守護隊入隊
「・・・・・ごふっっっ!」
「あ!こら空、ダメでしょ!あら、目が覚めた?」
耳障りのいい声がする。おもむろに目を開けると、そこには大きな球が二つ。
いや、きれいなお姉さんがいた。
「空があなたのお腹の上にダイブしちゃってごめんね。ほら空、お兄ちゃんに謝って。」
すると、空と呼ばれる子どもはもう一度狙いを定めて・・・
「ごふっっっ!」
本日二度目の腹上へのダイブ。散々だ。
「気を取り直して、私は陽の国守護隊五番隊所属の滝川凪よ。それで、こっちは空。そっちは海ね。よろしく!それで君の名前は?」
「白糸斑です、よろしくお願いします。」
よろしくとは言いつつも全く状況が呑み込めない。
しかも、子どもは2人いたのか。
「あっそうだ、目を覚ましたら教えろって言われてたんだった!空、海、隊長を呼んできて。」
凪さんがそう言うと、二人のちびっこは部屋の外へと駆け出して行った。
「あの、ここはどこですか?」
今はとにかく状況が知りたい。
「ここは守護隊五番隊の宿よ。陰獣に襲われている君をうちの隊が助け出して、ここで治療してあげたってわけ。あ、陰獣っていうのは、雨を浴びて化け物になってしまった人のことね。笹倉上官といったかしら。あの人がなったらしいわね。」
凪さんは、淡々とあの時の状況を語り始めた。
それは化け物がいるのが当然とでもいうような口ぶりだ。
話を聞いていると、あのときの情景が蘇り、吐き気は増す一方、頭の方は落ち着きを取り戻してきた。
「あ、あの!燈、化け物に襲われていた女の子も助かりましたか?」
「襲われていた子ね、、、たしか、、、」
凪さんが答えようとしていると、障子が開き、大柄な男性が入ってきた。
それは化け物に襲われた時に見た男の顔であった。
その後ろには先ほど隊長を呼びに行った空と海の姿もあった。
「あ、隊長おかえりなさい。紹介するわね、こちら五番隊の隊長の九十九壮馬よ。じゃあ、後のことは隊長に説明してもらうわね。」
そう言い残して凪さんはそそくさと部屋から出ていった。
「話は少しだけ聞いてたぜ。坊主、非常に言いにくいが、お前の妹である女の子は、あの日、陰獣に襲われて死んだ」
「しんだ、、、???」
九十九隊長の言葉に動揺が隠せない。
そういえばあの時、赤い髪の女の子が斧を振り下ろしたのを僕は見ていた。
その脳裏に焼き付いた映像に基づいて、言葉を発する。
「死んだっていうか、あなたの仲間が殺したんでしょ!!!燈は、燈はまだ意識があったのに!必死で生きようとしていたのに!」
すると、九十九隊長は顔色一つ変えず、こう告げる。
「あぁ、確かに俺の仲間が殺した。既に陰獣となっていたお前の妹をな。陰獣になると、肉体にとてつもない痛みが発する。その痛みから救ってやるのも俺たちの仕事だ。それにお前は聞いたはずだ。あの子の最後の言葉を」
そう言われて、僕は忘れ去りたい、その記憶をもう一度再生する。
すると、燈は悲鳴の後に、ぽつりと、
「ま、まだら、ありがとう。。大好きだよ。。」
と確かに告げていた。
僕の両目から涙があふれてくる。
僕が気を失う直前に確かに聞いていた言葉だ。
それからひとまず涙が止まるまで数十分が流れた。
九十九隊長はその間、何も言わず、僕が落ち着きを取り戻すのを待ってくれた。
「九十九隊長、ありがとうございます。燈はちゃんと死ねたんですね。さっきは、申し訳ありませんでした」
僕がそう言うと、九十九隊長は、少しだけ口角を上げて、
「ここにいるだれしもが経験することだ。お前は悪くない」
そう言って、ニカッと微笑みかけてくれた。
「そういえば、九十九隊長はなぜ燈が僕の妹だって知ってたんですか?」
「それはな・・・」
「おおーーーーい!!!斑!!!良かった!斑が生きてた!!!!」
完全に場違いな大声を放ちながら、一人の男が部屋に入ってきた。
もちろん春之助だ。
「めちゃくちゃ心配したんだぞ!燈ちゃんと笹倉上官があんなことになってしまって。お前まで死んでしまったらって考えたら、おれは、おれは・・・」
涙と鼻水でくしゃくしゃの顔面のまま、僕の首に抱きついてくる。
「うるさい。でも今は春之助のうるささが心地いい」
最悪な経験をしたが、やはり親友の存在は大切なものだと実感した。
「よし、感動の再会中に悪いが、今後の話をさせてもらう」
九十九隊長は、急に真面目な顔をして、話始める。
「おまえら、俺は今からあの日起こったことについて二人に話そうと思う。だが、その話を聞いたら、もう一般的な生活はできない。無条件で、守護隊の一員となってもらう。それが嫌なら死ぬだけだ。どうする?」
九十九隊長はそう言うが、僕らには選択肢など鼻からない。
「「関係ないです!聞かせてください!」」
僕と春之助は少しも躊躇せずに、そう答えた。
「その意気や良し。では、まず陰獣についてだ。お前らは陽の国の人が全身に雨を浴びるとどうなるって聞いていた?」
お前らといいつつも、馬鹿な春之助ではなく、僕に向けて話かけてくる。
「肌がただれ、そのまま雨と同化して消滅してしまうと聞いていました」
「そうだろうな、だが、その消滅するっていうのは嘘だ。実際にはお前らが見たように陰獣となってしまう」
「そうだったんですね。それで笹倉上官は陰獣に」
「そうだ。だが、国王は、陰獣が存在することも、陽の国で雨が降ることも、どちらも民衆には知らせていない。民衆がそれを知ってしまったら、陽の国で生活なんかできねーからな。そこで作り出されたのが、闇の組織『ウルヴァス』。こいつらは、人殺し、強奪、なんでもやる。中でも人攫いが有名でな、今回お前らが消息をたったのもウルヴァスのせいってことになっている」
「たしかに、ウルヴァスの悪名は地の国の頃から聞いていました。それにしても、国王がそんなに悪者だったなんて」
「まぁそれはそうなんだが、この話には続きがあってな。雨を降らせているのは、雨の国なんだよ」
「ええ、そんな馬鹿な。陽の国と雨の国では争いなど一切ないはずですよ??」
「そういうことになってはいるんだがな。雨の国は領土拡大を望んでいるらしいんだ。それで、その調査と雨の国を滅亡させることが、陽の国守護隊の任務って感じだ。もちろん、陰獣を殺すのもな」
「なるほど、それで、その真実を知ってしまったからには陽の国守護隊の一員として働くってことですね。でも雨の国を滅亡させるのはやりすぎなんじゃ」
「雨の国の民まで全員殺すって意味じゃねーぜ?少なくとも今の国王とその一味を殺して、新しい王を据えるって感じかな。早速明日から修行始めるからな。覚悟しとけよ」
「俺が雨の国の国王をぶっ殺してやる!斑、どっちが先に国王をぶっ殺せるか勝負だ!」
先ほどまでおれの横で静かに頷くだけだった春之助は、話が終わった途端に元気になった。
「そういうことなら。僕だって、燈を殺した原因である雨の国の国王をぶっ殺してやるよ。雨の国、覚えてやがれ」