【幕間】罪咎
深く深く、どこまでも深く、深淵へと。
ただひたすらに落ちていく。
その先には何があるのか。
どんな光景が待っているのか。
それを確かめてみたいと思うけれど、いつもその寸前で立ち止まる。
手のひらには掴んでいるのに。
開けばいつでも覗くことができるのに。
まだ。
真実に足を踏み入れるには、まだ早い。
足の底からじわりじわりと纏わり付いてくる荊。
脚を這って、腹を回って、手首を取って、首に絡む。
窒息しそうなほどに息苦しい。
けれどもその苦しさが、この身に背負うべく全ての糾弾を物語っているようで。
このままいっそ、全てが果てるまで、贖罪に身を任せてみようか。
そうしたらきっと楽になれる。
───お前が死ぬにはまだ早い。
全身に纏わり付いた荊は有無を言わさぬ力で引き剥がされ、体はゆっくりと引き上げられる。
体が軽い。呼吸がしやすい。
全てから解き放たれたような開放感で満たされる。
けれども、その代わり。
血液に紛れ込ませた毒が容赦なく全身を蝕んでいく。
また新たな鎖が。
手放すつもりのない業が。
のそりと首に絡みつく。
そっと持ち上げた瞼。
霞んだ視界の先で、光よりも先に飛び込んできたのは真紅の瞳。
じっとこちらの内側を覗き込むソレはうっそりと嗤う。
《───まだ、早い》
常にそこにある畏れと息苦しさ。
いつの日か、それは心地の良いものになっていた。
知らぬうちに溜まっていた目尻の雫を、先端でふたつに割れた真っ赤な舌がちろりと舐めとっていく。
再び閉じた瞼の裏で、今度は存分に業の重みに浸る。
「ごめんね────父さん、母さん」