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第6話 やりたいことができたんだよ

 先生と再会できたことで、最近陰鬱だった気持ちが晴れた気がした。

 そんな俺の様子を両親も感じ取ったようだ。


「ねぇ、ヴェルト。何かいいことでもあったの?」

「ああ。なんかやる気になっている目をしてるぞ?」


 俺は口に出して何も言っていないが、どうやら見ただけで分かるぐらいウカれているみたいだ。

 そういうところ、やっぱり十年一緒に住んでいる親子だから分かるものなんだろうな。


「まぁ……うん」

「ん~? なにかしら……姫様とのデートが楽しかったの?」

「いやいや、ヴェルトは姫様といつもデートしてるがこんな機嫌よさそうなことなかったぞ~?」


 とはいえ、俺はその事情を言えない。いや、言っても何も問題ないのかもしれないけど、流石に「俺の前世で担任だった人と再会したんだ」とか言っても信じてもらえないし、むしろ「息子の頭がおかしくなった」なんて思われるかもしれない。

 だからこそ、俺は何があったかを血の繋がった両親にも言うことができない。

 そこが何だかやっぱりもどかしい。

 だけど……


「でも、よかった~」

「え?」

「最近ヴェルトったら、何だかムスーッとお目目もこんなにギロッて感じしてたし、学校もつまらなそうで、でも何も言ってくれなくて心配だったのよ?」


 おふくろは、その俺の事情を深くは聞いてこない。

 ただ、俺の様子を純粋に嬉しそうにギュッと抱きしめながら頬ずりしてきた。

 

「そうだぞ~、ヴェルト。イジメられてるとか、魔法学校が嫌だとか、そういうこともあるのかなって色々聞いてみたけどそんなことないって先生にも言われて、事情が分からなくてパパもママも……モヤモヤしてたんだぞー!」


 そして、親父までギュッと、暑苦しいっ!? もみくちゃにすんな。



「ええい、離れろ! 二人して、子ども扱いすんなって! 別にそんなんじゃ……ただ、俺にも色々とあったんだよ。でも、もう大丈夫だっつーの。だから、離ろよ。俺を一体何歳だと……」


「「10歳!」」


「うっ、いや、まぁ、そう、だけどよ……」


「「じゃあ、問題ない♪」」

 


 一応前世の高校生までの精神年齢は……いや、高校生もあの世界では社会的にはガキだったけども。

 でも、もみくちゃにされながらも、俺は今の親父の言葉でハッとした。

 どうやら、親父とおふくろはいつもニコニコして俺にまとわりつく一方で、俺の様子の変化には気になっていたのか、コッソリと学校でのこととかを人に聞いたりして調べてたんだな。

 俺がどう思おうと、朝倉リューマがどうであろうと、ヴェルト・ジーハは二人にとって本当に大切な息子だから。

 

「ったく……」


 ま、そんなこと言えないし、前世のことなんてこれからもずっと話すことはないんだけどな。

 でも、それでもまぁ、むず痒くなるほど甘ったるいものの、それでも言えることがあるとすれば……



「その……俺……やりたいことができたんだよ」


「「ッッ!!??」」



 これぐらいは言ってもいいだろうと、俺は何となく口にした。

 すると二人は……


「ヴぇ、ヴェルト……あ、あなた……」

「お、おお、おぉ……」


 え!? なんか、泣いてる!?


「ヴェルト! 何がしたいの! なんでも言って! もう、ママはなんでも協力するから!」

「お、お前が、お前が「やりたい」ってことを口にしたのを、パパとママはもうここ数年……そうか! そうか!」


 こんなことぐらいで? 俺はまたもみくちゃにされて逃れようとするも、二人はまた嬉しそうにして俺を離さない。

 でも、そういえばそうだったかもしれない。

 少なくとも八歳の時に俺が前世の記憶を取り戻してから、俺の心はずっとやさぐれていたからだ。

 二人のことも両親というよりは、血は繋がっているけど、本当の両親と思いにくい複雑な心境でもあった。

 そんな俺の様子を二人も何かしら感じていたからこそ、今の俺の発言が涙が出るぐらい嬉しかったと思うと、何だか俺の二人に対して作りかけていた壁みたいなものが、アホらしくなったような気がした。


「で、ヴェルトは何をしたいの? それは姫様も知ってるの?」

「え? いや。フォルナは関係のないことで……」

「あら、そうなの? じゃあ……将来姫様と結婚がどうとかも関係ないことなの?」

「いや、それは本当になんも関係ない! つか、どこまでその結婚はガチなんだよ!」

「あらあらそうなの~」


 幼い子供をペットのようにかわいがっているだけ……なんてことはない。本当に俺のことを想い、そして……

 

「まっ、ヴェルト。お前と姫様の結婚は、パパとママと国王様と女王様と……そして、フォルナ姫本人の希望みたいなもので、そこにお前の気持ちが入ってない。だから、パパとママはお前がやりたいことを応援するし……まぁ、将来お前がもし他に結婚したい人とかそういうのがいたら、パパとママは尊重するよ」


 

 真剣に将来も含めた俺のことも考えているんだ。 

 そう、やっぱり俺がどう思おうと、二人は俺の親なんだな。

 恥ずかしいから甘えるとかはできねぇけど。

 


「いや……普通に向こうから、「やっぱやめた」って言ってくるんじゃ……」


「あはははは、そんなことないと思うよ? お前がパパとママに子ども扱いされるの嫌なように、姫様もお前が思っている以上に大人だと思うよ?」


「そうよ~? 恋する女の子は男の子よりずっと早く大人になるのよ?」



 とにかく、俺は数年ぶりに心を開いて親父とおふくろと話をすることができたような気がした。


 これからはもうちょい……冷たくしないでおくか。


 でも、いくら俺のやりたいことなら応援すると言っていても、こんな過保護な二人に「世界を回ってくる」なんて言ったらどう言われるかな? 戦争中だしな。


 ま、そのことはこれから考えるか。



「あっ、そうだ……将来はさておき、明日からなんだけど……」


「うん?」


「学校帰ったらラーメン屋に行くから、メシいらねえから」


「うん……え?!」


「てか、しばらくメシは外で……って、うおっ!?」


「ヴェルト、どうして!? どうしてなの!? ママのゴハンがダメなの? ねえ、ヴェルトぉ~~! ママもっと頑張るから、そんな寂しいこと言わないでよ~!」



 俺はいつか、世界を旅したい。


 その想いは、時期が来たら話をすればいいか。


 だから、もうしばらくは、この場所で―――

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