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第60話 亜人の精神

 間違いないだろう。

 ムサシの大ジジは俺のクラスメートだ。


「おい、お前らのジイさんはどこに居る? 会わせて欲しいんだけどよ」

「なっ! ふ、ふざけるな! なぜ、大ジジをおぬしのような男に会わさねばならぬでござるか!」


 普通、そう言うよな。さて、何と答えるべきか。

 友達? 百パー嘘だと思われる。

 顔見知り? 同じようなものだな。


「大体、おぬしは大ジジがどれほど偉大な方かを理解しているのか?」

「ああ? なんだよ、なんかやったのか?」

「ふん、おぬしのように無知で無礼な人間に教えるものか。大ジジは、拙者たち亜人に変革をもたらした偉大なお方なのだ」


 こいつ、メンドクセーな。また教えないとか言っといて自分から語りだしたぞ。



「かつて、亜人は野生の闘争本能のみをむき出しに、人間や魔族のみならず、同族同士でも争いが続いていた。しかし、そのような歴史が続く中で、亜人としての倫理、道徳、礼儀作法などの精神を広め、四十年前に亜人同士の争いに終止符を打ったのが、我らが大ジジなのだ!」


「はあ? 亜人が礼儀作法だ~?」


「そう、そして多種多様な亜人族で結成され、亜人大陸内での争いを鎮圧させる武装部隊、『シンセン組』の創設者でもある!」


「シンセン……って、し、新選組か!?」



 こんな凶暴な連中どもが、礼儀作法?

 しかも、新選組~?



「亜人の精神。そして、シンセン組も、噂だけなら私も聞いたことがあるぞ。もちろん、全部とは言わんが、亜人の一部の地域では、我々でいう『騎士道精神』と似た特殊な精神を持った亜人たちが存在するとな」


 

 ウラが頷いてそう口にすると、ムサシはドヤ顔で胸張った。



「うむ、さすがに魔族の元姫君は知っておられるようでござるが、その精神が亜人大陸に徐々に浸透していき、亜人は心を育むことができたのだ。今はまだ亜人の世界のみにしか伝わらぬ精神だが、いずれ亜人が世界の覇権を握った証には、全世界がその偉大なる精神を知ることとなる」



 騎士道精神と似た精神。

 侍が?

 新選組で?

 おいおい、まさかそれって、



「亜人の精神ね~、まさか、『武士道精神』とか言わねえだろうな?」


「「「「なっ!!!!!!」」」」



 ムサシとチビッ子三人組が驚愕。

 何だよ、図星かよ。


「待て! なぜ、おぬしが我ら亜人の誇り、ブシドー精神を知っているでござる!」

「はいはい。んで、それを穢した奴は『切腹』とかって文化もあるんじゃねえだろうな?」

「おぬし、どういうことでござる! 何故、我らミヤモトケンドーに伝わる伝説の責任の取り方、セプークを知っている! セプークは我ら門下生のみに教えられる門外不出の作法でござる!」

「クハハハハハハハハハハハハハハハ!」


 もう、笑うしかなかった。爆笑だろ。


「ウラ、お前の親父は教えてくれなかったか? 空手もな、武士道精神と繋がりあるんだぜ? まあ、明確な定義は俺も知らねーけどな」


 宮本よ、テメエだって江戸時代の侍でもなければ、本物の侍も知らねえだろうが。

 異世界に転生して、何を思ったかは知らねえが、こんな世界に侍? 亜人ども相手に、どんな人生過ごしてんだかよ。


「ヴェルト、お前は一体何を知っているのだ? その表情、まるで父上と会った時と同じような顔をしているぞ?」

「愚弟。お前は俺たちの知らない何を隠している」


 二人が俺に対して不思議に思うのも無理はねえ。

 でもな、今の俺の気持ちは、恐らく先生ぐらいにしか分からねえ。


「ムサシ」

「ぬっ?」

「俺は亜人をどうこうする気もねえ。戦争にも興味ねえ。でもな、お前のジジイには興味ある。どうしても、会いてえ」

「な、なにを! なぜ、人間などに大ジジを会わせなければならぬ!」

「だから言ってんだろ? 俺は戦争に興味ねえ。だからこそ、相手が亜人だろうと関係ねーんだよ」

「ッ!」

「まあ、いきなり会わせられねえなら、一言こう伝えてくれ。そうすりゃ、向こうも分かる。『体育祭で一緒にリレーを走った不良が会いたがってる』ってな」


 この十五年は、俺にとって長かった。

 なのに、あいつは孫まで作って、今何歳だ?

 あっ、でもジジイになりすぎて、前世の記憶も忘れてたりボケてたりしたらどうする?

 いや、きっとお互い分かるはずだ。

 根拠はないが、俺には何故か確信だけがあった。

 だが、俺はこの時、気持ちが高ぶりすぎて気がつかなかった。


「ん?」


 船室の壁に寄りかかっていたファルガが何かに気づいた。


「どうした?」

「……ちっ、気づかなかった」

「は?」

「愚弟、クソ魔族、この船……囲まれてるぞ?」


 ウラや檻に閉じ込められているムサシも察したのか、表情が硬くなった。


「まさかクソ亜人の援軍じゃねえだろうな?」

「うわ、めんどくさ。ったく」


 俺たち三人は早足で船外へと出る。

 すると、ヘンテコなマークが帆に描かれている船が三隻ほど、この船の前方に止まっていた。

 

「ハートマークに、札束の絵?」


 見たこともねえ。

 デカイハートマークの中に札束の絵を書いた旗なんて。


「あれは、クソシロムの競売組織の旗! 『ラブ・アンド・マニー』のシンボルだ」

「なに、そのドストレートな名前は」

「ふん、クズ人間のなれ果という奴らか。しかし、何故ここに?」


 まさかの変な連中の登場に不穏な空気が漂う。

 すると、連中の船は俺たちの乗っている船の丁度真横につけてきて、一人の船員が俺たちに向けて叫んできた。



「そこの定期船! お前ら、シーシーフズだろ!」



 違います。



「今回、積荷が多いって聞いたんで引き取りに来た!」



 えっ、何で?



「今回、亜人の処女も競売にかけられるって聞いて、他のギルドがお前らを襲って奪おうとか考えてるらしくてよ! ゴタゴタで商品に逃げられるのも勘弁だから、今回は俺たちが迎えに来たんだ!」



 わお。

 すごい外道なことに、非常に親切な対応してきやがった。


「どーする? シーシーフズが死んだことは伝えるけどさ、亜人どもは?」

「おい、ヴェルト! まさか、あの子達を引き渡すとでも言うのではないだろうな?」

「おい、クソ魔族。テメエが奴らに同情する気持ちは分からねえでもねえが、やつら競売組織は人類大陸がその存在を許可した正当な組織だ。歯向かえば厳罰ものだぞ?」

「しかし、ファルガ!」

「あ~、とりあえず、ウラ。お前は帽子かぶってちょっと後ろに下がってろ」


 俺たちの乗っている船にロープがかけられる。

 全員全身を黒一色で塗り固めた男たちが何人も船に乗り込んできた。

 そして、その代表らしき少し若めの男が俺たちに近づいてきて、礼儀正しく姿勢を整えて爽やかに笑った。


「初めまして。僕はラブ・アンド・マニーの調達部所属、課長のジーエルです。よろしく」


 サラリーマンかよ。グロイ商売しているわりには爽やかで、逆にゾッとする。


「えーっと、失礼ですが、ジード様はいらっしゃいますか?」


 すると、俺がどう答えるべきかと悩む前に、ファルガがフードを外して対応した。


「ジードは死んだ。亜人どもに殺された」

「えっ! それはどういう、って、あれ? あ、あの、あなたは、まさか!」

「俺たちはスタトの街で帝国行きの船に乗れなかったので、ジードに途中まで乗せてもらうことになっていた」

「あ、あなたは! いえ、あなた様は! ふぁ、ファルガ王子!」

「ほう、俺のことを知っているのか」


 おお、さすがは有名人。

 爽やかサラリーマンちっくなジーエルも、一緒に乗り込んできた連中も狼狽えてやがる。

 そして、ファルガは微妙に途中を省きながらも、これまでの経緯を説明した。

 ジードが貸し切った船に俺たちも乗せてもらったこと。

 気づいたら、積荷の亜人たちを救いに来た奴らにシーシーフズが全員殺されてしまったことを。


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