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怨みつらみの愉快日録  作者: 夏風邪
第一章
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【幕間】竜胆






 煌々と地上を照らすのは、夜空に浮かぶ青白い球体。

 今にも使者が降りて来そうなそれは、どこも欠けることなく、綺麗な輪を形作る。


 そんな美しい造形になど一切目もくれず、淡々と地上を歩くは一人の人間。


 吹き抜ける生ぬるい夜風が目元に掛かる髪を撫で、そのまま木々を揺らして何処かへと消えていく。


 

 静かな夜に相応しい静謐とした空気。

 

 一歩一歩、迷うことなく進める歩み。

 いずれピタリと足を止めた。


 色素の薄い髪の隙間から覗く双眸に、読み取れる感情はない。

 美しいその顔には薄い笑みだけが浮かぶ。

 


 ひと際強い風が吹き抜ける。


 闇夜を照らす満月には叢雲がかかった。




「───久しぶり」




 微かな情緒が混ざった声音が響く。

 けれどもそれに乗せられた感情がわかる者はこの場にはいない。



 月にかかった雲は薄っすらと晴れていき、再び地上に光が差す。


 幾許かじっと視線を落として一点を見つめていたが、一瞬、ふわりと目元が綻んだ。




「───また、来年」


 


 そう呟いて、一輪の花を置いた人間はくるりと踵を返した。


 闇夜に溶ける華奢な後ろ姿はどこか儚げで。

 今にも消えてしまいそうな危うさを秘めていた。



 残されたのはまだ背の低いハナミズキの樹木と、青紫の花───。

 

 



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