 ファルコの両親が戻ってきたときに、合同でパーティをするつもりだった。そのときのドレスを、人とは違う、特別なデザインに仕上げたかった。


「アイデアはもうあるの。ただ、時間がかかるから、今からオーダーしておきたくて」

「お前はもうたくさんドレスを持っているだろう?」


 父親に諭されて、ローザはカッとなった。


「ドレスくらいいいじゃない! お姉ちゃんはあんなにたくさん宝石を持ってるのに、私は一個も持ってないんだよ!?」

「私があれに宝石を買い与えたことは一度もない。あれの母親が品のない成金で、遺産がたんまりあるんだよ」

「なにそれ、お姉ちゃんばっかりずるい! お姉ちゃんは素敵な婚約者もいて、ドレスも宝石も何でも持ってて、みんなからちやほやされてて……私だっておしゃれくらい自由に楽しみたいのに!」


 父親はローザを溺愛しているので、最終的には折れてくれた。


「……分かったよ。好きなものを頼みなさい」


 ローザは満面の笑みでお礼を言ってキスとハグをし、仕立て屋に刺繍の図案をオーダーした。


 ――なんたって私は『薔薇のつぼみ姫』なんだもの。素敵な刺繍のドレスで目立ちたいわ!


 刺繍は手作業となるため、時間を要すると言われたが、構わず了承した。


 このドレスを着ていけば、きっとみんながローザの美しさを褒めたたえてくれるだろう。


 ローザは今から楽しみで仕方なかった。


 ――ローザが公爵家の資金難を知るのは、いよいよ布が仕上がるという時期になってからだった。


 せっかく仕上がったドレスも売りに出さねばならないほど困窮していることは、まだ知る由もない。


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