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第32話 ダチの娘から祝福のチュウ

「ッ、仕方ありませんね」


 今のギャンザは、武器をさっきの戦いで壊されているからお互いに素手だ。

 そして、まだお互いに僅かに距離がある中で、向かってくる敵を退けるなら魔法しかない。

 ギャンザが俺に向けて魔法を放とうとする、その瞬間を待っていた。


火炎フレイムの……」

「当たれ!」

「が、ッ!! なっ?」


 ギャンザが魔法を使おうとした瞬間を見計らって、俺は仕込んだ手を放つ。

 しかし、ギャンザは天才的な反応と勘で魔法をキャンセルして、その場を飛び退いた。

 突如、ギャンザの真上から落下してきた何かは、大きな音を立てて地面に突き刺さった。

 それは、初めに俺が投げた警棒。


「な、なぜ、この武器が真上から!」


 驚くのも無理はねえ。


「さっすが! これも避けるか!」


 

 俺は、最初に投げた警棒はギャンザに避けられた後、俺の登場や鮫島とのやり取りで全員が俺に注目している間に、浮遊レビテーションで浮かせ、ギャンザの丁度真上になる位置の天井付近で待機させていた。

 タイミングを見計らって魔法を解除して、ギャンザに向けて落とすように。

 ある程度の距離であれば、俺は一度触ったものは浮遊レビテーションで浮かせることができる。

 ラーメン屋の修行で、皿を何度も運びまくって気づいたことだ。

 これが、俺が考えついた、唯一できる魔法での戦い方。


「それ!」

「ッ!」


 そして、僅かに動揺したギャンザに向けて、俺は自分がこの大空洞に来てから今に至るまでの間に歩いたりして足の裏で踏んで触っていた地面に魔法をかける。

 さすがに地面全体なんてものは無理だけど、戦いで割れたり砕けたりした地面の破片や石とかぐらいなら浮かせることができる。


「そらァッ!! 全身に痣でも作りやがれッ!」

 

 大小無数の石を浮かせ、一斉にギャンザに向けて放つ。


「礫ッ?! これは土魔法!? 小賢しい……アースウォールッ!」


 ギャンザが咄嗟に地面を触れて俺とは違って本当の土魔法で壁を作って、俺の礫攻撃を防ぐ。

 だが、こんなもので倒せるとは俺だって思っていない。今のうちに、俺はさっき落下した警棒を浮遊レビテーションで浮かせて、自分の手元に戻すことに成功した。

 これも、ギャンザたちも目を見開いている。


「武器が、勝手に手元に戻っ……」


 浮遊レビテーション

 それは、重いものを運ぶ時にしか、この世界の連中は使わない。

 誰でもできる魔法だからこそ、深く追求しようとしない。

 だが、俺はこの魔法こそ極めれば最強になれると確信した。


「とにかく、坊や。少しおいたがすきますよ? その武器を、取り上げさせてもらいましょう!」


 浮遊レビテーションは、例えれば重いものを運ぶための台車だ。

 台車を武器にして戦う奴は誰もいない。

 だからこそ、みんな、気づかないんだ。

 ましてや、雷とか炎とか、魅力的な魔法がいっぱいあるのに、台車の扱い方を極めることを努力する奴なんて、この世にいるはずがない。

 俺を除いて…………


「へへ、そんなに取り上げたいなら……それ、パース!」

「えっ……」


 俺に向かって走ってきたギャンザ。そんなギャンザに警棒をもう一度投げても、反射的によけられる。

 だが、人間は不思議なもの。

 勢いよく投げられたものは反射的に避けてしまうのに、パスするようにゆっくり投げられたものは、何故か普通に受け取ろうとすることが多い。

 ギャンザも俺がパスした警棒を、訳も分からずにキャッチしてしまった。

 そして、ギャンザは罠にハマった。


「ッ、お、おも、なっ! なんて重さ!」


 警棒をキャッチした瞬間、ギャンザはガクンと腰が曲がり、両手から地面に倒れ込みそうになった。

 驚いただろう? 俺が軽々振り回していた警棒が、実はメチャクチャ重たいことに。


「はっはっはっは! やっぱ、女の細腕だな! パワーがねーな、ギャンザちゃんよお!」


 帰ったら、武器屋のじいさんに礼を言おう。

 俺の感覚から、警棒の重さは通常五百グラム程度。

 だが、俺の警棒は武器屋のじいさんの協力により、百倍の重さに改造してもらった。

 じいさんが、世界でも珍しい重力魔法の使い手だったと学校で聞いた時から考えていた。

 つまり、見かけとは違い、俺の武器は片方約五十キロ。二つ合わせて百キロだ。

 これは、俺が亜人と戦った時に感じた、パワーと体重の軽さを補うためのもの。

 そして、この百キロもある警棒を持ち運ぶ手段が浮遊レビテーションだ。

 そう、俺は警棒を常にホルスターに入れて持ち運んでいるようで、実は、警棒を浮遊レビテーションで運んでいる。

 ホルスターの中で、警棒は僅かに浮いているのだ。

 ラーメン屋で朝から晩までの労働で、浮遊魔法の練度と精度、そして魔力の消費量をどの程度削減できるかの研究を重ねた。

 今では一日のある程度の時間なら、俺は常に浮遊レビテーションを使ったまま生活できるようになった。


「もう一度、礫をくらいな!」

「ッ!?」


 警棒の重さで腰が曲がった状態のギャンザに向けて、俺はもう一度礫攻撃。


「しまっ、くっ、ぐっ?!」


 今度こそ入った。全弾命中。ギャンザが両手を交差して身を縮める様にして体を守る。

 俺はその隙に……


「へへ、武器がいっぱい落ちてら……」


 その辺に多くの死体が転がっている。人間も魔族も含めてだ。

 本来ならその死体に気分を悪くして吐いたりするところだが、今の俺には死体よりも、その周りに落ちている沢山の武器しか目に入らない。

 剣。槍。盾やハンマー。矢。

 俺は少し腰を曲げて、地面に落ちてる武器に手当たり次第にタッチして回った。

 

「大将軍!?」

「あの子供、大将軍になんてことを……いや、今は何をしている?」

「逃げようと……いや? 武器を拾うわけでもなくタッチして……」


 今、俺が何をしているか、人類大連合軍という選ばれたエリートたちの誰もが分かっていない。


「街や路上でのケンカは素手だけじゃねえ……その辺に落ちているものや環境を利用して相手を殲滅する……それが、何でもありの世界……俺の世界!」


 エリートな頭でっかちには、こんな醜い不良の戦法なんか理解できないのかな?

 


「覚えとけ! これが俺の戦法『ふわふわ時間タイム』だ!」



 これが生涯、浮遊レビテーション以外の魔法を習得しないと決めたことにより、俺が得たものだ。



「浮けええええええッッ!!」


「……なっ!?」


「「「「「ッッッ!!!???」」」」」



 俺が触れたすべての武器が宙に浮かび上がり、その刃先を全てギャンザに向ける。

 


「そして、これが俺の必殺! ふわふわ世界ヴェルトだ!」


「土魔法だけではなく……これは……浮遊?」


「ぶっつぶれちまえええええええ!!」



 気づいたところで何ができる?

 俺は一斉に浮かせた武器をギャンザに降り注がせた。


「くっ……こんなもの……風障壁ッッ!!」


 風の障壁。ギャンザを中心に竜巻のようなものが発生し、降り注ぐ刃を全て弾き飛ばした。

 さすがに簡単にはいかねェ。


「ふぅ……タネが分かれば、もう私には通用しませんよ? 坊――――」


 でも……


「ふわふわ回収!!」


 落ちている警棒「一本」を手元に戻す。


「むっ!?」


 そして、竜巻がやんだ瞬間を見計らい、俺は警棒片手にギャンザに飛び掛かる。

 魔法を発動した直後で、またすぐに魔法を発動することはできない。

 ギャンザは素手。この距離なら回避できねぇ。

 たとえ女だろうと……化け物に気なんて使えるか!


「ドタマかち割れろぉぉ!!」


 脳天めがけて俺は重い警棒を振り下ろす。

 魔法も回避もできないギャンザ。しかし、咄嗟に右腕を盾にして俺の警棒を受けやがった。

 だが……


「つぁ……ぐっ……」


 勢いと警棒の重量分の衝撃を細腕で受けたギャンザの顔が歪む。


「将軍ッ!?」

「防いだ……が、いまの、腕が!」


 脳天には当てられなかったが、この手応え。ギャンザもタダじゃ済まねえはず。


「ぼ、坊や……やって……くれましたね!」


 とはいえ、ギャンザも骨にヒビや骨折の一本二本で引き下がるほど柔というわけではない。

 引きつった表情で俺を睨み、流石に怒った様子。

 だが……


「どーん」

「……がはっ!? っ……え?」


 これならどうだ?


「……え? あ……ちょ、あの武器は!?」

「な、なんで、後ろから!?」

「い、いかん!」


 警棒はもう一本ある。どさくさに紛れて待機させていたもう一本を、この瞬間、ギャンザの完全無防備だった後頭部に叩きつけた。

 

「かっ、はっ……がっ……」


 ギャンザもこればかりは完全に予想外だったようだ。


「あ、朝倉……おまえ……」


 五十キロの警棒を無防備な後頭部にガツンだ。

 流石に両足がガクガクと震え、目の焦点も定まらない。

 そして、当然この状況を人類大連合軍たちも、そして鮫島すらも予想外だったようで、完全に呆けてしまっている。


「へへ、どうだ! そして、こんだけ下準備したプレゼント……」


 全てうまくいった。予想以上に。

 その達成感を覚えながら、俺は叫ぶ。


「受け取れ! そして、あとは任せた!」


 その瞬間、俺とギャンザの懐に、銀髪の少女が入り込んでいた。

 誰もが俺たちの攻防に集中しすぎていたために、こいつの存在はこの場においてまったくの予想外。



「ああ、最高のプレゼントだ、ヴェルト。あとで、褒美にキスをしてやろう!」



 ウラだ。


「ウ、ラひ…………め…………?」


 予想外のウラの登場に、ギャンザの全身が硬直している。

 完全に隙だらけだ。

 あとは、魔王の娘であり、いずれ世界の脅威になるとか言われているガキの一撃に任せるだけ。


「くらえ、ギャンザ! 魔極神空手・魔上段まじょうだん蹴り!」


 狙ったのは、完全に無防備なギャンザの顎。 

 素人だって知っている。

 脳を大きく揺さぶられれば、相手は脳震盪などの障害を起こす。

 それは、ギャンザでも同じ。

 ましてや、俺が後頭部を強打してからの一撃。

 父親譲りでキレと破壊力のこもった、ウラの上段蹴りは、一瞬でギャンザの顎を打ち砕き、ギャンザは糸の切れた人形のように地面に倒れ込んだ。


「あっ……かは……あっ……」


 目の焦点が定まっていない表情で、自分に何が起こったのか理解できないまま、ギャンザは立ちあがることができない。

 この光景に、誰もが言葉を失って固まる中、倒れたギャンザを見下ろしながら、俺とウラも興奮で心臓が破裂しそうだった。


「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、う……うまく、……いっちゃったよ…………」

「あ、ああ、私と……お前の力で……あの、ギャンザを……」

「ま、マジかよ、や、やべ、腰が抜けそ……、い、今になって震えてきやがった」

「うん。わ、私も、怖いぐらいだ」


 信じられなかった。

 賭けに近かった作戦が成功してしまった。

 興奮だけでなく、改めて恐怖がこみ上げてくる。もし、失敗していたら?


「つ、つか、あ、あまりにも、う、うまくいきすぎて……ゆ、夢じゃねーよな?」


 情けないが、今の俺は張り詰めていたものが全部切れてしまい、心がまったく定まらない。

 それはウラも同じだった。

 試しに、ウラの手を握ってみたら、俺と同じぐらい震えている。

 怖かった。

 でも、乗り切った。

 勝った。

 そして、これは夢じゃない……って、本当に夢じゃねーよな?


「ヴェルト……あのな、その、あ、の」

「なんだ?」

「その、あれだ……かっこよかったぞ! ん」

「あっ? えっ?」

 

 えっ? なんか、ウラが顔を赤くして何かゴニョゴニョ、モジモジしていたら……


「ん~~」


 あれ?

 なんか、気づいたら……ウラの唇が、俺の唇に押し付けられているんだけど……


「ぷはっ! ……え、えへへ、やっぱり……夢じゃない」

「……お……おま……」

「約束……だったからな!」

「い、いや、だからっていきなり! つか、せめてホッペとかにしろよな! ガキのくせに!」

「む~、いいではないか! キスはお前への褒美だ。唇のキスは、私自身へのご褒美なんだからな!」


 魔王の娘にキスされてしまい、余計に俺の頭が混乱してしまった。

 

 ……で、勝ったはいいけど、この後、俺たちを包囲しているこの人類大連合軍の壁はどうやって乗り越えよう?

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