冷静になってみて
先ほど僕が目覚めた部屋。
ここが正式に僕専用の部屋ということになった。
九十九隊長と春之助が部屋から出ていき一人になって冷静になった。
そして、これが現実なのだということをようやく実感した。
「燈っっ、、、」
燈、そして春之助と同じ国に行くという念願が叶った矢先に、地獄に叩き落とされたのだ。
守護隊に入るしか選択肢はないといっても、燈を失った今、陽の国を守る事にあまり執着はない。
だが、何かにすがらなければ、精神を保つことができない。
先ほどの春之助を見るに、彼も相当無理をしていることが分かった。
僕が目覚める前に隊長たちから話は聞いていたかもしれないが、それでも堪えただろう。
また、僕が目覚めないかもしれないという不安もあったかと思う。
それから数時間後、凪さんから隊のみんなで夕飯を食べないかと提案された。
だが、正直そんな気分にもなれない。
燈の事を、そしてあの惨劇を思い出してしまうため、春之助にすら会いたくない。
凪さんは、気が向いたら食べてね、と言って、夕飯をお盆に載せて持って来てくれたが、結局、それに箸を付けることはできなかった。
夜が明け、春之助が朝食を持って来てくれた。
「斑、大丈夫か?」
障子を軽く開け、話しかけてくる。
「おまえは、俺が想像しているよりもつらいんだってことはよくわかる。だから無理に立ち直る必要はないぞ。ゆっくりで良いから。。。」
僕はそれに返事をすることも出来なかった。
春之助は早速訓練に行くらしい。
ようやく目を覚ました僕がこんな状態なこともあって、自分がしっかりしなくては空回りしているようにも見える。
春之助が持って来てくれた朝食は味噌汁だけなんとか飲み干すことができた。
その後、春之助が僕の部屋を訪れることはなかった。
その代わりに、凪さんが毎回食事をもってきて、一緒に食べてくれるようになった。
彼女は何も言わず、ただ黙々とご飯を食べていた。
それにつられるように、僕も出された食事を全て食べきることができるようになっていった。
凪さんに気を遣わせてばかりいる自分が情けなかった。
僕が目覚めて4日後の朝、凪さんは空と海を連れて、食事を持って来てくれた。
凪さんと僕の二人きりのときよりは少し、いや大分騒がしい。
けれど、こちらが無理にその調子に合わせなくてよいので、居心地は良かった。
その日の夜、凪さんから春之助の様子を聞いた。
春之助は三日間を通して訓練に臨み、緋炎使いとして他の隊に配属されるというのだ。
詳しいことは自分で聞いておいで、と凪さんに言われ、すぐに春之助の元へと向かった。
「春之助、僕だ、斑だ。入っていいか?」
部屋に着くと、障子越しに春之助にそう問いかける。
春之助は快く部屋に招き入れてくれた。
「急に来てごめんね。春之助が明日から別の隊に移るって凪さんから聞いたから」
「そうか、凪さんからか。斑はもう大丈夫なのか?」
春之助は神妙な面持ちでそう問いかける。
「そうだね。一時期よりは大分ましになったよ。凪さんが食事の度に部屋に来てくれてんだ。春之助が来てくれたのも力になったよ。ありがとう」
「そうか、そういうことなら良かった。仕方ないことだとはいえ、斑があんなに落ち込んだのは見たことなかったからさ。正直どうすればいいのか分からなかった」
「そうだよね、自分でもこんなになるんだって少し驚いてる」
「だよな。それで、別の隊に移るって話だけど、斑がある程度復活したってんなら、これまでの事、これからの事を話すぞ」
そう言って、春之助はこの三日間のうちに起こった出来事や訓練の話をしてくれた。
話によると、陽の国の人間は適性にあった炎を扱うことができること。
春之助は緋炎という炎を扱えること。
緋炎は主に身体に炎を纏い、それで身体能力を大幅にアップさせることができるのだという。
五番隊では九十九隊長が緋炎使いなのだが、隊長業務で忙しく、訓練を見てもらう時間がないため、緋炎使いの多い他の隊に移動することになったそうだ。
「凪さんからそういった炎の話なんかは、一切聞いたことはなかったけど、そうやって陰獣と戦っていたのか」
「そうなんだよ。訓練始めてまだ三日目だけどさ、炎を纏うと、2m近くジャンプできるし、今までの2倍くらい足が早くなるし、重いものだってへっちゃらで持てるんだぜ!」
最初は元気がなかった春之助も、話が進むにつれてハキハキと楽しそうに話すようになっていった。僕自身、春之助につられて、笑みを見せながら春之助の話に食いついていた。
「俺はいつか隊長になるぜ。そして、雨の国の国王をぶっ殺して、平和な世界を取り戻すんだ。その時は斑、お前にも力を貸してほしい」
「うん。僕もようやく歩み始めることが出来そうだ。春之助が頑張っているのに、いつまでも塞ぎこんでいられないしね。どんな炎を扱えるかは分からないけど春之助よりも先に隊長になってみせる!」
「おっ!ようやくいつもの斑が戻ってきたな!ほんと、心配かけさせんなよ~。じゃあ、気が向いたら、明日は朝食に顔を出せよ。」
「うん。いつもありがとうね」
春之助と話して、ようやく僕の中で決心がついた。
燈の命は戻らないけれど、これから、燈と同じような目にあってしまう人を助けることはできる。
また、どうしたって元の生活の戻ることはできないのだから、それならば精一杯頑張るしかない。
自室に戻ったあとは、塞ぎこむことなどはなく、逆に気持ちを高ぶらせたまま、床につくのであった。