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第53話 下着屋で猥談【過去回想】

「ここだー! ねーちゃん、まっててね。いまもってくるから」

「こら、走るな、ハナビ。二枚までだぞ~」


 王都の女性御用達の下着屋。前世風に言うなら、ランジェリーショップ。

 ここには、多種多様な形や色やら素材やらが数多く揃い、店内には若い女……と言っても、今の俺よりは歳上だが、常に賑わっている。


「ねえねえ、これ、どうかな~?」

「ちょっと、それ、布が少なすぎるよ。ただの商売女に見られちゃうわ」

「え~、でも、これなら騎士団の彼も誘惑できると思わない?」

「それよりも、こっちの白を基調とした清楚な感じの方がいいと思う」

「うわ、それってむしろダサいと思うわ」


 俺は下着で迷ったことはないが、どうして女ってのは悩むのだろうか。

 まあ、なんというか、若いね~、みんな。


「おい、ヴェルト、あんまりキョロキョロ……ッ!」


 ん? 俺に一言何か言おうとしたウラだが、何かを見つけてワナワナ震えてやがる。なんだ?

 その視線の先には……棚に並んでいる、水色のレースのヒモパン。

 そして、その隣には……女の大事な箇所だけがパックリと切れ目の入った、穴あきパンツ。

 おいおい……


「あ~、ウラちゃん、下着を買いに~……って、ヴェルト! なんで、あんたまで居るの?」

「そうよ。女の子の下着を買うところに一緒に来るって、何を考えているの? ほら、しっし!」

「女の子の下着選びに来ていい男は、もっと気の利いた奴だけなんだから、あんたはまだ経験不足!」


 気づけば、さっきまで盛り上がって下着を選んでいた若いビッ……女たちがウラを抱き寄せながら俺に抗議。

 ラーメン屋の常連客のお姉さま方だ。


「ウラちゃんも新しいのを買いに?」

「あの、きょ、今日はハナビの下着を買いに……私たちはその付き添いで……」

「ふふ~ん、ならついでに、ウラちゃんのも買おうよ。ねえねえ、一緒に選ぼうよ~」

「えっ、あ、いや、私は買う予定は……」

「いいからいいから~。ほら、ヴェルト、あんたは外行きな。邪魔邪魔! ウラちゃんがどんな下着を買うかは、今日の夜のお楽しみ~」


 いや、俺はハナビの付き添いに……あ~、もう、メンドくせ……


「ウラ、外で待ってるから、ハナビが選んだら金払っとけよ」

「お、あ、う、うん。わ、分かった」


 言い訳するのもアレなんで、俺は黙って外で待機……


「ウラちゃ~ん、なに? ウラちゃんもとうとうこの棚の下着を買っちゃう? 大人下着」

「うっ、い、いや、その……ヴェルトが私の下着をいつまでも水玉と馬鹿にして……だから見返したくて……」

「それなら、この、穴あきがおすすめだって! いーい? この下着で、足をこう開いて、目をウルウルさせて頬を染めて……そうすれば後はヴェルトからとびかかるわよ!」

「ふぁっ!? あ、足を、ひ、広げるのか!? ま、ままま、丸見えではないか! お、お尻も、ま、ま、前も……」

「そうそう。ウラちゃんは肌も綺麗で、足も長くて素敵だし、そんな足を広げて誘えば、ヴェルトも大喜びだよ♪」


 おいおいおいおい、あいつら、なんつーもんをガキに勧めてんだ? 中坊でそれはまだハエーだろうが。


「でもいいのかな~、ヴェルトって将来国王になるのに、先にウラちゃんとしちゃって」

「フォルナ姫に悪いって? 私は~、う~ん、私はこの国に来たのは数年前で、フォルナ姫のことはあまり知らないまま戦争に行かれたから、私はやっぱり付き合いの長いウラちゃん応援かな~? フォルナ姫もいつ帰ってこられるか分からないし」

「う~ん、まあ、国王になれば妻がいっぱいいてもいいだろうけど、孕んじゃったら……」

「それなら、お尻があるじゃん? あ、それとも口?」

「こらこら、ウラちゃんはまだ経験ないんだから、いきなりそれはダメだって」


 つうか、下着屋の前で聞き耳立ててる俺もどうかと思うが………


「これを選べば……ヴェルトも少しは見てくれるかな?」

「ウラちゃん?」

「あのな、最近、変なんだ。メルマさんたちと一緒にいるときは、ヴェルトに普通に接することができるのに……たまに、胸が苦しくなることがあるんだ………その、すごく……いやらしいことも考えたり……ヴェルトに……触って欲しいと思ったり……」

「へ、へぇ~……」

「ヴェルトのシーツや服を洗濯しようとすると……匂いを嗅いだり、顔をうずめたりしてしまって……」


 だが、ふざけ半分で勧めてる街の女たちの様子とは別に、ウラ自身の態度はどこか真剣だった。

 まさに思春期に突入した中学生みたいな悩み。っていうか、年齢的にそうか?

 しかし、俺もそのウラの熱っぽい視線には気づかなかったわけではない。

 出会った頃は、子供のように甘えてベタベタしてきて「お嫁さんになる」的なやつも、なんか最近はもうちょいディープなものを感じる。

 だが、そのことで俺が狼狽えたり意識する素振りを見せると、なんか色々と気まずくなるし、それにダチの娘相手にそういうのも罪悪感を覚えるし、基本的に、事なかれで済ませてきていた。


「それ、ぜんっぜん、変じゃないから、ウラちゃん」

「うん、ぜんっぜん、悪くない。ヴェルトが全部悪いから」


 つうか、俺の所為かよ。

 ってか、やばい……この会話……俺が聞いたら色々とまずいんじゃ……でも、聞いといた方がいい気も……


「でも、そっか。じゃあ、ウラちゃんはヴェルトを考えて、一人で……しちゃったりしてるの?」

「えっ? ひ、一人で……? とは、なんだ?」

「も~、……ゴニョゴニョ……のことよ」

「示威行為? 意気込みを示すようなことか?」

「そうじゃなくて! ほら、私たちとお勉強したときに……ごにょごにょごにょ……のことよ~♥」

「はうぅうううう!? そ、それは……その、まだよく分からなくて……その……たまにしか……」

「あ~、してるんだ~♪ でも、ベッドの上とかでシちゃったら、シーツが汚れるから気をつけてね? 初級はお風呂で。上級だったら、寝ているヴェルトの顔の上でとかね♪」

「~~~~~ッッッ!?」


 そして、何だか少し声のトーンを落としてボソボソと……ダメだ、店の外からだと聞こえない。

 あいつら、何の話をしてるんだ?


「そ、そんなことできるものか。い、いくら今日はメルマさんとララーナさんがいないからって……ハナビはいるんだし……」

「えっ!? 今日、マスターと奥さん出かけてるの!? ちょ、ウラちゃん! それ、ビッグチャンスじゃない! うん、もうヴェルトの寝込みを襲っちゃえ!」

「い、い、いいい、いや、でも……でも……」

「ふふふ、まずは……ペロペロッとしちゃうとか……」

「ぺろぺろ? ペロペロって何をするんだ?」

「あのね、お口で、ヴェルトのアレを。アレね? アレって……ゴニョゴニョのことよ。ほら、前にバナナを使って見せてあげたでしょ?」

「えっ!」

「そっ、アレをね、お口でゴニョゴニョ、ゴニョゴ~ニョゴニョして、ゴニョゴニョ、ゴニョゴ~ニョゴニョか、するんだよ」

「そんな、汚いことを!?」

「でも、それでヴェルトもウラちゃんにメロメロだと思うけどな~」

「そ……そう……なのか? ヴェルトが……ペロペロ……で……」


 あの女どもウラに耳打ちでとんでもねえこと教えてねーか?

 ウラが百面相みたいに次々と顔が変わっていく。


「姉ちゃん、このベリー色と、このミントが欲しいッ!」

「はうっ、あ、お、おお、そ、そうだな。そうか、ハナビ」

「どーしたの、姉ちゃん、顔真っ赤」


 無邪気なハナビがパンツを頭の上で振り回しながら駆け寄ってこなければ、どこまで話をしていたか分からない。

 だが、顔を真っ赤に何かを決意した表情のウラは、ハナビのパンツと自分の分を買い終えて店の外に出てから、何やら熱っぽい視線で俺を無言で睨んでいた。





 そしてその夜……事件が起こった。



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