第500話 いざ、聖地へ!
話が弾んだのか、お互い情報交換が出来たのかの答え合わせは、全員揃ってからの確認になるが、正直なところ俺らはみんなあのパーティーで一人の男に持って行かれた感がある。
「ヴァルハラ皇国皇子、ライラック皇子。皇族でありながら、現皇政に反発する御方。非常に過激で大胆な発言も多く、国民からは賛否両論を常に受けているも、熱狂的な支持者も数多く居て、皇も頭を悩ませているわ」
パーティーが終わり、コスモスはすっかり夢の中へ。俺たちは本日ヴァルハラ皇国が用意してくれた宿泊施設へと、送迎のリムジンの中でホワイトに、さっきの男のことを聞かされていた。
「なんか、今、かなり変な状況みたいだったんで、実際どうなんすか? 昼間のテロリストと繋がりがあるみたいなこと」
「ニートさん、そして皆さんも聞いていたかと思いますが、この世界では自由な恋愛は認められていません。双方の合意を持った男女が、まずは交際審査を受け、更には相性検査、遺伝子検査、結婚審査、色々な段階があり、それを政府は管理しています。国籍が違えばその審査もより厳しくなります。ですが、ライラック皇子はその制度を撤廃し、交際も結婚も双方の合意のみで許可し、同性での交際も認めようという法案を設立させようとしています。それは、レッド・サブカルチャーや、その組織と関連性を疑われている『とある宗教協会』からは絶大な支持を集めているので、そんなことに」
「いや、待て。自由な恋愛はわかったけど、何で同性なんたらが入ってるのかが分からないんで! っていうか、宗教?」
「ええ。この世界の創成期、世界の女性たちを洗脳し、おぞましい世界へと誘ったと言われる、宗教家よ。国家を揺るがした危険思想人物として、大昔に捕らえられ、そのまま冷凍刑務所に拘留された教祖。でも、その影響は遥かなる時を超えた今でも、人々に腐の遺産を残しているの」
「いやいやいや、そんな危険な宗教なら、何で潰さないの?」
「下手に潰せないのよ。その宗教協会のメンバーは世界各国に散らばっているとされ、その正確な人数や勢力が未だに把握できていないこともあり、更には国の政府機関の上層部や王族の中にまで紛れ込んでいるという噂まであり、政府も下手に手を出せず、手を焼いているのよ」
何ともお笑いな話だ。俺たちの前世の何百年も先を行く優れた技術力を持ったSFの世界が、そんなアホみたいなもので政権を左右させられるとか、平和なのか過激なのか、よく分からん世界だな。
だが、それはそれとして、ライラックとかいう変態皇子のマニフェストよりも、やつ自身に少し気になるところがあった。
あのジャレンガが、一瞬怯んだと思われるほどの何かを持つほどの只者じゃない雰囲気。
そして、去り際に俺の胸ポケットに何かを入れたこと。
それは一枚のカード。
随分とカラフルに色塗られているカードに書かれていたのは……
「おい、ホワイト。このカードには何が書いてあるんだ?」
「えっ? あら? これはっ!」
随分と怪しい、いかにも風俗チラシのように見えなくもないカードなんだが、何が書いてあるか?
ホワイトの表情から、あまりいいもんじゃないのだろうが……
「これは、ライラック皇子が所有するバーよ。何度も政府の調査で営業停止になったお店。違法な電子書籍を公表したり、公然わいせつ罪など、あとを耐えないという噂で……ライラック皇子、また経営を始めたのかしら?」
「……公然わいせつ罪ってのはどういうことだ?」
「その……あの……ステージの上で、若い美形の男同士が絡み合って、それを客の女性が見物するというシステムで……」
「もういい、説明しなくて! つうか、女が見物すんのかよ! 何で?」
「ええ、ここも、例の宗教協会やレッド・サブカルチャーとも関係があるのではとされていてね。そういった……アウトローな方々の集まる場所なのよ」
「おい、アウトローって、そういう意味で使われてるのか? 結構、不良的には好きな言葉なのに、一気に嫌いになったぞ」
つまりだ、あの野郎はそんな変態バーに俺を誘ってるってのか? 冗談じゃねえ。誰が行くかよ。
もうやめだ、やめ。
今日は色々と疲れたりキモかったりしたから、こういう時はコスモスを胸に抱いて寝るのが一番癒されて……
「とにかく、行かないことをおすすめするわ。この、『サンクチュアリ・イケブクロ』にはね」
――――――――――――ッ!?
「………………………………………………」
「………………………………………………」
ただ、店の名前を読み上げただけのホワイト。
しかし、その店の名前に俺とニートだけは全身が震い上がるほどの勢いで、身を乗り出していた。
「ど、どうしたの? 二人共」
思わず驚くホワイト。
「ニート」
「おっ、おおお……あ~……」
さて、俺たちもどうしたのと聞かれても……
とりあえず、ニートは尋ねた。
「なあ、ホワイト。ちなみに、イケブクロってどういう意味か教えて欲しいんで」
「イケブクロ? ああ、それはね、さっきも言ったけど、例の宗教協会の教祖が言っていたものよ。いつの日か、聖地イケブクロを生み出すとかって。どういうものかは分からないけれど」
聖地イケブクロ? 聖地…………
「いや、聖地の意味も分からねえし、やっぱ偶然だよな、ニート? あ~、ビックリした」
思わず、前世に関連した何かだと思ってメチャクチャビックリしたが、そうでは無さそうだな。
俺は気が抜けてシートに深く体を預けた。
だが、ニートは違った。真剣な眼差しで拳を握っていた。
「ニート?」
「……ヴェルト……お前はオタク文化知らないから分からないんでアレだけど……多分、偶然じゃないんで」
「なに?」
「イケブクロ……池袋……そこは、乙女ロードと呼ばれるボーイズラブを取り扱う女性向け店舗が多数点在し、オタク界ではこう呼ばれてたんで……腐女子の聖地」
…………………………………………おい…………ちょっと待て。
「どう……思う? えっ、これって、そういう展開か?」
「まだ、どういうものかを把握してないからアレなんで断定できないけど……もし、そこで取り扱われているものとかが、俺の想像通りの物なら、多分、十中八九。というより、俺、既に一人心当たりがあるんで」
「……マジかよ………」
まさか、これは、来るのか? 久々の、クラスメートの……
「っというより、ネーミングがニューヨークとかテロリストどもが叫んでいたサブカルチャーのジャンル的なもので気づくべきだったんで……ひょっとしたら……神族にも」
「居るのか? 俺たちの……クラスメート……」
「まあ、捕まって冷凍されてるみたいなんで、今は居ないんだろうけど」
こりゃまた、もしそうだとしたらかなりメンドクセーことになっちまったな。
でも、断定できねーし、気持ちわりーし、そうかもしれないと思われるやつは今冷凍されてるんだろ?
「だったらほっとくか? メンドクセーし、先生には内緒で……」
「…………………………………………」
「つーわけにもいかねーよな……俺、先生に嘘つこうとするとすぐバレるし……まあ、ガキの頃から先生には何でも話せって言われてたからな」
う~~~~~~わ~~~~~、死ぬほどなんかめんどくせえ。
ぶっちゃけ、もう残りのクラスメートは、俺全然よくわかんねーんだけど。
気づかなきゃよかった。知らなかったらよかった。わからないままの方が良かった。
だが、流石に、そのままじゃマジーか。
「ニート……そこで扱ってるもんが分かれば、断定できるか?」
「…………多分…………」
となると、もうやることは一つだけか。
俺はイラついて頭を掻きむしり、どうしてこうなったのかと叫びたい気分だった。
でも、コスモスが起きちゃうからそれもできねーし、あ~~~~~、もう!
「……おい、リガンティナ」
「ん?」
「今晩、コスモスを見といてくれねーか?」
膝の上でスヤスヤ眠るコスモスを俺はそのままリガンティナへ手渡した。
「婿殿、一体何を?」
「バスティスタ、多分大丈夫だろうけど、お前は皆を頼む。守るのはコスモスだけで、あとは見張りだ。エロスヴィッチとかが馬鹿やらないようにな」
「なんだ?」
行くしかねーんだよな、ココに。
「おい、ホワイト、この店、ここから近いのか?」
「えっ? え、ええ。ここから見えるツインタワービルの下に広がる繁華街に……って、ヴェルトくん、まさか!」
案の定、場所はすぐ近くっぽいし、仕方ねえ。
ちょっくら、見てくるとするか。
俺は、リムジンのドアを開けて身を乗り出す。そして、ニートに振り返ると、露骨に嫌そうな顔をしてきやがったが、既に諦めている様子だ。
「ちょっと、危ないわよッ!」
「だいじょーぶ、俺、飛べるし。んじゃ、ニート、んで、ムサシ、……あとはペットでいいや、行くぞ」
「へっ? 殿!?」
「えっ? ヴェルトくん、ちょ、どういうこと!」
止めようとするホワイトを背中に、俺はスカイダイビングのようにリムジンから飛び降りて、メガロニューヨークの百万ドルの夜景を見下ろしながら夜間飛行となった。
んで、飛べないニート、ムサシ、ペットには、ちゃんとレビテーション。
「は~、メンドクサいんで、ほんと……今度からジュース屋は、エルファーシア王国から移転しよう、ほんと……もう二度と巻き込まれたくないんで」
「殿ッ! いったい、どういうことでござる! 何処へと? もしや、先ほどの怪しい男のところに? ダメでござる! 殿に何かあったらどうするでござる!」
「ヴぇヴぇ、ヴェルトくん、何があったかはしらないけど、何で私まで? その、えっと、私、何で?」
諦めて身を任せるニートに対し、混乱中のムサシとペット。まあ、この二人をセレクトしたのには理由があった。
「ムサシ、俺の身に何かあったときのために、お前に来てもらうんだろうが」
「ッ!」
「頼りにしてるぞ~」
「ははっ! この身に変えてもッ!」
ムサシはこれでOK.。
「ペット、お前はオマケだ」
「なんで! もし危険とかなら、リガンティナ皇女とかのほうがいいのに!」
「お前な~、エルファーシア王国騎士団の人間のくせに、エルファーシア王国の姫と結婚する男の護衛が嫌なのか?」
「なんで! それ、絶対理由嘘でしょ! 嘘に決まってる。本当はどういう理由なの?」
ムサシとペットを連れてきた理由?
決まってる!
俺たちはノンケだとアピールするためだ!
そんな変態バーに、俺とニートの男二人だけで行けるわけねーだろうが!
それに、今回はちょいと真面目に確認したいこともあるし、リガンティナとエロスヴィッチが暴走したら、余計に混乱しちまう。
だったら、ムサシと、常識人のペットの方が連れてくなら良い。
そう思ってたのに…………
「ずるくない? ヴェルトくん」
「あっ……………………」
「さっきの男を殺しに行くんでしょ? 僕も行くから、僕があいつを殺すね?」
四人だけ。
誰も暴走しないようにと選定したのに、気づけば俺たちの真上に、自前の悪魔の羽でパタパタ飛行するジャレンガがニタリと笑っていた。
「だから、お前はくんなああああああああああああっ!」
本日、二回も叫ぶとは思わなかった。
やべえ、もう既に不安しかない。
ついに500話! まだまだいくで! 引き続きよろしくお願いします!
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