五番隊入隊の歓迎会
なにやら騒がしいと思ったら、枕元で空と海が言い争いを繰り広げていた。
「やっぱり水をかけるのが一番だ!」と空。
「それなら鼻から水を入れる方が効果は大きい!」と海。
なにやら、僕をどうやって起こすかでもめているらしい。
空はまだしも、海はえげつない事を考えている。
空が、仕方ない今回は海の案でいこう、などととんでもない案を受け入れてしまったのを聞いてしまったところで、慌てて起き上がった。
空と海が残念そうな顔をしていたのは言うまでもない。
二人に連れられて、夕食が用意されている居間へと足を進めた。
居間に着くと、五番隊の隊員が遠征中のカナタさんを除き、全員揃っており、目の前にはごちそうが広がっていた。
「斑の五番隊正式加入と、俺らの命を助けてくれる白炎の開花に乾杯~~~!!!」
部屋につくなり、九十九隊長は右手で僕の左肩をガっと掴んだあと、左手に持った大きな木のコップを持ち上げて乾杯とそう叫んだ。
また、隊長が乾杯と言い切る前に、僕の右手には凪さんから隊長が持つものと同じものが手渡され、隊長と同じようにそれを高く掲げるよう指示された。
凪さんは普段のおっとりとしたイメージとは違い、すばやい手さばきで黒衣のような働きをしていた。
って、実際に黒衣の格好をしているし。。。
「ほら、斑からも一言ないか?」
隊長からバトンを渡され、若干の戸惑いがあるものの、黒衣さんからの声援もあり、何とか口を開く。
「朝はいろいろと失礼しました!本日、儀式を行い、白炎を賜りました。ご迷惑をおかけすることもあるかと思いますが、精一杯頑張りますので、よろしくお願いします!!」
とは言っても、隊長、凪さん、愛李さん、エリカさん、あと空と海と僕の7人しかいないこの場にあいない。中でもあまり話したことがないのは、愛李さんとエリカさんだけだったので、二人に向けるにしてはあまりに仰々しくなってしまった。
しかし、
「朝はごめん。私の行動が軽率だったわ」
僕の気持ちが伝わったのか、愛李さんは指でこめかみをポリポリとをかきつつ、照れくさそうに謝ってくれた。
そして続けざまに、
「私たちの命はあんたにかかってると言っても過言じゃないんだから、これからよろしくね」
と、握手を求めてきた。
こちらが驚きにより動けないでいると、
「よ・ろ・し・く・ね!」
と右手を強く握られ、腕をぶんぶんと振られた。
握手と呼ぶには余りに粗暴なものであったが、そこには愛李さんの心根のやさしさが垣間見られた。
頭巾を外した黒衣の凪さんは、傍でニヤニヤしている。
その横に佇むエリカさんは、あっさりと
「斑さん、これからよろしくお願いします」
とそれだけ伝えてくれた。
愛李さんのときと違って、エリカさんとは自然な握手ができた。
すると、横の愛李さんは、何でエリカのときは普通に握手できんのよ、などとぶつぶつといっていた。
『ひゅ~~、斑モテモテじゃんか~』
『はいはい、うるさい。そんなんじゃないよ』
頭の中で小馬鹿にしてくるセイさんを軽くかわしておくのも忘れない。
そして、思わずため口になってしまったが、もうこんな精霊にはため口でいい気がする。
その後、凪さんが作った多数のごちそうに舌鼓を打ちつつ、成人したことで飲めるようになったビールを初めて飲み、楽しい夜を過ごした。
守護隊は死と隣合わせであるため、一日一日を大切に、また、死んでしまった家族や仲間のためにも笑って生きようというのが代々受け継がれる伝統なのだという。
だから、僕もお酒の力を借りながら、なんとか楽しんだ。
ふと、今朝までいた春之助のことを考えていると、隊長はそれを察したのか、春之助は春之助で四番隊で歓迎会を開いてもらっているだろうさ、と教えてくれるのであった。
こうして、正式な守護隊の隊員としての一日目が終了した。