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第11話 異世界ファンタジーは意外とラクショーかもしれない

「くはははは、二人まとめて来いよと言ったのは俺だ。構わねえ。俺はあの街で生まれたもっとも凶暴だった男だよ。舐めんなよな、ガキども!」


 挟みこむ二人を引き寄せて……引き寄せて……ギリギリまで引き寄せて……


「よっと」

「わっ!?」

「あっ!?」


 ギリギリで一歩後ろに下がって、炎と風を同士討ちさせる。

 強烈な熱風と衝撃波が発生し、目がくらむような威力と共にバーツとシャウトが互いに後方に吹っ飛ぶ。

 ってか、こっちは殴るの控えてんのにそっちはスゲーことするな……流石はファンタジー世界……でも……


「ビックリドッキリの技も少しは考えて使えよな」


 転がって体を打ち付けて顔を歪めて尻もちついている二人。

 俺はその瞬間、シャウトに向かって走る。


「いたた……んもう、バーツってば……危ないじゃない……ッ!?」

「こら、ケンカ中にぼーっとしてんなよ!」

「ヴェルト!? くっ……そう簡単には―――」


 俺の接近に寸前まで気づかなかったシャウトは慌てて立ち上がろうとするが、俺の方が早い。


「あめーよ」

「えっ!?」


 立ち上がろうとするシャウトに対して、俺はむしろ体を屈めてシャウトの懐に飛び込む。

 そして、俺はシャウトの股下に手を伸ばし、シャウトが身に着けているヒラヒラの長いマントを掴み、思いっきり引っ張ってすっ転ばしてやった。


「ぎゃうっ……あ、たたたたた」

「くはははは、貴族の証や誇りの一つなんだろうが、そのマントは喧嘩の邪魔なんじゃねーの? こんな硬い地面に二度も尻もちついたら、悶絶するんじゃねえのか?」


 本日二度目の尻もち。これが地味に効いたようでシャウトは涙目になりながら尻を押さえて悶えてしまった。

 そして、のたうち回るシャウトのヒラヒラのマントを俺はもう一度掴み、今度はシャウトの両腕ごとミノムシのようにグルグル巻きにして、さらに足まで巻き込んで固結びして拘束した。


「わ、わわ、ちょ、ヴェルト!? う、動けない?!」

「ほらな、邪魔になるだろ? 縄抜けの魔法とかねーのか? くはははははは。秘技・縛法……ニンニンってな♪」

「ヴぇ、ヴェルト……」

「文化祭でニンニン言ってる奴が披露してたんだが……ガキを大人しくさせるなら、結構使えるな」


 捕縛完了。無力化されたシャウトには何もできず、ただ転がって俺を見上げるしかなかった。



「あーあ、あいつ……大人げないことを……」


「ん? メルマ殿……でしたな? 大人げないって、あの子たちは同じ歳ですよ?」


「え? あっ、いや、タイラー将軍……それは……その、まぁ、そうですけど……」


「むしろ、今はシャウトとバーツ二人同時に攻撃をしたというのに……しかも今もさっきも、やろうと思えばヴェルトは殴ったり蹴ったりで二人にもっとダメージを与えられたであろうに……驚いたな。戦士や騎士の戦い方とは違うが……随分と実戦に慣れてるじゃないか」



 気づけば先生とタイラーがコソコソ話をしてるし……なんだ? 俺に説教でもしようってのか? よくも息子を泣かしたなとか、子供をイジメてとか……


「うおおおおお、ヴェルト~~~!!」

「おわっ!?」


 と、ちょっと余裕ぶっこいてよそ見をしていたところで、ふっとばされていたバーツが戻ってきて、俺に飛び掛かってきやがった。

 特に魔法を纏っているわけでもなく、完全に子供のケンカ、馬乗りの状態。マウントポジション。

 これは、結構まずいポジションだ。

 ただし、それは……


「ヴェルト! これでお前はもう何もできないぞ! まいったしろ!」

「……はん」


 それは、あくまで喧嘩慣れしている奴とか格闘技やってる奴らが相手だった場合。

 普段、こうやってマウントポジションから人を殴ったこともないようなガキには何もできねえ態勢。


「殴ってみろよ、バーツ。ま、こんな態勢でもお前じゃ俺を殴れねえけどな」

「な、なにぃ!? ほ、本当に殴っちゃうぞ! 痛いぞ! いいのかよ!」

「やってみな」

「うっ……じゃあ、やるからな! くらえ!」


 俺の挑発に乗って、上からパンチを俺の顔に振り下ろしてくるバーツ。

 ただ振り下ろしてくるまっすぐなパンチ。俺はそれを片手で払う。


「あつっ!?」


 そして、払われたバーツの拳はそのまま勢いよく硬い地面を素手でゴツン。


「う、このぉ! このお! このぉ!」


 パンチが当たらないことにムッとしたバーツが気にせずまた何度もパンチを振り下ろすので、俺はそれをまた、払う。払う。払う。


「い、っ、いだあああああああああ!?」

「残念。マウントポジションで殴るなら、もっとコンパクトにやれよ。学校で教えてもらえないこと、一個勉強できたな」


 そしてついにバーツの両手は硬い地面を何度も殴ったせいで真っ赤に腫れてしまった。


「うわ、バーツの坊主、何やってんだよ!」

「いったそ~……」

「おいおい、でも今のはヴェルトが……」

「あいつ、あの態勢でパンチを躱すだけじゃなくて、そんなことまで狙って!?」


 誰がどう見ても有利なマウントポジションだったが、俺には通じず、そして両手を痛めて態勢が崩れたバーツを……


「よっ」

「あっ……」

「どりゃあっ!」

「ぐがぁっ!?」


 俺はアッサリとブリッジで返して、逆にバーツの背中を地面にたたきつけるようにしてポジションを入れ替えてやった。


「かはっ、ぐ、いでぇ……くそぉ」


 背中からバンと地面に叩きつけられて悶えるバーツ。

 背中をさすりながら中腰で涙目のバーツに対し、俺は正面に立ち……


「コンクリートも石造りの歩道も同じ……頭を叩きつけられたら簡単に頭蓋骨が割れる……」

「ぐっ……うっ……え?」

「終わりだ、クソガキ。頭も丁度いい位置にあるし……挟まれ!」

「ッ!?」


 かつて、朝倉リューマの頃に街でクソ野郎たちと喧嘩していた時を思い出す。這いつくばった敵に容赦のない笑みを送り付けて、恐怖で相手が震え上がり……


「体育祭のリレーで少し仲良くなったあいつから教えてもらった……」


 体を捻りながらジャンプし。右足を高く上げながら……


「おい、ヴェルトの奴、何する気だ!?」

「なんだ、あんなに足を高く上げて! いや、アレを振り下ろすのか?」

「あんな蹴り見たこと……おい、バーツの坊主やばいぞ!」

「ちょ……朝倉、おま、待てぇ!」


 この世界の奴らには馴染みのない蹴り。

 相手の脳天に振り下ろす……


「……カカト落としってかッ!!」


 ……振り下ろす……わけにはいかねぇ。


「……くはは、冗談だよ」


 俺は片足着地でバーツの脳天にカカト落としが直撃する寸前で寸止めしてやった。


「……はぁ……ったく、あいつは……」


 最後も寸止め。先生はホッとしたような呆れたようなそんな表情で顔を押さえ、集まってるギャラリーたちからはどよめき。

 そして……


「うぅ、ヴェルト……」

「くっ、う、うう……はあ、はあ、ヴェルト……」


 そして、ついには手の痛みや尻の痛み、そして何をやっても俺に一発も入れられず、最後も寸止めを受けて完膚なきまでのバーツとシャウトは最初の威勢はどこへ行ったのか、実に弱弱しい目で俺を見上げている。

 

「くはははは……まっ、こんなところだろうな」


 そろそろ十分だろう。


「うん、そこまでだ!」


 俺がそう口にした瞬間、立会人のタイラーが手を叩いて俺たち三人の間に入ってそう告げた。


「驚いたよ、ヴェルト。相手を挑発してペースを乱したり、攻撃を単純化させたり、さらには二人が身に着けている衣服、さらには身の回りの環境を利用したりと大したものだった。おまけに、二人の魔法を前にしてもしっかりと対処する冷静さと度胸も見事なものだったよ」


 本当に感心しているらしく、タイラーは拍手を送ってきた。



「この勝負、ヴェルトの勝ちだ」



 正直、十歳のガキ相手にケンカで勝って褒められても複雑な気持ち。

 先生も顔を押さえて何か言いたげな様子。

 

 だが一方で、シャウトとバーツの魔法や将来有望な素質は周囲が認めるほどのもの。

 今回、それを自分でも思った以上に簡単にあしらうことができたんだ。

 魔法なんてファンタジーなものとケンカなんて、もっとヤバイと思ったが、特にビビることもなく、体も軽く動いて、しかも手加減してあしらうことができた。


 だから俺は思った。


 将来、俺はこの異世界を回る。

 この世界は色々な種族が居て、さらに今は戦争中だったり、色々物騒な情勢で危険も多いはず。


 でも、何だかんだで意外とこんな感じで何とかなりそうだ。

 

 あとはもうちょい成長して、多少体さえ鍛えれば、そこまでビビることもないかもしれない。




 異世界ファンタジーは意外とラクショーか?




 俺はそんな考えが浅くて温い大馬鹿なことを考えちまっていた。


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