第309話 正義の戦士たち(笑)
「どういうことだ、ウラ氏、エルジェラ氏!」
「なに? 君たち、まさか、あれ? スパイ?」
だが、ルシフェルとジャレンガの問いかけも、今の二人を見たら違うというのがよく分かった。
「気がかりだったのはね、ウラ姫が裏切ったのか、裏切っていないのかなんだよね」
「………マニーッ!」
「三国と唯一コンタクト取れていたウラ姫にこの作戦を話すと、バレちゃう可能性があったからね、マニーたち黙ってたの。ウラ姫と仲の良いエルジェラ皇女も同じだしね♪ それなのに、いきなり結婚式とかビックリしたよ~!」
ウラは知らなかった。それどころかエルジェラすら知らなかった。
まさか、空が敵になって攻めてくるなんて……
「なんだ、ゴラア! なんか、降って来やがったぞ!」
雲から点々と何かが降り注ぐ。
それは、雨なんかじゃない。
雨よりも、よほど強い意志を内に秘めた、一つ一つの生命!
「あれは、天空王国本国最強、お姉さまの部隊、断罪の戦乙女騎士団!」
「ちょっと待って! 天空族だけではないわ……あれは、あの旗は、人類大連合軍!」
「バカな、天空族と人類大連合軍だと!」
白き翼を羽ばたかせ、まるでスモーキーアイランドの再現のように降り注ぐ戦乙女天使たち。
さらに、天使以外にも、甲冑に身を纏った騎士。グリフォン、飛竜、ペガサス、飛行能力を持った騎獣に跨って、降り注ぐ。
これは、どういうことだ? 天空族と人類大連合軍が同時に攻めて来た?
「ジーゴク魔王国の援軍に向かったのは、マーカイ魔王国、そして四獅天亜人のユーバメンシュ、エロスヴィッチ軍だよ」
いや、どうもこうもないな。これは明らかに……
「飛び出しすぎですよ、マニーさん」
「先行して飛び出したときは肝を冷やしたがな」
降り注ぐ軍勢の中、日筋の光の柱が前方の砂漠に向かって伸びた。
光の柱は円状に、魔法陣を描き、その中央には二人の男が降り立っていた。
ああ、あの二人かよ。
言葉を失う仲間や魔王様たちの反応を尻目に、敵国のど真ん中に堂々と降り立った二人が名乗りを上げる。
「僕は、アークライン帝国第一王子にして、人類大連合軍所属! 光の十勇者が一人、人呼んで、真勇者ロア!」
「エルファーシア王国大将軍が一人、及びラブ・アンド・ピース社長代理にて、聖騎士の一人! タイラー・リベラルである!」
勇者と聖騎士が、魔王の世界へと乗り込んできやがった。
「に、兄さん!」
「タイラー将軍!」
「……勇者ロア……見違えるほど成長したゾウ……」
「おのれ、なぜだ! なぜ、余がこやつらの接近を気づけなかった!」
七大魔王も俺たちも関係ない。突如怒涛の勢いで現れた天空族、人類大連合軍、聖騎士。
種族問わずに轟くその名前は、この城に常駐しているネフェルティたちの部下たちを大きく震え上がらせた。
「魔王ネフェルティ! 魔王ラクシャサ! そして、ヤヴァイ魔王国のジャレンガ王子! あなた方がそこに居るのは分かっています! 僕たち世界同盟に反発し、ようやく結ばれようとしている世界平和に破壊をもたらそうとしていることも! それを止めるため、僕たちはここに集いました!」
勇者の輝く剣を砂漠の上に突き刺し、二年前よりも更に精悍な顔つきと、男らしさを増したロアの言葉が、砂漠に響いた。
「これまで何百年もの歴史と共に流された血と、積み重なった屍。その果てにようやく実現しようとしている平和を、友好を、未来を、何故あなたたちは壊そうとするのですか!」
だって、ウソなんだから……と、この場で誰もツッコミを入れるのすら忘れるほど、この城は包囲され、そして勇者ロアの強い声には力が篭っていた。
「この光景が見えますか? 今この場には、そして違う場所でも、人類が、亜人が、魔族が、天空族が、異なる種族が同時に動いています! 誰が上でも下でもない、自分の信じる正義の元に、一つになろうとしています! 互いを憎み、殺しあった過去は変えられなくとも、今を、そして未来を変えることはできるのです! それが、今の僕たち、今の世界です!」
だから……そういって、ロアは突き刺した勇者の剣を抜き、そしてこちらへ向けて叫んだ。
「だから、どんな大義があっても、あなたたちから守ってみせます!」
するとどうだろうか? 天で待機する騎士や天使たちから腹の底から唸るような声が響き渡った。
「「「「ウオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」
世界を破滅に導こうとする魔王を許さない。みんなで力を合わせて倒すんだ。
なるほどな。そういう筋書きか。
「兄さん……」
「いや~、アルーシャちゃん、君のお兄さんマジメだけど、なんかウザイね」
「だが、ミーと戦った時より強くなっている」
「ふん、またゴミが……」
「なんや、えらいお利口さんの目やな」
「ウザイね、殺しちゃうよ?」
「あれが、勇者、ロア氏か」
「余の国を荒らしおって……許さぬ!」
言いたい放題言ってくれるロアに対し、こちらはどうだ?
驚いたり、評価したり、中には微妙な反応だったりそれぞれだ。
まあ、真実を知ってる側からすると、微妙なところだが……
「しかし、まず、確かめておきたいことがある!」
その時、ロアの隣に居るタイラーが口を開いた。
「この国に居ると思われる者たちについて聞きたい! ウラ姫! エルジェラ皇女! マッキーラビット! 四獅天亜人のカイザー! 浮浪鬼魔族キシン! そして………」
あの日、政府の監獄から脱獄した四人。そして、マッキーの所為でその一人とウラが写ってるところが世界にバレた。それともスモーキーアイランドでの一件がこいつらの耳に入ったか?
一人一人の名前を呼び上げるタイラー。しかしその表情は明らかに苦しそうだ。
そして……
「そして……ルト……ッ、ヴェルト・ジーハがこの国に居るはずだ! 居るなら出てきてもらいたい! 話がしたい!」
だから俺は言われたとおり……
「ふわふわレーザー!」
出て行ってやるよ。
「………ッ、ぐうっ!」
「え………た、タイラー将軍!」
タイラーの腿を、全方位自由に打ち出せる新技レーザーで撃ちぬき、そして……
「ほら、出てきてやったぜ」
光速の動きで、離れた距離に居たはずのタイラーの懐に飛び込んで……
「ヴェ……ヴェル……」
俺は二年間監獄に閉じ込められ、タイラーとは何度も会った。
だが、こいつには恨み言は特に言わなかった。こいつが間違ってるとも思わなかったし、おれ自身の答えも分からず、ただ俺は無意味な日々を過ごすしかなかったからだ。
それが逆にこいつを追い詰めたのかもしれない。
恨み言の一つでも言えば、こいつは逆に心が救われたのか?
それはもう分からない。だが、今はもう違う。
「いよう!」
もう、俺とこいつの道は完全に別れたのだ。
だから、これはそのケジメの一発だ。
そして、後戻りしないという決意を込めた覚悟の一発。
「歯でも抜けやがれ!」
光を纏った光速の拳を、タイラーの顔面にぶち込んでやった。
一瞬目が合い、俺のことを、心の底から申し訳ないと謝罪した瞳で涙を流しそうだったタイラーの顔面を、俺は殴った。




