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第94話 お風呂


「とのおおおおおっ、ごごごごごご、ごぶじでしょうかあああっ!」


「喰いかけられた………」


「ふぎゃあああああっ! ととと、殿の体に、だだだ、唾液が……ふがあああっ! あのメス二匹めッ! 殿の体を汚い唾液で汚すなど、万死に値するッ! 今すぐたたっ斬ってやるでござるうっ!」


「やめんかっ! せっかく、仲直りしかけたのにもう……まあ、俺も狼狽えて途中までされるがままというか………、俺も寸止めで今、かなりやばい状態だしな………」



 確かに色々とヤバかった。あのまま流されてもし身を任せていたら……ウラにもフォルナにも、ましてや神乃にも顔向けできなかったな……そういう意味では確かに危なかった。


「だが、とりあえず……体拭くか……そもそも戦闘に続いてラーメン作りで汗や油にまみれ、今も喰われかけたりで、……つか、こんだけベタついてると、風呂に入りてーな………」

「お、お風呂でござるか? あい、分かりましたでござる! 今であれば、皆、まだ広場におりますゆえ、温泉は誰もいませぬ。拙者がお連れ致します!」

「あ~、頼む。もう、抵抗できねえぐらい、今の俺はヤバイ」


 とにかく、体がヤバイ事になってる。

 そしてクリとリスは独特な香水でも使っていたのか、ものすごいエロい女の匂いが俺の体中にこびり付き、油断すると本当に変な気持ちになってしまう。

 こんなの、ウラなら一瞬で匂いがバレちまう。バレたら、今度こそ殺戮が始まるかもしれねえ。

 とりあえず、怪我でじっくり浸かることはできなくても、温泉で多少は体を洗い流すぐらいはと、人目を避けるようにムサシにおぶられ、俺は温泉へ向かった。


「お~……良かった、貸切みてーだな」


 もう既に時間も時間だし、まだ誰も居ないようだ。

 自分で掘り当てた温泉だし、貸切ということなら………



「ささ、殿ッ! どうぞ楽になっさてください! 僭越ながら、拙者がお流しするでござるっ!」


「………………………………………………」



 はて? 俺は、ムサシに温泉に連れて行ってくれと言っただけだ。

 なのになんで、ムサシまで全裸になって出てくる?



「おま、なんで出てくるんだよッ!」


「なにをおっしゃます! 殿のそのお怪我では、器用に体を動かせぬでしょう! 拙者が、殿の手となり、お流し致します!」


「なんで、服脱いでんだよッ!」


「これは異なことを。風呂に服着て入るなど、拙者はそこまで阿呆ではないでござるっ!」


「そうじゃなくて、脱ぐなら脱ぐで、手ぬぐいで少しぐらいなんか隠せッ!」



 今のムサシは儀式のとき同様、完全真っ裸。

 その手には手ぬぐいと風呂桶を腰に携えている。 

 なのに、胸も下も、まるで隠してねえし、隠す気がねえ!

 すると、俺の忠告にムサシは少しムッとした表情になった。



「隠す? 殿! 拙者の忠誠心を侮らないでいただきたいでござるっ! 拙者は殿の一番が忠臣! 身も心も殿と一心同体にございまする! ゆえに、やましきことも隠し事なども一切なきゆえ、隠すなど殿への背信行為と拙者は存じまする!」


「………………………………………………………………」


「ささ、殿、お背中をお流しするでござる」


「おまえ、さっきまでのエロい雰囲気の時には顔を真っ赤にして……」


「ん? 殿、なんのことでござる?」


「……ああ、そういうことか」



 なんとなくだけど分かった。ムサシはウブなところがあり、エロいことには顔を真っ赤にしてパニくったりする。

 クリとリスに襲われてた時だって、顔を真っ赤にして失神寸前だった。

 だから、今だって本当なら鼻血もんだろう? と思ったが、今はどうやら違うらしい。


「ささ、殿、痒いところはございませぬか? 加減はこの程度でよろしいでございますか?」


 今のムサシの頭の中は、エロではなく、傷ついている俺に対する奉仕精神で動いている。

 だからこそ、変なやらしいことなど頭になく、こうして集中できるんだろう。

 言い方を変えれば、一個のことしか見れない猪突猛進の視野の狭いアホ。

 だが、言い方を変えれば、俺のためならどんなことでも突っ走る。

 ゆえに、ムサシの俺への忠義は本物なんだろう。

 そう、思わされた。


「殿、気持ちいいでござるか?」

「………おお………」


 そう思うと、何だか俺も落ち着いて、賢者モードのような状態になった。

 ゴシゴシと親身になり、俺を心の底から気遣うように背中を洗ってくるムサシに、なんだか性欲というよりも、親愛の情的なものが芽生えてきた。

 なんつーか、思わず頭を撫でたくなるような。


「お、おりょ? ととととと、とにょ?」

「ん?」

「も、もう~、と、とにょ、手遊びがすぎますでござる~」


 俺の真横に回って、俺の腕を手ぬぐいを泡立たせて磨いていたムサシの頭を、反対側の手で撫でてやった。

 すると、ムサシは急にうろたえだし、それが何だか可愛かった。

 耳が、尻尾が、ピコピコピコピコ揺れている。


「なんだよ、殿からの労いだぞ? 嫌か?」

「めめめめ、滅相もございませぬ………きょきょ、きょうえちゅしごくに、きょ、恐悦至極にごじゃいまする~」


 フルフル震えながら、本当に嬉しいのだろう。顔がかなりニヤけては、気を引き締めねばとグッと堪えようとも、すぐにフニャフニャっとした反応を見せる。

 ヤバイッ! クセになるっ!


「と、との、ささ、う、腕はお、おわりましたでござる。ささ、次は前に……ッ! んもう、殿ぉ、ジッとしてくださいでござる。お体を拭きにく……ふぇ?」



 だが、それがまずかった。


「ひゃうっ、うっ……あっ……」

「あ、あわ……わ……」


 せっかく奉仕モード百パーセントで集中していたムサシの集中力を俺が乱した。

 それにより、風呂桶に座る俺の目の前で腰を下ろしたムサシは、意識が散漫した状態で伸ばした手で、俺の股間を握ってしまい………そして俺も直に女の素手で握られてしまったことで、こそばゆさとゾワッとした感覚が全身に行きわたって、思わず変な声を出してしまい……



「ふぎゃっふぅううううううううううううっ! と、とのの、殿の虎徹がぁぁああ! ふぁあああ!?」


「あああああっ、ムサシイイイイイイっ!」



 ついにムサシは、鼻血を出して気を失って倒れた。

 そして、また夢の世界へと旅立ったムサシは幸せそうな顔をしていた。 



「ふぁ、あ………とにょぉ~………せっしゃはぁ……とののちゅうしんでごじゃるぅ……」



 あああ、もう、クソ、可愛いなコイツッ!

 とりあえず、誰にもバレないように力を振り絞って温泉を後にして、部屋に戻った俺はそのまま気絶したように寝た。

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