第478話 そして客がまた……
「ったく、先生の言うとおりだぜ。つか、早く帰れよ、お前」
「むむむ、ひどいのだ、ヴェルトッ! それならば、早くわらわの入国許可にあたって、一筆カイザーに書いて欲しいのだ」
「だーれが書くかッ! テメェは二度と俺の国に足を踏み入れるんじゃねえッ!」
「それは殺生なのだーッ! お前はわらわへの恩を忘れたのだ? わらわが居たからこそ、お前は嫁たちで童貞を捨てられたのを忘れたとは言わせないのだッ!」
「テメェの所為でとんでもねーことになったんじゃねえかよっ! ムサシも含めてなっ!」
「なんだとーっなのだ! ヴェルトのおったんこなすなのだ! いけずなのだ!」
あ~、マジでやかましい。マジでうるさい。マジで早く帰んねーかな、こいつ。
もう正直、扱いに困る。
いっそのこと、力づくで追い出すか? いくら前・四獅天亜人とはいえ、俺とバスティスタの二人なら、こいつ一人ぐらいは…………
「ほうほう、匂うな匂うな匂うな。原始の文明とは思えない深みのある香りだ」
…………………………………………?
「へい、らっしゃいっ!」
客のようだ。コロッと態度を変えて接客する先生は流石だが、騒がしかった店内も、思わず静まり返った。
それは、突如入ってきた客が、ペットがセクシーパンツ穿いていたことよりも、妙な連中だったからだ。
「グリーン、勝手な行動は取るな。我々の目的はただの調査だ。寄り道している暇などないゾ」
「ガッハッハ、お~い、パープル、少しぐらいはいいじゃねえかよ~。俺もグリーンの気持ちは分かるぜ? 何千年ぶりに繋がった世界だ。俺たちはその歴史的瞬間の体験者。辞典や博物館でしか見れない世界を堪能したいと思ってもな。そう思わねえか? アイボリー」
「オレンジさん、ダーメだよ。総督からも言われたじゃん。まだ、空間は安定してないから、地上人との接触やトラブルは極力回避って。ブルーも言ってあげてよ」
「ふん、関係ない。俺は自分の仕事をするだけだ。地上世界調査の課題は完璧にこなす」
何だ? この戦隊ものみたいな色の呼び合いや、やり取りは。
いや、それ以前に、こいつらは何だ? 客も全員キョトンとしてるじゃねえか。
「一応言葉は通じるかな? おい、そこの猿。とりあえずこの店で一番うまいものを持って来い」
緑髪の真ん中分けで、少し肩にかかるぐらいの男。
なんか、人をスゲー見下した態度で、いきなり椅子に座って足組んで、俺に向かって指差して指図しやがった。
グリーンと呼ばれた男。
「おい、携帯食があるのに、本当に食べる気か? この『地上世界クラーセントレフン』の今の文明を見てみろ。衛生面などとても期待できないゾ?」
少し強気な紫色のショートカットの、ちょいカチンとくる女。
「まーいーじゃねえか。郷に従うのも調査の一環だぜ?」
一番背の高い大柄の男。身長だけならバスティスタぐらいあるかもしれねえ。
オレンジの角刈りとイカツイ顎が特徴的だ。
「は~あ、お腹壊したらどうしよっかな~」
小柄の象牙色の髪の毛の女は、何かツインテールっていうのか、なんかこういう髪型久しぶりに見た気がした。
「俺はいらん。そして早くしろ。滞在時間は限られている」
そして、いかにも「俺はクールな男ですよ」的な美形で背の高い男。
青髪のオールバックで、不機嫌そうに座っている。
「え~……んじゃ、あんたらの注文は、とんこつ四つでいいな?」
全員年齢的には若そうで、俺とあんま変わらないかもしれねえ。
とりあえず俺はそう言って厨房にオーダーを出した。
ぶっちゃけ、あのグリーンとかいう奴の発言にムカつくよりも、まずはこの何とかレンジャーみたいな五人が何なのかが非常に気になった。
「おい、ヴェルト、何だありゃ?」
「先生、俺にも分からん。ただ、少なくとも……あいつら、なんか違う」
そう、何かが違う。それは、あまりにも『この世界』に『不似合い』な姿だからだ。
「何やら、面妖な連中なのだ」
エロスヴィッチがそう思うのは無理もない。
まず、五人はそれぞれ、『自分の名前と髪の毛と同じ色の服』を着ている。
だが、その服がまず問題なんだ。
なんつーか、防弾チョッキのようなジャケットを羽織って、その下は何かピッタリとしたウェットスーツ? エルジェラが着ているようなものを着ている。
ただ、その改良型のように、肩、膝、肘には、メタルのような装甲がされている。
そして極めつけは、全員右目が眼帯のようなものを付け、その目の位置にはレンズのような人工的なものが装着されている。
うん、ぶっちゃけ本当に何だ?
人間? には見えるが…………
「ヴェルト、あんたのお友達じゃないよね?」
「おい、怪しい奴は全員俺の友達的な考えはやめろよ」
と、ハウに言ったものの、何か嫌な予感がしてきた。
「ヴェルくん、トンコトゥ四つね」
「あ、おお」
まあとりあえず、客は客だ。
俺はとにかく注文通り、とんこつ四つを運び、そいつらの目の前に置いてやった。
すると…………
「むむっ! これはっ!」
「まさか、『ラミアン』! うそ? これは、『ラミアン』か!」
「なんてこった! 戦争ばかりで文明そのものは発達してねえ地上も、料理の進化は遂げてたってのか!」
「うん、これ、スープの香りやミェンの太さが違うけど、紛れもなくラミアンだよっ! まさか、あの大天才『イェンスァ』と同じ発想を持った生命が地上に居たなんて、驚きだねッ!」
「………………ほう…………………………」
なんか、普通に驚かれたが、驚き方がまた普通じゃない。
「いや、これ、ラミアンじゃねえよ。ラーメンだよ。発音がチゲー」
「むっ? おい、原始人。だから、ラミアンだろう?」
「…………だから、ラーメンだっつてんだろ! ぶっとば――――はぐっ!」
と、俺が叫んだ瞬間、先生に後ろからぶん殴られた。いてーっ!
「店員が失礼しやした。どうぞ、自信作です。召し上がってくだせい」
「ぐっ、せ、せんせー」
「馬鹿野郎が。お客様になんつー口の聞き方だ」
先生に頭を掴まれて無理やり頭を下げさせられた。
いや、だって、なんかムカついたんだけど。
「ふっ、なーに、原始人に礼儀は求めないさ」
「だから、グリーン、お前もそのような挑発するような発言は控えろ」
「いや、でもこれは、おおおおお、うめーぞ、これっ!」
「うんうん! ラミアンとスープの味が違うけど、十分イケって!」
先生に押さえつけられたものの、一言多いな、あの緑野郎!
まあ、うまそうに食ってくれるから別にいいけど……………………ん?
「……………………先生」
「ああ」
その時、俺たちはあることに気づいた。
それは、こいつらが問題なくラーメンを食えていることだ。
なぜなら、こいつらは、ラーメンを「箸」で食っている。
正直、この世界ではこの店以外で箸というものが無い。フォークとナイフとスプーンの世界だ。
それなのに、ラーメンは初見なのに箸は使える? 妙な違和感があった。
「ふむふむ、なかなかのものじゃないか。『クラーセントレフン』など、とっくに廃墟のようになっていると思っていたが」
「確かにな。そもそも、領土争いで種族間同士で戦争をしていると思ったのだが、そういう空気は今のところ無さそうだ」
「だよな~。予定じゃ『ドア』を封印して、来るべき日に改めて完全開放して、地上の生物を一種に完全統一、そして『ハルマゲドン』に備えるっていう計画だろ? ひょっとして、地上人は忘れてるんじゃねえだろうな。それとも、その使命を受けた奴が死んでるとか」
「あっ、かもしれないね。もしくは、『鍵』と『代行者』が見つかってないとかもありえるんじゃない?」
「となると、計画は全てご破算だぞ? 決して互いに交わらぬ地上生物を一種に統一させ、我らの手足となって動く駒を大量に手に入れ、『ハルマゲドン』に挑むのが先祖より伝えられた計画。これでは、『モア』には勝てんぞ」
何やら、秘密で重要そうな会話で自分たちの世界に入っている五人組の声のトーンは真剣そのもの。
「それは困るな。もし、地上人たちが自分たちの意思で戦争をやめていたとなると、予定が狂うのではないか? どう思う、パープル」
「お前の言うとおりだ。表面上友好に振舞おうと、性質がまるで違う種は、数が多くとも統制が取れない。特に、獣や悪魔の混じった種族は我が強く、私たちの命令も聞かないだろう」
「だよな~。だからこそ、一番扱いやすい人間だけを地上に残して他は処分する計画だろ? そのために俺たちは先祖代々力を蓄えたってのに、地上の代表者の『ミシェル』ってのは、何をやってんだ?」
「っていうか生きてるのかな~。なんせ、大昔の話だし」
「生きていなければ困るな。奴は、『モア』と戦うえでの切り札だ。となると、地上の調査よりも『ミシェル』を探す方が先決か…………」
そして、何やらただならぬ予感と匂いがプンプンだな。
俺も、バスティスタも、そしてあのエロスヴィッチも、表情が同じく真剣そのもの。
すると、その時だった!
「ただいまーっ! とーちゃん、出前行ってきたよー」
「パッパ、コスモスも手伝った! だっこーーーーっ!」
「マスター! ハナビ殿の警護、無事達成したでござる! 殿、任務は無事……はう、と、殿……あ、あのぉ、と、殿……いやん♥ う~、殿の顔がキラキラしていて直視できぬでござる。えへへ、そんな殿と拙者は……にへへへ♥」




