白炎の使い手となる
「は、白炎だと、、、」
僕の指先でゆらめく白い炎を見て、九十九隊長はぼそりとそう呟いた。
先ほど、同じ白炎使いだといいわね、などと言った凪さんすらも、非常に驚いた様子であった。
彼女の指先にゆらめく白炎がボォォォォと音をたてて、大きく燃えだす様がその状況をよく表していた。
凪さんの白炎をイメージするがあまり、僕自身の指先からも同じ白炎が出たのかもしれない。
まずいまずい、これじゃあ雨の国の国王を倒すどころか、陰獣だって倒せないぞ!!
燃え続ける白炎を見ながらそう焦ったが、それ以上に焦っている者がいた。
『やばい、やばい!適当に言ったら本当に白炎になっちまった!』
『やばい、やばいって、セイさんがおまえも白炎になれ、なんて言ったんじゃないですか』
完全にセイさんに責任を押し付ける。
『(そりゃ、白炎になる可能性はゼロではない。ただ、そうならないとの確信があったからこそ、おれ様は斑を煽ったのに)』
責任を押し付けられたセイさんは、特に返事をすることもなく、黙ったままであった。
言い訳でも考えているのだろうか。
『(理由は分からねーが、ここで下手なことを言うのは得策じゃねえ)ま、斑ごめんな。おれ様が変なことを言ったばかりに集中力をかき乱してしまって』
『ほんとですよ。回復技しか使えないって、そんなんでどうやって敵を倒すんですか』
『ま、まぁ、そこはあれよ。そこのデカ物の隊長あたりに回復技を使いまくって、代わりに倒してもらえばいいんじゃねえか?お前みたいなひょろガキよりは、あの隊長の方が圧倒的に戦いに向いてるしな。物は考えようってこった』
必死な言い訳だが、たしかに僕が戦いのスキルを磨くよりは、既に戦いのプロである隊長に戦ってもらい、そのサポートをする方が効果的である。
しかも、実際、白炎を出してしまったのは僕自身なので、この結果は真摯に受け止める他ない。
『それで、さっきセイさんも慌てていましたけど、白炎ってそんなに珍しいんですか?』
『うーん、どうかな。100人中1人とかそんなもんじゃねーか?』
『100人中1人って結構レアなんですね。でもセイさんの反応ってそのレア度に対するものとは思えないくらい大げさでしたけど』
100人に1人。
数として見るとたしかにレアではあるが、目の前にいる凪さんも白炎の使い手なのだ。
精霊のセイさんがあそこまで驚くことでは決してないだろう。
『ま、まぁ細かいことはいーじゃねーか。無炎は回避できたことだし、これからは、目の前の姉ちゃんともいちゃこらできるってわけだろ?』
『そんな不純な動機で儀式を受けてませんから!?』
白炎に関して、僕はセイさんを問い詰めようとしたが、簡単に煙にまかれてしまった。
きっと、粘っても教えてくれなさそうだし。
セイさんと頭の中で闘っていると、隊長がコホンっと咳払いをして、上の空だった僕の注意を引きつけた。
頭の中で話す感覚にまだ慣れていないために、話最中の僕は、傍から見たらぼーっとしているように見えていることだろう。
「まさか斑が白炎を手にするとは思わなかったが、おれらにとってもこれはとても幸運なことだ。陰獣との闘いではどうしても負傷者、時には死者が出てしまう。それは一般人に限ったことではなく、もちろんおれらだって怪我もするし、死にもする。だから、唯一ヒールを扱うことのできる白炎の使い手は、守護隊そのものの基盤となっていると言ってもいい」
セイさんも守護隊の仕組みに興味があるのか、今だけは隊長の話を静かに聞いてくれている。
「全ての隊に最低1人は白炎の使い手を置くことが決まりとなっていてな。他の隊にも1人ずつはいて、うちの隊の場合は凪がその役目を担ってくれている。しかし、凪については、空と海がまだ小さいこともあって、あまり危険地帯には出したくないんだ。これまでは、他の隊からのサポートを受けることなどもあったのだが、他の隊にばかり頼ってもいられないしな。簡単に話すとそんな感じだ。斑、おまえの活躍には期待しているぞ」
隊長は一歩前に出て、僕の両肩に大きな手をそれぞれ置いて、最後は力を込めてそう言い放った。
「はい!僕も隊長たちに救ってもらったように、みんなを救います!!!」
隊長の熱いまなざしに応えるように、僕も精一杯の返事をした。
それと、別に斑なら危険地帯に連れて行って死なれても平気とか、そんな意味で言ったんじゃないからな、とフォローも欠かさない。
「斑ちゃん!ヒールのことなら私に任せてね!私が斑ちゃんを守護隊一の白炎使いにしてみせるわ!」
凪さんも僕と隊長の熱量に負けないよう元気にそう発したが、いつもの凪さんとは少し違ったようにも見えた。
「とりあえず、今日は疲れただろう。陽珠が身体に定着するまで一日程度かかるから、訓練は明日から開始しよう。今日はゆっくり休め。それと白炎については取り扱いが難しいから、一人のときに勝手に指から出したりするんじゃねえぞ」
たしかに結構疲れた。
主にセイさんという謎の精霊の登場に対してだけど。
班長と凪さんは用事があるらしく、僕は一人で館に戻るのであった。
また、取り扱いが難しいというのはよく分からなかったが、とりあえず言いつけを守ることとした。
『ねぇ、セイさん。さっきの凪さん、なんか少し変じゃなかった?』
先ほどの凪さんの様子に少し違和感を感じた僕は、セイさんに尋ねてみた。
『いーや?おれはあの女を見るのはさっきが初めてだから、そんなのわかんねーわ。どうせ、まだ隊員になりたての斑にいろいろと教えるのが面倒で、その気持ちが漏れたんじゃねーの?』
『さすがにそんな理由ではないと思うけど・・・。勘違いだったのかなぁ』
『そーそー、お前はそんなに機微に聡いわけでもないんだから』
『それこそ会ったばかりなんだからそんなこと分からないでしょ~!』
セイさんは、ほんと言うこと言うことに棘がある。
でも慣れない日々を送る中で、こうして些細なことも質問できる存在がいるのは頼もしいかもしれない。
『セイさん、今日からよろしくお願いします!』
『おう!任せとけ!』
セイさんは、いつの間にか兄貴肌を見せつけてくるようになった。
頼れる兄貴として、お世話になろうかな。
そんなことを考えながら畳でごろごろしていると、いつの間にか眠ってしまっていた。