炎の能力について
隊長と凪さんに連れられて外に出る。
これまで碌に外にも出ていなかったので、陽の光がまぶしい。
つい最近まで地の国で暮らしていた僕にとっては、いまだに光が強すぎるように感じる。
「じゃあ、まずは、斑の能力を調べるぞ。その前にどんな能力が存在するのか説明するか」
隊長はそう言って、それぞれの能力について説明してくれた。説明によると、
〇緋炎ーーー緋色の炎。炎を身体の内部から発生させることができ、それを鎧のように身体に纏う事もできる。また、炎を身体に纏うことで、身体能力を数倍に跳ね上げさせることができる。人体だけではなく、触れているものの耐久性等をおあげることもできる。
戦闘スタイルは、主に物理攻撃に肉弾戦。ゴリ押しのパワー系なので、使いこなすのも容易で単純に強い。
〇蒼炎ーーー蒼色の炎。炎を身体の外部に発生させることができる。杖などを用いてその先から発生させるイメージで炎を出力する者が多い。緋炎よりも技の応用が効き、様々な戦闘スタイルがとれる。緋炎のように身体に纏うこともできるが、身体の動きに合わせて炎を操作することが難しく、あまり一般的には行われない。
戦闘スタイルは、遠距離攻撃特化型が多い。また、蒼炎で遠距離攻撃をしながら剣で戦う蒼炎の剣士や、武術で戦う蒼炎の拳士も存在するが、蒼炎を自在に操るだけでも難しいので、剣や拳との両立ができる人はあまり存在しない。
〇黒炎ーーー黒色の炎。緋炎のように身体の内部から発生させたり、蒼炎のように身体の外部させたりできる。黒炎の使い手はどちらの使い方もできるが、前者が得意なものと後者が得意なもののそれぞれが存在する。黒炎は緋炎や蒼炎を焼くことができ、それぞれの使い手に大きなダメ―ジを与えることができる。現時点では緋炎や蒼炎の上位互換として君臨しているが、現存する使い手は一番隊の隊長だけだという。
戦闘スタイルは、緋炎や蒼炎の使い手と同じ。
〇白炎ーーー白色の炎。出力方法などは黒炎と同じ。黒炎とは違い、緋炎や蒼炎を燃やすことはできないが、炎に触れたものを治癒する能力を持つ。この使い手もあまり存在しない。戦場では後方支援に特化しており、敵と戦うことはほとんどない。
戦闘スタイルは、主に後方支援。
〇無炎ーーーどの炎にも適性を示さないものは無炎として扱われる。公式には無色炎として呼ぶことが推奨されているが、蔑称としての無炎(=炎と無縁の意)で呼ばれることが多い。炎を出すことも操ることもできないが、他者の炎に対して、一定の耐性を持つ。とはいっても、緋炎を身体に纏った戦士ほどの耐性はない。唯一の特長としては、雨への耐性があることである。雨を浴びると病人のように身体は弱まるが、死にはせず、外見も変わることがない。そのため、雨の国へのスパイとして重宝されている。
戦闘スタイルは、蒼炎の使い手からの後方支援を受けた状態での接近戦。
「俺と愛李は緋炎だし、カナタとエリカは蒼炎、あと、空と海は隊員見習いではあるが、一応緋炎だな。他の三色は滅多にいねぇ。まぁ、凪は珍しく白炎の使い手だがな」
九十九隊長が隊員の適性について説明する。ちなみに愛李さんは緋炎であるが人に物を教えるのが苦手であるため、春之助の指導役に任命されることはなかったらしい。最後に名前を呼ばれた凪さんは、私凄いでしょ??という顔をしながら、私凄いでしょ??と言ってきた。
「というわけで、基本的には緋炎か蒼炎になるのがオチってこった。春之助が緋炎だったから、斑はが蒼炎だとバランスがとれていいんじゃないか?あと、蒼炎ならうちの班でもみっちり訓練できるしな。」
ようやく五番隊に馴染んできたのに、春之助みたくすぐに他の隊に移動させられるのはきつい。
なんとか蒼炎になってくれと祈りながら説明を聞く。
「じゃあ、俺は儀式の準備をしとくから、斑は凪に従って準備してくれ」
隊長がそう言って後ろを向いた途端、
「じゃあ、とりあえず脱ごっか♡」
凪さんは艶めかしい声色を僕の耳元に放ちながら、背後に立ち、ぱっっと上半身の衣をはがしてきた。
思わず、きゃあっと声が漏れてしまう。恥ずかしい。
「突然ごめんね。この方が面白いと思ったから」
凪さんは悪びれる様子もなく、話を続ける。
「じゃあ、上半身裸になったから、ここで坐禅を組んでね」
先ほどの声が頭をちらついて悶々としかけるが、凪さんに言われるがまま、坐禅を組む。
凪さんはそれを待って、準備できましたよ~と隊長に声をかけた。
隊長は先ほどの凪さんの行動に気づいていたのだろう。やれやれとした顔を浮かべながら、振り返った。
手を見ると、親指と人差し指でなにやら赤い色の珠をつまんでいた。
「斑には今からこの陽珠を飲んでもらう。これは陽の国で一番陽の光が強い地点に存在している巨大な岩から削り出したものだ」
そう言って僕の手に渡されたその珠を見ると、それはとてもきれいな宝石のような姿をしていた。
「きれい、、、」
思わず、その言葉が口から漏れたほどであった。
「そうだろう?これの元になった巨大な岩である陽岩は俺も何度か見に行ったことがあるが、それはまぁきれいなんだ。俺でも隊長の任命式のときに見たのが初めてだったけどな」
隊長はそう言いながら口元を綻ばせる。
「いかんいかん。まぁそれくらい陽の国にとっても大事で貴重なものってことなんだ。だから、こうやって坐禅を組んで、陽珠が身体に吸収される感覚をありがたく享受する必要があるんだ」
「そんなに貴重なものなんですね。ではありがたくいただきます」
「待て、最後に一つ忠告だ。この儀式の最中、目を開けることも声を発することも禁じる。その代わり、身体が陽珠を受け付けないと感じたら左手で自分自身の首を掴め。その動作が儀式の打ち止めの印となる。また、儀式の最中に起こったことは決して外部に漏らしてはいけない。わかったな」
隊長は今までになく真剣にそう語った。
この陽珠を身体に受け入れる行為こそが守護隊入隊の正式な儀式とあっており、非常に重要かつ神聖なものなのである。
凪さんは最初ふざけていたが、本来はあんな冗談は憚られる。
「はい。万事了解しました」
隊長が頷いたのを確認し、目を閉じた。
左手の親指と人差し指でつまんだ状態の陽珠を、顎を少し上に傾けて、ごくりと飲み込んだ。
飲み込んだ数秒後、お腹の中が熱くなるのを感じた。
ここまでは事前に隊長に聞いていた通りである。
先ほど彼が言ったように、稀に身体が陽珠を受けつけず、強い吐き気と腹痛を覚える者もいるらしい。
そういった者への処置も行えるよう、この儀式は隊長の監督のもと行われることが規則で決められている。
5分が経ち、10分、20分と時間が経過した。
腹に、そして全身にこれまで感じたことのないような灼熱が巡るのを感じるが、一切不快感はなく、むしろ身体の底から全能感が沸き立つようであった。
儀式の最中は己と、そして陽珠と向き合うことが重要とされる。
陽珠との語らいによって、享受する能力の大きさや種類も変わるのだとか。
だが、守護隊の隊員のそれぞれが陽珠とどのように語らったのちに能力を手にしたのかは、一切語ることが許されないため、ほとんどの人が儀式の事を宗教的であると感じているそうだ。
というか、この話を凪さんから聞いた僕自身も同じ事を感じた。
30分ほど経過したが、未だに赤珠との会話などはできていない。
所詮、儀式の品格を上げようとするデマのようなものだったのであろう。
一般の人でも陽や雨の力を享受することのできるこの世界では、皆が神を信仰しており、かく言う僕自身もあの事件を目にするまでは神様の存在を疑ってなどいなかった。
そんな不敬な思想を巡らせていると、どこかの誰かから怒られた気がした。
はいはい、こんな神聖な儀式中に、不敬な事を考えてしまってすみません。
『その、「はいはい」ってのも不敬の対象だぞ?』
頭の中で声がした。
おそらくそんな気がした。
事故のショックなどで別の人格が誕生することもあるというので、とりあえず、無視したが。
『おいおい、別の人格ってなんだよ?おれ様は精霊様だぞ?』
自分のことを精霊様と名乗る男の声が、明確な意思をもって話しかけてきた。
精霊ってなんだ??