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異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと  作者: アニッキーブラッザー
第十四章 男たちは征く

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第625話 衰え

 まったく、聞かなきゃよかったよ。

 だから、他人の身の上話ってのは嫌いなんだよ。

 でも、だからこそ、戦っているロアたちには聞かれてないのがせめてもの幸いか。

 ファルガやジャレンガはともかく、ロアたちが聞けば、迷いが出ちまうからな。


「魔竜合成咆哮……」


 複数のドラゴンの首から放たれるブレスが一箇所に向けられ、巨大な球体を作り上げる。

 そこには、あらゆる属性が混ぜられ、ラクシャサの魔力で凝縮して形を作り上げている。

 あれを放つ気か?


「させねえよ、クソ魔王にクソ竜」


 だが、その巨大な咆哮が放たれる前に、その球体は突如破裂して粉々に砕け散った。

 

「俺の槍は、ドラゴンも魔法も全て砕く。魂のねえ咆哮なんざ、クソデカいだけで何の脅威もねえよ」


 狩人の目で相手を射抜く。研ぎ澄まされた力を纏い、静かに相手に身構える。そして、気づいた時には既に貫かれた後という目にも見えない速度の槍。

 そして、俺やフォルナには甘いくせに、敵には本当に容赦の欠片もねえ目だ。


「確かにテメエの言うとおり、俺は俺の意思のまま、思うがままに生きている。だからこそ、自分の主張はいつだって自分の力で貫いてきた。俺も容赦なんてしねえ。押し通したきゃ、押し通してみやがれ」


 ラクシャサは言葉を返さない。ただ、返答の代わりに攻撃を続ける。


「古代禁―――――」

「クソおせえ!」

「ッ!」


 だが、魔法の発動すらさせねえとばかりに、ファルガの槍の突きが真空波のように飛び、ラクシャサの呪文を砕きやがった。

 やはり、ラクシャサは肉弾戦ではなく魔法で敵を翻弄するタイプ。魔法すら発動させねえファルガの速度には、例え魔道兵装を使っても追いつかねえ。

 それどころか……


「ちい、あやつらしくもない……大将たるあやつが前線に出て戦うこと事体、本来あやつにとってはありえぬこと。慣れない戦いや、魔道兵装や騎獣一体なんかを使っている所為で、消耗が激しく、既に身を包む魔力が弱々しくなっているわい」


 イーサムがラクシャサの姿に舌打ちしながらそう言った。


「昔、ワシらが戦ったときはもっとやりづらかったわい。思い通りに動く部下だけでなく、捕虜の兵や戦争とは関係のない娘たちを狂わせて戦争の道具にしてワシらを襲わせたり、肉の壁にされたりしたわい。精神力の弱いものには呪いで恐怖と苦しみを与えて戦意を削ぐ。そして、戦争に正々堂々もクソもないとはいえ、使用が好まれぬ毒兵器を平然と使う。何よりも、あやつ自身は滅多に前に出ることも無く、見えないところで他者を操り苦しめる。それがあやつのやり方。…………そんなゲスが、なんというザマじゃ」


 そうなんだ。魔道兵装も騎獣一体も俺もやったことがあるから良く分かる。本来であれば、その生み出される莫大な力がもっと猛々しく高ぶるもの。

 だが、ラクシャサを覆っている魔力は、目に見えて不安定に、大きくなったり小さくなったり、形が定まってねえ。

 ロアもさっき言っていた。「それはやめたほうがいい」と。正にそのとおりだ。強くなるどころか、むしろ弱くなっている。

 でも、それなのに、なんでラクシャサは今になってこんな戦いを……


「あやつは国を生かすため、早々に神族大陸の争いから手を引いた。時折、ワシのような潜入者と戦うことはあったじゃろうが、元々が最前線であまり戦わぬ魔王……衰えておるのう……」


 ラクシャサの全盛期を知らないが、日常生活も苦しくなる体は、時が立つにつれて悪化していっているんだ。イーサムが戦った時代より弱くなっていて当たり前だ。

 それなのに、どうして今更自らの体で戦おうとする? 最後に潔く散ろうってか?

 いや、それだけには見えねえ。あいつは……


「邪魔だ、クソ竜共ッ! 全部抉り取るッ!」

「気をつけてください、ファルガ王! ドラゴンの鱗が変質して宝石のように……百合竜の性質を全身に流そうとしています!」

「クソ関係ねえよ」


 宝石のように輝き全身を覆うアナンタの鱗は、百合竜の力。ラクシャサの魔力によって、防御力をあげようとしている。

 だが、弱々しい魔力で全身を覆うとしても、そこに大した力は見込めねえ。


「光の女神の微笑みは、天地を生み出す創造の光。時に闇を消し去る護符となり、時に闇を穿つ刃となる。エレメントランス・アウローラトライデント!」


 出た。久々に見た。

 ファルガの魔力を覆った槍が光の三叉の矛へと変わる。ファルガが本気モードの時にやっていた技だ。

 まあ、ファルガは魔法苦手だし、アレやるとすぐバテるから、あんまり使おうとしねーんだけどな。


「おお……陛下の『精霊兵器エレメンタル・アームズ』……そういや、俺、初めて見た」

「僕も……」

「なんだ、シャウトとバーツもだったんですか?」


 まあ、人類大連合軍に入っていなかったファルガのアレをロアたちが見たことが無いのも当然かもしれねえ。俺はたまに見てたけどな。

 だから、どんだけ威力があるかも分かっている。


「へ~、まあまあ凄そうなの使えるじゃん、ファルガ王。そんじゃ、あの下級雑種ドラゴンも、裏切り者のラクシャサさんも、まとめて消しちゃおっか?」

「ふん。俺はあんなクソ竜にも、クソ魔王にも、何の因果もねえ。ただ、抉るだけだ」


 ジャレンガが意気揚々と翼を羽ばたかせて突進していく。その背に乗ったファルガが、槍を構えて突く態勢に。

 竜殺しの槍と、最凶竜の爪が、同時にアナンタの肉体に刻まれる。


「ギガ・アストラルボルッテクス!」

邪煉爪じゃれんそう!」


 目も眩む発光。そして同時に肉が抉り取られるようなゾッとする音が響き渡る。

 光が止んで目を開いて見ると、そこにはその巨大な胴体に巨大なドリルをねじ込まれたかのような大穴と、その大穴に爪を捻じ込むジャレンガ。

 魔力で象られた三叉の矛は巨大化し、宝石の鱗など一瞬で抉りとって下の肉にまで深く達し、アナンタの胴体に大きな穴を開けて貫通させた。その傷穴にジャレンガの爪を更に抉りこむ。

 流石に痛いと感じたんだろう。無数のドラゴンの首が一斉に大口開けて悲鳴にも似た声を上げた。


「アハハハハハハハハ! アーッハッハッハッハ! ガバガバに穴が開いたね? 貫通したね? アハハハハハハ! どう? ねえ、なんか言ってみたら? せっかく口がそんなにたくさんついているんだから、悲鳴だけじゃなくて何か言ってみたら? アハハハハハハハハハハ!」


 決まったな……

 ジャレンガの悪魔とも呼べるほどの形相は置いておいて、もうこの戦いは……


「古代禁呪・使い魔超速再生」

「………はっ? なにそれ? なんか萎えることするねえ?」


 なっ、あ、穴がふさがっ……傷が修復されていってる。あいつ、あんなことも……

 ん? だが、傷の治りが……遅い……


「ッ………」

「アハハハハハ、治んないじゃん? 禁呪なんて言っておいて、結局疲れて使えなくなってるんじゃない? 無様じゃない!」


 やっぱりだ。ラクシャサ。顔には出さないようにしているが、明らかに疲弊している。

 もう限界だ。それは、対峙しているロアたちにも分かっている。


「一体どうしちゃったのさ、ラクシャサさ~ん! 昔、ハットリくんからあなたのことを教えてもらったことあるけどさ~、そんな根性? みたいに懸命に戦う人じゃないんじゃないの? まあ、今になってはどうでもいいけどね、どーせ殺すからさ? だからさ? さっさと死んじゃったらいいんじゃない?」


 ただ、限界とはいえ戦うなら容赦しない。ジャレンガはそう言って再び突撃していく。

 一方でラクシャサは、アナンタの胴体の上で、とうとう膝が崩れて肩膝ついている。

 すると……


「……ハットリ…………」


 テレパシーではない、自嘲気味な生の声。

 ラクシャサは確かにそう呟いた。 

 ハットリ……、そういや、あいつはラクシャサの元仲間だったんだっけ?


「なになに、もう言葉はいらないんじゃないの? なに普通に話してきてるの? どうせなら命乞いでもしたら? まあ、どっちにしろ殺すけどね?」


 すると、ジャレンガのその言葉に対して、ラクシャサのテレパシーが俺たちの頭に響いた。


『…………ハットリは…………此方をどう言っていた?』


 それは、どこか寂しさを感じるような声だった。



「ねえ、このテレパシー、頭に響いてイラつくからやめてくんない? っていうか、ハットリくん? 直接本人に聞けばよかったんじゃない? あなたも彼も、客人として今ではヤヴァイ魔王国に一緒に住んでいたんだからさ!」


『……半年前に再会したが……結局一言も言葉を交わしておらん……その後もすぐにクロニア・ボルバルディエと共に、あやつは消えた……………そう………かつてあやつがクライ魔王国から消えたように……此方の前から消えた』


「アハハハハ、よっぽど嫌われてたんじゃない? まあ、僕にはどうでもいいことだけどね!」



 だが、そんなの関係ないとばかりにジャレンガは爪やブレスを容赦なく放ってアナンタと交戦していく。


『嫌われていたか…………その通りだ…………此方は……それをあやつの口から直接聞くのが怖かっただけやもしれぬ……』


 そして、終わりが見えて来た。このまま援軍も来なけりゃ、確実にあいつらがラクシャサを仕留める。

 そして、その時…………


『…………此方は無様であろう…………ヴェルト・ジーハ……』


 俺の頭の中に、ラクシャサのテレパシーが弱々しく、時々ジャミングのように途切れているが、確かに聞こえた。

 みんなの様子を見ている限り、どうやら俺にしか聞こえないようだ。


『分かっている…………普通に戻ったところで…………もはや此方には何の意味もないことを……』


 それは、まるで最後の遺言のように、儚げな声。



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