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#0 冗談のつもりだったのに



 王城の北側に位置する、国内で最も古いその灯台はいまでも現役で使われているれっきとした遺跡だ。大理石もしくは石灰岩を思わせる真っ白な壁面は、潮風にけずれることもなければ黒ずみもない。おそらくそれらとは別の素材が使われているのだろうというのが学者たちの見解である。

「“ただ、その素材については誰もわからない“」

 文章を口に出して読みながら、リーは通路を進んでいく。ビガンの大灯台。それがこの灯台の名前だが、いつ誰がそう名付けたのかはわかっていない。

 リーは本のページを繰る。太陽光による熱のつたわらない灯台内はひんやりとしていて、読書に最適だ。窓からはいってくる海風が心地よくて、あくびがこぼれてしまう。


 リーは足を止めた。灯台の構造はいたってシンプルで、一階にあたる方形の灯台基底部分と二階部分にあたる、レンズが設置されている灯室からなっている。中に使われているのも外壁と同じ白い石材で、壁画や彫刻といった装飾は特に見当たらない。この灯台の設計者がとことん機能性と実用性にこだわる性格だったのか、ほかに理由があったのかはわかっていないが、リー個人としては後者を推したいところだ。

 入り口側に立っているリーから見て右手奥にある棒は灯室から伸びていて、異常を発見した場合など急ぎの用で使われていたのではないかと考えられている。ここから灯室へ上がれないこともないのだが、建物の外に階段が設置されているためと現在管理者や地元民がそのように利用しているからだ。


(誰でも名前を知っていていろんな年代の資料に名前がでてくるのに、いつ頃、誰の命令で、何を使って、どんな方法で建てられたのかがいっさいわからない灯台か…)

 肩からリュックを床におろし、リーは本をしまう。ときどき掃除にやってくる人や灯台を遊び場にしている子どもたち以外は基本的に人の来ない場所だ。くわえて子どもの頃から通っていることもあって、リーは自室のようにその場に座る。リュックから水筒を出そうとして、ふと、ベルトにぶらさげたままになっているランプに気づいた。途中に寄った店でおまけとしてもらったランプだ。

 水筒をあけながら、リーはランプを観察する。


(…変なランプ)


 形自体は庶民向けのリーズナブルな量産型ランプと同じなのだが、その特徴として多くみられるかたちのゆがみがないのが一つ。そのくせ塗装は雑というか、素人か子どもがいたずらで描いたようないびつな模様がほどこされている。この時点ですでに売り物にはならないだろうが、さらに、使い込まれたような黒ずみまであるのだ。店主がさっさと手放したがったのもわかる。

 うーん、とリーは眉根を寄せる。

(“使い込まれてる”わりに塗装のはがれもないし錆びもない。黒ずんでいるのも、焦げなのかと思ったけど、どうやら違うようだし、…)

 水筒から口を離し、リュックからウエスを引っ張り出した。


 この国マハラ・ヴィーラのおとぎ話にはしばしばランプがキーアイテムとして登場する。その理由として、ランプという日用品が古くからもっともひとびとに近しいアイテムだから、という説が最も有力とされている。親しみのあるアイテムの方が感情移入もしやすい。

 いわゆる“ランプもの”と呼ばれるおとぎ話だが、いずれも共通しているのが、“ランプの精霊”が願いを叶えてくれる回数が決まって「三回」であるという点と、“使い古されたランプ”であるという二点だ。

 まさかね、とリーは口の中でつぶやく。

 だって、少しでも綺麗にして渡そうと、店主はリーの目の前でもランプを磨いてくれた。だからちょっとした冗談のつもりだった。リーはランプの表面をウエスでこすった。


     *



 『リー』ことリヴェリアは王立アルサラム大学に通う学生だ。今年で十六歳になる。専攻は考古学で、ビガンの大灯台をはじめとした「街にある古遺物」を主題に扱っている。進路はもちろん、考古学者が志望だ。

 アルサラム大学は六年制で、考古学部のほかに社会学部、文学部、理学部などがある。王立なので授業料はいっさい免除。入学から二年間は主に教養科目を学んでおのおのの研究テーマを定め、三年以降は教授の研究室に入って専門的に学んでいくというシステムだ。


 赤銅色の短い髪に父譲りの、髪と同じ色の瞳。同じ年頃の少女よりがっしりした体格と黒を基調とした上下を普段着にしているためか、初対面の人間には少年と間違えられることが多い。

 この上下とブーツは十年ほどまえに考古学部で考案された特別製で、耐火と耐刃機能はもちろんのこと、ヤブ蚊や毒虫の針を通さず、かつ通気性にもすぐれている。半日歩き回っても足を疲れさせないブーツは一般の作業者や行商の人々にも好評で、学部で店を出す計画があるらしい。


 古い遺跡は管理されていないことが多いので猛獣が棲みつき、副葬品目当ての野盗が出没する。そのため授業のほとんどがフィールドワークメインの考古学専攻コースでは護身術が必修科目に入っている。

 だが、遺跡でおそろしいのは野盗でも猛獣でもなく、途中に仕掛けられている罠だ。学生が入る遺跡はだいたい先に研究者チームが入っているのでケースとしては稀なのだが、未発見だった罠が発動して怪我をしたり命を落とすこともある。あるいは怪我をしない範囲の罠をわざと踏まされたり。


 罠については恒例行事のようなもので、考古学部生は必ず体験することになっている。アルサラム大学に入学して三年目。考古学部生として経験値も積んだし、たいていのことは驚かないつもりだった、のだが。




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