第600話 真の愛
「そう……私もディズムもラブ・アンド・ピースの罠にハマり、当時奴らと結託していた『大深海賊団』に敗れ、逃走を試みるも結局捕まり、深海世界で幽閉されていた……でも……その深海世界で私たちは『あの方』と出会うことができ、そして決心した!」
シンカイゾクダン? ああ、深海族の海賊か。あの、クレオを十年前に襲ったという奴らか。
かつて、ラブ・アンド・ピースと手を組んでいたようだが、そこらへんの情報を全然マニーから聞いてなかったな。
んで? 不機嫌な顔から突如恍惚な表情で語りだすこの雌竜は、他に誰と出会ったって言うんだ?
「あの方は、遥か昔の大戦でその肉体を深海世界に封じ込められ、意識のみでしか私たちに語り掛けることができない。でも、言葉だけで十分に伝わる。その思想、魂、エロスヴィッチ様の愛やエロスすらも霞んでしまうほど……そう、あの方こそ、真の愛の伝道者!」
いやいやまてまてまて。この雌竜、今とんでもないことをサラッと言ったぞ? エロスヴィッチが霞む存在?
「って、そんなの居るわけねーだろうが! あの変態女が霞むとか、どんな変態に心を奪われているんだよ、テメエらは!」
エロスヴィッチ以上とか、そんなの居るはずがねえだろうがと俺が叫んだ瞬間、雌竜のトリバが俺を見て、突如驚いたように目を見開いた。
「………朝倉…………」
「……………なに?」
…………俺………そして、江口ことフルチェンコも、思わず目を丸くしちまった。いま、間違いなくあの竜は俺のことを「朝倉」と呼んだ。
「かつて、あんたはあんたなりの愛に生きる男だと思っていた。不器用ながらも想いを貫く男だと思っていた。でも、違った。あんたはただの女好きだった」
「…………おい、テメエ………一体……」
「あの方は言ってくれた! 男と女が交わるのはただの生理現象に過ぎないと! 動物的本能に過ぎないと! 子孫を残そうという無意識な想いに過ぎないと! だからこそ、それは愛ではないと。しかし非生産的だと理解しながらも、それでも交わることを求める心。常識から外れ、周りから奇異な目で見られても抑えきれない想いがあるのならば、それこそが本当の愛だと! そう、つまり私たちのこと!」
いや、そういう主義主張はどうでもいい……そんなの好きにしろよ……でも……
「おい、テメエは今、俺のことを朝倉って……」
「深海世界に捕らわれていた私も、半年前の戦いのすべてを知っている。あんたの正体もね。そして、その嫁事情もね」
「ッ、まさかテメエは!」
「ふざけてるよ、本当に。偽愛の安売りをするあんたが世界の支配者? 冗談じゃない!」
そのとき、サファイアドラゴンが翼を大きく広げて咆哮した。
「ちょうどいい。あんたがここに居るのなら色々と利用できる! 聖騎士のようにボコって、そしてあんたは人質にしてやるよ!」
その振動が海上を揺らして、船が傾きかける。
「愚弟。テメエまた例のよくわからねえ事情か?」
「ぶひいいい、どどど、ドラゴンが怒っちゃったんだな! ヴぇルトくん助けてなんだな!」
「ぐわははははは、なんじゃ婿よ。やけに嫌われておるではないか。何かあったか?」
正直な話、どうして俺が嫌われているのかはよくわからねえ。
そして、このサファイアドラゴンの正体もよくわからねえ。
「フルチェンコ、こいつは……」
「だろうね、ヴェルちゃん」
「だな。んで、心当たりは?」
「……綾瀬華雪や鳴神恵那に続く、校内女生徒写真ランキングでも売り上げトップクラス……思春期男子を悩ます……最巨乳に心当たりが……」
「はあ?」
でも、それでも俺とフルチェンコは理解した。
こいつも、「俺たちと同じ」なんだと。
「まあ、いいや。……んで? 宝石ドラゴン。こうして再会しちまったクラスメートをぶっ殺そうとしてまで、テメエは何をやりたいんだ? つか……誰だお前」
「ふん……決まっている。あの方を復活させ、そして私たちだけの……女だけの国を作るため! 現状の法律に縛られることなく、真に愛する人と結ばれて家庭を築くための世界を!」
「おお、そうかそうか。この世界じゃ法的には同姓婚は認められてねーわけか…………で? だからどうしたってんだよ!」
でも、だからってなんで俺がこんな奴に殺されなくちゃいけねーんだよ。
「ふわふわ天罰レーザー!」
雲を突き破り、天より降り注ぐ極太レーザー光線を、サファイアドラゴンめがけてぶち込んでやった。
何の前触れも、気配も感じさせず、一瞬で大気中の魔力を掻き集めて、凝縮して放つレーザー光線。
いくら、数年前までは世界に名を馳せたドラゴンとはいえ、避けることなんてできなかった。
「お、おおおおお! ヴェルトくん、すごいんだな!」
「ほほう。前戯もなくいきなり極太のものをぶち込むとは、婿も容赦がないの~」
巨大なドラゴンが勢いよく海に落下。巨大な水しぶきが上がり、男たちからは歓声が上がる。
船上の忍者や、上空のドラゴンの群れも突然の出来事に動揺しているのが分かる。
そう、人をナメてるからそうなるんだよ。
つっても……
「おい、あんた…………なにすんのよ!」
「へえ~、硬い鱗だな。手ごたえはあるが、傷ついてねーみたいだな」
そう、まともに攻撃を食らわせることはできた。だが、相手を粉砕した感触はない。
とはいえ、本人は激オコ状態だけどな。
「男嫌いとか、女同士がどうとか、そんなのに口出す気はねえ。俺なんてついこの間は腐女子軍団と遭遇したんだから、別に驚きはしねえ。それも一つの文化ってもんなんだろ? 勝手にやってろよ、俺は興味ねえ。でもな……」
「……………あんたッ!」
「とりあえずお前ら攫ったやつら返せよ」
トリバは海の中からズブ濡れになった状態で飛び出して、今にも俺たちに噛みつこうとしている。
来るか? まあ、とりあえず、この雌竜がクラスの誰で、んで何があってこんなんなっちまったのかなどの話は、この場を抑えてからにするしかねえな。
すると…………
「ひどい………ひどいよ~、トリバちゃんになんて酷いことするの~……朝倉君~……」
あさっての方角から、なんとも情けない泣きそうな女の声が聞こえてきた。いや、「女」というより「少女」のような声。
その情けなさは、一瞬、幼馴染のペットを彷彿とさせた。
そして、その声のした方角には無数のドラゴンに紛れて……なんか、透明なキラキラ輝く鱗を散りばめた、犬猫のように抱きかかえられるぐらいの大きさのドラゴンが、半泣きで俺を見ていた。
「おおお! ほほう、あれもまた懐かしいのう……ぐわはははは、相変わらずちっこいのう」
「ヴェルトくん、あっちに、すごく小さいけど宝石の鱗のドラゴン居るんだな! でも、泣きそうなんだな! ファルガ王子は知ってるんだな?」
「…………あれは……三大宝石竜のダイヤモンドドラゴン…………そして、あのクソ小さい体ながらも、ドラゴンの群れを率いることができる存在……例のクソ百合竜のもう一人か」
百合竜! アレが? あんな抱っこできるぐらいの大きさのドラゴンが、こっちの巨大サファイアドラゴンのコンビっていうのか?
いや……それよりも……
「ヴェルちゃん……あっちの子も……『朝倉くん』……って、呼んだんじゃない?」
ああ、フルチェンコのいう通り、あのチビドラゴン、間違いなく俺を「朝倉」と呼びやがった。
おいおいまさか…………
「それに、トリバちゃんもダメだよ~、こんな怖い人たちを相手に無闇に飛びかかって、もしトリバちゃんに何かあったら………私………生きていけないよ~……」
「ディズム………うん、そうだよね、ごめんね、泣かないでよディズム。私はあんたの笑顔だけが見たいんだから。ねえ、私に何かあってほしくないなら笑ってよ。それだけで私は、なんでも出来ちゃうから」
……なんか、いろいろと、どうすりゃいいのかよく分からなくなってきた……
……とりあえず、まとめてボコって捕虜っておくか。
祝! 600話! 更新しまくってついにここまで来ました。
そして本年も大変お世話になりました、来年もよろしくお願いいたします!!
引き続きもっと多くの方に読んでいただきたく、今後ともよろしくお願い申し上げます。
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