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怨みつらみの愉快日録  作者: 夏風邪
第二章
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【幕間】罪咎






 深く深く、どこまでも深く、深淵へと。

 ただひたすらに落ちていく。


 その先には何があるのか。

 どんな光景が待っているのか。


 それを確かめてみたいと思うけれど、いつもその寸前で立ち止まる。

 

 手のひらには掴んでいるのに。

 開けばいつでも覗くことができるのに。


 まだ。


 真実に足を踏み入れるには、まだ早い。



 足の底からじわりじわりと纏わり付いてくる荊。

 脚を這って、腹を回って、手首を取って、首に絡む。


 窒息しそうなほどに息苦しい。

 けれどもその苦しさが、この身に背負うべく全ての糾弾を物語っているようで。


 このままいっそ、全てが果てるまで、贖罪に身を任せてみようか。


 そうしたらきっと楽になれる。





───お前が死ぬにはまだ早い。





 全身に纏わり付いた荊は有無を言わさぬ力で引き剥がされ、体はゆっくりと引き上げられる。


 体が軽い。呼吸がしやすい。

 全てから解き放たれたような開放感で満たされる。


 けれども、その代わり。

 

 血液に紛れ込ませた毒が容赦なく全身を蝕んでいく。


 また新たな鎖が。

 手放すつもりのない業が。


 のそりと首に絡みつく。






 そっと持ち上げた瞼。


 霞んだ視界の先で、光よりも先に飛び込んできたのは真紅の瞳。

 じっとこちらの内側を覗き込むソレはうっそりと嗤う。



《───まだ、早い》



 常にそこにある畏れと息苦しさ。

 いつの日か、それは心地の良いものになっていた。


 知らぬうちに溜まっていた目尻の雫を、先端でふたつに割れた真っ赤な舌がちろりと舐めとっていく。


 再び閉じた瞼の裏で、今度は存分に業の重みに浸る。











「ごめんね────父さん、母さん」

 

 







 

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