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異世界クラス転生~君との再会まで長いこと長いこと  作者: アニッキーブラッザー
第六章 ギャルとロックとカオスな大戦争(15歳)

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第205話 まったりした日の始まりと終わり

 昨日のことは無かったことになった。

 半狂乱して暴れまわるフォルナを十勇者やファルガが押さえ込み、問題は強制的に流した。

 まあ、その、なんだ? 俺と綾瀬が事故ってトラブルったが、うん、事故にした。

 綾瀬は随分と早口言葉で色々とまくし立てていた。



『まったく、この程度の事故で騒ぎ過ぎよ。はっ? ああ、今の粘膜接触の事故のことね? 今のは明らかに事故であり、君を責めることはできないのだけれど。 キス? 何を言っているのかしら。そもそもキスというのは、動作と心の重なりがあって初めて成立するものであって、今のは決してそうとは呼べないと思うのだけれど。それとも君は人工呼吸ですらキスと見なすのかしら? そのような邪なことを考えるような程度の低い頭と心構えではイザという時には何も救えないと知りなさい。それでもカウントするというのであれば、反省の仕方を改めるべきだと思うのだけれど。もし、仮に、万が一、億が一、兆が一、キスだと見なされるのであれば、女の唇を奪った罪というものは男の軽い頭を角度を変えて下げた程度のことで水に流されるようなものではないとはずよ。君はそんなことすら考えるに至らない思慮の浅い人間なのかしら? 例えば、帝国の姫を穢したとして打ち首。でも、いくら私でも君にそこまでのことはできないわ。ならば、男としての責任を取ってもらうなら、結婚とか? でも、君はフォルナのものであり、将来はエルファーシア王国の王になる人。さすがにそんな人に対してそんなことができるはずもない。だいたい、私も友人の恋人を奪うような真似はできないからね。でも、考えようによっては、ありえない話でもないわね。君がエルファーシア王国の王になるということは、后を複数取ってもおかしくないのよね? 実際、ウラ姫はそういう形で君と一緒になるでしょうし。それに、私は帝国の姫とはいえ、実際に国を継ぐのは兄さんの方。私はというと、他国の王族か貴族との政略結婚でもして国の発展に繋がるような役割を果たす必要がある。ならば、私がエルアーシア王国に嫁ぐことになったら、むしろ国同士の繋がりも強固になるわけだし、全然おかしい話ではないじゃない。でも、帝国の姫が他国の王の正妻ではなく側室というのは帝国としてのメンツもあるのだけれど、でも、エルファーシア王国にはそれだけの魅力もあるわけなのだから、つながりを持つことは絶対に悪いことではないのよね。つまり私がエルファーシア王国に嫁ぐことは、何も悪いことがないどころか、メリットの方が大きく、というよりも、良縁過ぎて普通なら帝国側から申し入れしてもおかしくないぐらいのことで、むしろ私と君が結婚しないというのはおかしいことではないの? ただし、もし京が一、私とあなたが結婚したとして、そして子供ができたとして、当然そこには大きな問題が発生するわ。それは子供の名前よ。子供の名前はエルファーシア王国風の名前にするのかしら? でも私と朝倉くんなら、日本風の名前の方がしっくりくると思わないかしら? それこそ、『サクラ』『ヒマワリ』とか。でも、君は分かっている? 子供を作るということはその前にやることがあるのよ? そう、私と君と、その、朝倉くんとその、え、えち、えち、え、エッチとか。そう、君は想像以上にエッチな人。温泉でのフォルナとの一幕でそれを十分と理解したわ。でも、困ったことに、私はフォルナのように人形のような綺麗な体でも、ウラ姫のように美しい脚とか、エルジェラさんのように素敵な胸や、備山さんのようなイヤラシイ体つきでもない、そう、つまり私が君好みの体でない場合、君が私の体を抱いてくれるかという問題も発生するのよ。でも、それは、媚薬やチャームの魔法でも使えば無理やりできなくはないの。ただし、できれば使いたくはない。それにそもそも君とどうやってそんなシチュエーションに持っていくかが重要よ。そう、ただでさえ側室候補が多い中でどうやって君の寵愛を勝ち取るか。誘惑……こ、こうやってスカートの裾を上げて……み、みせ、みせた、下着を、み、見せて……って、これではただの変態ね。下着を見せて誘惑なんて備山さんと同じ手を使うなんて、私のプライドが許さないわ。それに前世でも君はピクリとも反応しな……今日、どんな下着を履いてたかしら………と、えっと、とりあえず後でお気に入りに履き替えておくわ。と、話が脱線したわね。つまり私と君には色々と問題があるわけよ。だいたい、一番の問題は君の方からは気の利いた言葉なんて言わないことよ。つまり、そうなると私の方から観念して言ったほうがいいのかしら? 君は絶対に言ってくれないだろうし。でも、どう言おうかしら? 朝倉くん、私と結婚しなさい……偉そうに聞こえるわね。何様のつもり? とか、君に言われてしまうわね。だから、今のはなしよ。改めてもう一度。……朝倉くん、君と一つになりたいわ……。いいえ、これではただの欲求不満な売女ね………オーソドックスに……生まれ変わっても君のことがずっと好きでした。私と付き合ってください………でも、側室とかならまだしも、まだフォルナと結婚していない段階で彼女にしてくださいなどと言っても、どう考えても無理ね。ならば、変化を………将来的には家族になりたいと伝わるようにしたほうがいいわね……よし決めたわ』



 一体あれはどれぐらい続いていただろう。一人でキリッとしたり顔を赤くしたり、照れたり、またキリッとしたりの一人劇場を陣営のど真ん中で繰り広げた綾瀬に対して一同がドン引きして……



『これからも末永くよろしくね、朝倉くん。お互いいい関係を築いていきましょう』


『何が?』



 マジで何が?

 半分以上、何を言ってんのか全然分からなかった。

 だが、それで完全に頭がパンクしたのか、綾瀬はそのまま電池が切れたかのように気を失った。

 その表情が何だか幸せそうで身悶えた感じで、とりあえずこの日見た光景は、ただの幻だったと俺たちの中に刻み込まれて、綾瀬の立場を考えて決して他言はすまいと俺たちは誓い合って昨夜は幕を閉じた。



「ふわ~あ、なんか精神的に色々とありすぎて疲れたな」



 天幕から顔を出すと、神族大陸の朝の太陽が登っていた。

 陽の光は眩しく、僅かな雲しかかからぬ美しい青空。

 スケールのデカイ大自然に、澄んだ空気。

 まあ、ハッキリ言って人類大陸と対して遜色のないと言ったらそれまでだが。


「おっ、ヴェルトくん、おはよ!」

「ヴェルトの兄ちゃん、昨晩はお楽しみだったかい?」

「英雄様、おはようございます!」

「ヴェルト様!」


 それにしても、常に最前線で何万もの命を懸けて殺し合いをしていた連中は、俺のような異物に対してピリピリした雰囲気を見せるどころか、顔を見せれば気さくに話をしてくる。それは、エルファーシア王国を思い出させる光景だった。


「よう、シャウト、バーツ」

「よっ、起きたかヴェルト」

「やあ。その様子だと、昨晩は穏やかだったようだね。まあ、フォルナ姫とアルーシャ姫は失神して、ウラ姫は再会した仲間たちと過ごし、エルジェラさんだったかな? 子守で忙しかったみたいだし。……ねえ、ところであのコスモスって子は本当に君の子供なのかい?」

 

 こうして昔馴染みもいる空間は居心地がよく、何だかんだで俺は馴染んでいた。


「おい、あっちだってよ!」

「ロア様の立会の元、あの『暗黒剣士レヴィラル』様と『緋色のドラゴンスレイヤー・ファルガ』様が、早朝組手をされるそうだ!」

「すっげ! マジかよ! ぜってー見ねえと!」

「あの二人、十年ぐらい前からライバル同士って聞いたけど、ほんとだったんだな!」


 ジーゴク魔王国たちもどうやら本当に立ち去ったようで、今のこの陣営にはそれほど緊迫した空気はない。


「ほれ、こーするとほら、ネイルまじ綺麗っしょ!」

「す、すっご~い、亜人の世界にこんなオシャレがあったなんて知らなかった。ねえねえ、ホークもやってもらいなよ」

「そうね、サンヌのそれ、すごい綺麗。ねえ、あの、黒姫さん? 私もお願いしていい?」

「お~、いいよ、つか、あんたら素材はマジいーんだからさ、戦争ばっかしてないでオシャレしなよ。好きな奴とかいないの?」

「えっ、ええええええ! わ、私は、その、い、いるけど、だ、だから、ここに居るっていうか」

「ちょ、別にオシャレと好きな人は関係ないでしょ。そ、そりゃ~、気になってる? 人は、居なくはないとは言い切れないわけで……」


 備山やママンも亜人というある意味で異質なものも、異質を通り越した異常な存在であるがゆえに、もはや細かいことを言うのもアホらしくなったのか、チョッカイ出すやつもいない。

 まあ、ママンという世界最強のガードが居る以上、チョッカイ出すとかそんなことはありえねーわけだが。


「では、これが、今日のイエローイエーガーズの班編成とするわ」

「「「了解!!」」」


 綾瀬も昨日の壊れっぷりはすっかり回復。

 それとももう昨日のことは忘れてなかったことにしたのか、朝のイエローイエーガーズのみの集会をしているようで、キリッとしたリーダーの表情をしている。


「次に、私から昨日の報告をするわ。え~、とうとう私は彼とのファーストキスを………って、なによこれ! わ、私は軍の公式の報告書になんてことを……しかも、お父様に回覧される物になんてことを書いているのよ! し、しまった、日記帳に書いたつもりが朦朧とした意識の中でこっちの方に……!」


 ………まあ、元気そうだ。ちょいと今、目があったり、関わったりすると何だか恥ずかしいので見なかったことにしよう。


「殿~~~! 散歩されるのなら拙者に一言を! どこに伏兵が紛れているか分かりませぬ!」

「なんだよ、ムサシ。ここは今、一番安全なところだぞ?」

「なりませぬ! なりませぬから~、拙者を置いてどこかへ行くのはやめてくださいでござる~~~!」

「だ~、もう、泣くな泣くな!」


 まあ、とにかくだ。ここんところ、天空世界だったり、亜人大陸だったり、鬼との戦争で激戦と衝撃の連続だったから、少しはまったりした空気を味わってる気がする。


「あら、ヴェルト様! おはようございます。ほら、コスモス。ぱーぱにおはようでしょう?」

「おっはよ~う。弟くん! いんや~、昨日はコスモスちゃんの泣き声に寝不足で寝不足で……」

「あだだぶばば!」

「おお、エルジェラ、クレラン、コスモス」


 できれば、しばらくはこのまったりとした空気でのんびりとさせて欲しい。

 今俺が考えているのはそれだけだった。

 世界の行く末やら神族やら、ましてや組織のリーダーなんて問題は後回しにして…………


「ヴェルト、もう、そこに居ましたの!」

「フォルナ? よう、おはよ」

「ようではありませんわ! 全く、昨日はどうされたのですの? ワタクシ、気を失っていたようですけど、誰かとイチャイチャしたりしてませんわよね!」

「ああ、大丈夫大丈夫」


 今は、このまったりした空間のまま……



 ……まったり? それは無理な話だと分かっていたはずなのに、俺はそう願わずには居られなかった。



 今のこの空間、この日、この光景は、ある意味では俺にとっての理想でもあった。



 もうすぐその全てが終わる………いや、消えてしまうというのに。



 俺はこの時、まだそれを分かっていなかった。



「ヴェルト。ちょっといいかい?」


「……ハウ?」


「話があるんだけど」



 自然と笑が溢れるような朝のひとときを過ごしていた俺の目の前に、ハウが現れた。

 いつものように無愛想なツラだが、コイツの方から俺に話しかけるのは珍しい。というより、初めてじゃねえのか?


「ハウ、一体どうしましたの?」

「はい。ですが姫様と亜人の護衛は少々……ヴェルト、少し内緒話がある」

「……ちょっ、ハウ! ヴェルトと内緒話とはまさか!」

「あっ、姫様が何を考えてるかわかりませんが、多分全く違うんで大丈夫です」


 だろうな。

 フォルナは顔を赤くして何か勘違いしたようだが、今のハウの様子はそういう甘ったるいものからかけ離れた感じがする。


「なんだよ、できればこの場で済ませてくれればありがたいんだが。朝飯もまだだし」

「その前にどうしてもだ」


 だが、正直そう言われても俺は気が進まなかった。

 そもそも俺に隠し事はねえし、どうせ話が終わったらどんな話をしたかフォルナに聞かれるに決まっている。

 だいたい、俺はもうフォルナに隠していることは全部知られたしな。特にそれで昨夜はエライ事になったわけだし……


「話なら、こいつも一緒だ」


 俺はフォルナの手首掴んだ。


「ヴェルト!」

「……こいつに隠し事をすんのは後々まずいからな……だから一緒だ」


 そう、あとが怖いからそうする。だから、そんな感動した顔で目を潤ませてんじゃねえよ。


「殿おおお! 拙者は! 拙者は~~~!」

「あー、オメーも一緒だ。だから泣くな」


 とりあえず、なんかマジで内緒な話なら、せめてこれは譲れないと俺はハウに言ってやった。

 すると、ハウは少し頭を抱えながら、渋々と頷いた。


「ったく、意外と義理堅いやつだね、あんたは」

「おお、だから断じて他の女にふらふらしてたわけじゃねえと、こいつに言い聞かせてくれよ」

「な、ヴェ、ヴェルト! ワタクシはまだ昨日の件は許したわけではありませんわ!」

「奥方様! 殿は、義理堅く誠実で真っ直ぐなお方でござる! ですから、何も問題はありませぬ!」


 いや、それは違う。と、ツッコム前に、ようやく観念したハウが俺に背を向けた。


「分かったよ、いいよ、じゃあ。ちょっとついてきて」

「おお、ワリーな。んで、どこ行くんだよ」

「すぐ近くの森の中さ。ちょっとそこにね…………タイラー将軍と………あんたの子分を名乗るカラクリドラゴンを待たせている」


 ………ん? 何で、タイラーとドラが?

 かなり意外すぎる組み合わせに、俺たちは首をかしげたまま、ハウの後ろについていった。


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