精霊のセイさんとの出会い
自分のことを精霊様と名乗る男の声が、明確な意思をもって頭の中に話しかけてきたので、とりあえず相手をしてみた。
『あ、どうも。これが隊長の言っていた「語らい」というものですか?』
『そうそう、この国ではそんな風に呼ばれているらしいな!つっても、別に陽珠の精霊ってわけじゃねーぜ』
自称精霊のその声は、馴れ馴れしく話しかけてくる。
『じゃあ、何の精霊なんですか?』
ずっと坐禅を組んでいるだけで退屈なのと、問答無用で思考を読んでくるもんだから、仕方なく引き続き相手をする。
『何の精霊って、、、そりゃあ、お前、強い精霊様だよ』
強い精霊様って全然答えになっていないが。
『こっちにもいろいろあるんだよ。とりあえず、精霊だからセイさんとでも呼んでくれや』
仕方ないので、言われるがままOKする。
一応、こちらも斑です、と名乗っておいた。
『それにしても、斑、お前なんか混じってんな』
『混じってるって、何がですか?』
『それはお前、異物が混じってんだよ』
『異物・・・?この前、雨を浴びてしまったからですかね?』
『いやぁ~、そういうのじゃねーと思うんだけどな~』
セイさんは頭の中で、う~ん、と唸っている。
『まぁ、考えたところで分かるもんでもねーし、とりあえず、今の話は忘れてくれ』
彼は自分から切り出しておきながら、曖昧な形で話を終わらせた。
『あの~、質問いいですか?』
『あ?質問。変な質問じゃなかったらいいぞ』
口調は荒いが、意外と優しい精霊なのかもしれない。
『さっき曖昧な形で話が終わったんですが、結局、これがその語らいってことでいいんですよね?』
『おう、そうだぜ。で、さっき言った通り、俺は陽珠の精霊ってわけでもない。まず、陽珠の精霊なんかこの世に存在しないしな』
『そうなんですか?』
『あぁ。まぁ、似たようなものだって思うかもしれねーけど。おれら精霊ってのはな、実体がねーんだよ。実体がないことで特に不便に思うこともねーんだが、たまにとても居心地の良い依り代が存在してな、それが陽珠の元になっている陽岩だったりするわけだ。あそこにはたくさんの精霊が住みついていて、その中でもおれのお気に入りのポジションがちょうどお前が飲んだ陽珠の部分だったってことよ』
『陽の光が一番あたるところに住みついてるって、みんなで日向ぼっこしてるみたいですね』
『そうそう、言ってしまえばそんな感じだ。だからおそらく今までにも、おれ様と同じように住み心地が良すぎてそのまま陽珠にも憑依してた精霊たちがいたんだろうな。おそらく、そうした奴らと話すことが、お前らの言う陽珠との語らいってもんの正体だと思う』
セイさんは、そう言って事のあらましを語ってくれた。
『ところで、いつまで僕の身体にいるつもりなんですか?』
できることなら、さっさと元居た陽岩に戻ってほしく思う。
『いやいや、お前が死ぬまではずっとここにいるぞ?』
なんと、予想だにしない回答が返ってきた。
『え!ずっといるんですか??』
『なんだ、その邪魔者扱いは!お前がおれ様の依り代を飲みこまなければこんなことにはなってないんだぞ!』
『す、すみません・・・』
急に真っ当な事を言われてしまった。
『おれ様だって、人間なんかに寄生したくはねーが、おれ様の依り代と合体しつつあるお前の中が存外居心地がいいんだよ。。。ちゃんと手助けもしてやるから。な?ここにいていいだろ?』
『ダメと言っても出て行ってくれないんでしょ?』
『おうよ!でもあんまりおれ様に立てつかない方がいいぜ。お前の飲んだ陽珠はある意味おれの分身のようなものだ。得られる能力の質を上げるも下げるもおれ様次第なんだからな』
いきなり脅しをかけられた僕は、ひとまず彼の存在を認めるしかなかった。
「よし、一時間たったな。斑、目を開けていいぞ」
前方から九十九隊長の声が聞こえてきた。
セイさんとくだらない話をしているうちに1時間が経過したようだ。
『くだらないってなんだよ!』
頭の中でセイさんがキャンキャンと吠えている。
隊長から目を開ける許しが出たため、目を開けた。
「儀式お疲れさん。詳しいことは聞けないが、陽珠を飲んでも特に不調はないか?」
「はい、大丈夫です」
おかしなことはあったが、身体は至って健康的だ。
隊長の横に立っていた凪さんも、お疲れ様、と声をかけてくる。
『おっ、顔と身体はいいと思ってたけど、声も随分といいじゃねーか。そそるねぇ』
セイさんは、凪さんがタイプのようだ。
自分によくしてくれた恩人をそういう目で見るのはやめてもらいたい。
「じゃあ、早速炎を出してみようか」
「こーんな感じで、人差し指を立てて、指先に力をいれてみて!」
隊長の言葉の後に、凪さんが右手の人差し指の先の方から白い炎をメラメラと出す。
斑ちゃんも白炎使いだと面白いはね、などと軽口を叩いていた。
『えっ!あの女、白炎使いなのか!ますます気に入ったぜ!おい、斑、おまえも白炎使いになれ』
『いやいや、白炎使いになれって、そんな自分で選べるわけでもないだろうに、、、』
無炎よりはマシともいえど、所詮後方支援の回復技程度しか扱えない。
僕は蒼炎がいいんだ。
セイさんにそう答えながら、凪さんの指先の炎をイメージして、自分の指先に力を入れる。
その時、何か、不思議なものが上ってくる感覚を得た。
すると、その直後、
「ボッッッッ」
と音をたて、白色をした炎がゆらゆらと空気に押され、ゆらめくのであった。