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第85話 ヤルかヤラれるか

「すげえ、すげえっすよ、兄さん! オイラ、興奮して涙ちょちょ切れっすよ!」


 本当に何かが掴めた気がする。

 まさにこういうことなんだろ。


「ふわふわ地震!」


 テメェの限界を超えるってのは。


「ふわふわマントル!」


 地割れ。地の奥底、惑星の奥深くの核まで堕ちな!


「嘘でしょ、この子。トランスフォーメーション、ジャイアントフット!」


 割れた大地が意思を持っているかのように、クレランを落として挟み込んで潰そうとするも、クレランは身を捩って暴れて、地割れから脱出。


「トランスフォーメーション、スカイウィング!」


 今度は鳥の羽か? 巨大な翼を生やして空へと逃げる。

 大地が敵となって攻めるなら、当然逃げるなら空だ。

 そう、逃げたんだ。テメエは、今、俺の力にビビった。

 でも、残念だな。


「俺から逃げたけりゃ、セクハラじゃねーけど、素っ裸にならねえとな。ふわふわ回収!」


 どこに逃げようと関係ない。俺の力で引き寄せる。


「なっ、体が勝手に引き寄せられて!」

「くはははは、残念でした!」

「どういうこと? 体が、いえ、衣服ごと引っ張られているようなこの感覚は!」

「ふわふわ砂嵐!」

「ちょっ、どうして! これだけ立て続けに、しかも無詠唱で魔法を、ぐっ、砂の竜巻まで!」


 ああ、何か、「入った」ような感覚だ。

 不思議だ。なんか、何でもできる気がする。負ける気がしねえ。

 大地に広がる砂を全て上空に集めて渦巻くように操れば、あたかも俺が魔法で砂嵐を放ったと思われる。

 翼で自由に羽ばたけない鳥に、何の意味もねえ!


「ふわふわ隕石メテオ!」


 地割れと砕けた大地から生まれた岩石。それを立て続けに真上から落とす。

 逃しゃしねえよ、テメエが負けを認めるまではな。

 揺れ浮く大地に叩き落とし、その上からまた、岩石を落とす。落として潰して挟み込む。

 だが、


「ふふ、ラバースライム」

「くははは、ゴム化か。こんだけやってノーダメージだとヘコむな」


 肉体をゴムのモンスターにして、衝撃すべてを吸収したか。

 だが、手応えがねえわけじゃなさそうだ。


「ふふ、あはははは、もう、驚いたわよ。こんな奥の手を隠し持ってたなんて」

「くははは、すまねえな~、なんせ未だに女を抱いたことのない奥手なもんでな」

「ははは、面白いね、弟くんは。でもね、二つだけ分かったことがある」

「あっ?」


 ノーダメージとはいえ、纏ったトーガが破けて全身もかなり汚れている。

 笑って見せているが、少なくとも精神的にダメージはくらってそうだ。


「弟くんは土属性の魔法を極めた者………というわけではないみたいね。もっと根本的な何かが違う。そうでなければ、これほど大掛かりな魔法を無詠唱で唱え続けられるわけがない。たとえ君が、光の十勇者クラスだったとしてもね」


 正解。つーか、魔力は思いの他減ってねえ。

 まあ、ただ重いものを浮かせてるだけだからな。


「それと君、そんなボロボロになるまで隠してたなんて、嘘っこでしょ。本当は、さっき出来るようになったんじゃない?」


 なんだよ、ちゃんと分かってんじゃねーかよ。

 

「ああ。人間出来ることだけで何とかしようとすると、意外となんとかなったりするもんさ」


 まあ、バレたところで、大地と違って今の俺の心は揺れ動かねえ。

 根拠もねえのに、俺の奥底から自信って奴が溢れ出てきやがる。


「そう、野生のモンスターにはない、こういうことがあるんだよね」

「はっ?」

「野生のモンスターは自身の能力や特徴を最大限に活かすことに長けている。でもね、人間は時より、自分の能力の限界を超えた力を引き出すことがある」


 今の俺の様子を見て、クレランがそう言い放った。


「才能あるものが覚醒するときは、『開花』と呼ぶ。でもね、弟くんみたいに才能とか天才からかけ離れた子が覚醒したときは、『殻を破る』って言うのよ」

「くはは、殻を破るか。いいじゃねえか! 型破りとかそういうのは、不良にとっちゃ褒め言葉だ」

「ふふ、どこまで破って飛び立てるかは、君次第だけどね!」

「じゃあ、どこまでもかな? くははははは!」

「うふふふ、だからこそ勿体無いわね。君を食べるなんて、すごいもったいなく感じるわ」

「もったいない? 逆さ。俺を喰らったところで、健康被害程度じゃすまないぜ?」

「もう、カラクリドラゴンは二の次ね! 本日のメインディッシュは弟くん! どんな能力や魔法を使ってるか知らないけど、おとーとくんのお肉ちょーだい!」

「くはははは、近寄るんじゃねえ! ふわふわ衝撃波!」


 再びかち合う俺たち。

 単純な殴り合いとは言い難い、それぞれの能力を互いに駆使したぶつかり合い。

 でも、俺はこんなビックリドッキリな技の応酬なのに、高揚感が止まらねえ。

 何でもできる自分が、こんな命懸けの状況なのに楽しいとすら感じた。


「くくく、うふふふふふ、うふふふふふ! 欲しい! 食べたい。食べたいわ! おとーとくんが!」

「ったくしつこい食いしん坊だぜ。ほどほどにしねーと男が引くぞ?」

「食べる女は健康的なんだから」

「ちっ、そーいやー、朝倉リューマの時代じゃ、草食系の男ばっか増えたから肉食系女子が増えたなんつってたが、これは度を越えすぎだろ。いいかげん、お腹いっぱいになれっての!」


 ああ、もう、森の地形が変わっちまったな。

 美しい森だったのに、自然破壊が行き過ぎた。

 大地は荒れて木々は伐採されて、おだやかだった野生生物の住処が完全に奪われたな。


 俺の所為で。


 くはは、知るかよ。俺は環境保護者じゃねーんだ。

 そんなもんに興味はねえ。


 今はただ、この女をぶっ倒すこと以外はどうでもいいんだよ!



「ふわふわ洪水!」


「ッ、今度は何!」



 俺にはちゃんと見えてるぜ。近くに小川が流れているのは。

 流れは緩やかだ。でもな、その全ての水をかき集めたら、どんだけの、何トンの水の量になると思う?


「か、川の水がうねりを上げて、鉄砲水のように!」


 出来るもんだな。

 まさか、液体を自由自在に浮かせることが出来るとはな。

 川のありたっけの水を滅茶苦茶に浮かせて、集めて、壁のようにクレランを押しつぶす。


「ト、トランスフォーメーション、ドルフィンマン!」

「ほ~、魚人か。ほんとに色々変身できるやつ」


 水の圧力や波に負けじと、泳げるモンスターに変化。これでも仕留めきれねえ。

 だが、


「だが、忘れんなよ? 地盤が完全にガタガタになった土砂に大量の水をぶっかけたらどうなるか!」

「えっ、ちょっ、嘘っこでしょ!」


 大地が再び激しく揺れる。これは、地震じゃねえ。

 人間の意思で人工的に起こした………


「ふわふわ土石流! 魚人で泳ぎきれるかどうか試してみな!」

「こ、この子、な、何者………怪物………」


 物を浮かせる。その魔法だけを貫き通した。

 他の魔法を覚えるためのキャパを全部それだけに注ぎ込んだ。

 五年間十時間以上毎日欠かすことなく、日常生活すべてをそれに注ぎ込んだ。


「テメエには分かんねーだろ? 他の能力ばっかに手を出しまくったグルメ家には、一つの味だけを追求し続ける料理人の気持ちはな」


 土石流に飲み込まれるクレラン。いかに野生の生物でも、自然界の災害や天変地異の前には無力だ。

 全身を土砂で包み込み、団子のように丸めてガチガチにする。

 このまま圧迫させるか? それとも窒息させるか?



「こ、の、トランスフォーメーション、爆竜!」



 クレランを封じ込めた土砂の団子が突如爆発した。


「うおっ、この女、まだこんな能力が!」


 爆発を起こすドラゴン。そんな怪物がまだ残っていたか。

 大地が壊れ、自然が火を吹き崩壊する。

 もう、世界の破滅を見ているような気分だ。


「ちっ、やべえな………そろそろ………体力と意識が………」


 浮遊の魔法にそれほど魔力は使わねえ。使うのは、せいぜい微量な魔力と体力。

 だが、その体力すら全身ズタボロの今の俺には底が見えかけている。

 対して、クレランはまだまだ元気………


「ふー、ふー、ふー、負けないわよ、弟くん! 捕食者は私だよ!」

「くそ、はあ、はあ、しぶとい奴だ」

「これまで喰らってきた全ての生命を糧に私は立っている! 今、ここで、私が負けることは全ての生命に対する侮辱! ぜーったいに負けられないんだから!」


 ああ、必死な顔してやがる。殺意と気迫が伝わってくる。

 最初はただ喰われるしかなかったはずの俺を、今ではこの女は喰うか喰われるかを競う敵として見てやがる。

 俺は血まみれに、クレランは泥まみれになりながらも、俺たちは互いに引くことはねえ。

 だが、一つだけ教えてやる。


「狩るか狩られるか………喰うか喰われるか………だけじゃねえ」

「はあ、はあ、はあ、じゃあ、なに?」

「ヤルかヤラれるかだ!」

「ッ、言ってくれるじゃない」

「ハンターだろうが、捕食者だろうが関係ねえよ。俺はテメェらの想像を遥かに超えてるんだよ!」


 もう俺たちは、命をすり減らす戦いをしているんだから。


「テメエを狩って、喰らって、ヤって、俺はそれを糧にさらにデカくなってやるよ!」


 そして、もう、これで最後だろうな。

 

「そうだね………弟くんの言うとおりだよ………でも、ヤルのは私だよ!」


 俺はまだまだ強くなる。

 そして、クレラン。テメエは本当に最初から最後まで自分を曲げねえ、イカしたヤバイ奴だったぜ!


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