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最愛の妹の死

なろう初投稿です!

のんびりとですが更新する予定なので、ゆっくり待っていただければ幸いです。。。

よろしくお願いします!!!



目の前に存在する化け物のような個体。それは先ほどまで人であったものだ。


「なんだ、あの姿は・・・!?」


すでに人ではなくなったそれを見て、僕らはただ恐れ慄くことしかできなかった。

その個体は、僕らの動揺を尻目に、ドタドタバッタバタと醜く短い足で、近くにいる女の子を追いかける。


「燈!逃げろぉぉぉぉーー!!!」


僕は追いかけられている女の子に向けて、そう投げかける。


「いぎゃぁぁぁーーーーーーッッ!!!」


燈と呼ばれるその女の子は必死で逃げるも、雨の影響で身体の動きは鈍り、ついには捕まり、襲われる。


「た、たすげで・・・」


襲われた女の子も、笹倉上官ほどではないが、成り果てた姿へと変わりつつあった。




(時間は数時間前に戻る)


「陽」

「雨」

「陽」

「雨」


若い男女らそれぞれに、2つの文字のうちどちらかが与えられていく。

漢字を与えられる際、その男女らは左手を太陽の光にあて、右手は雨の中に突っ込んでいた。

これは18歳の成人時に行う儀式であり、手の反応に応じて自らの適性が明らかになる。

『陽』と言われた者は、太陽の照り続ける国『陽の国』で、『雨』と言われた者は、雨の降りやまぬ国『雨の国』でこれからの生活を送ることとなる。

ただし、成人前の子どもたちが暮らしている『地の国』のように共同で暮らせる国も存在する。


「次、斑前へ。」


男が僕の名を呼んだ。

儀式の間まで歩みを進め、前の人がやっていたように、左手を光に、右手を雨の中に突っ込む。

すると左手は軽く熱を帯びだし、右手には痛みを感じた。


「おう、お前は陽だな。」


目の前でにこにことしている男が言った。

先ほど僕の名を呼んだ男だ。

この人は笹倉といって、陽の国の人で階級は上官である。

今回の儀式を取り仕切る立場にあるらしい。

にこにこしているとは言ったが、元の顔が怖いので、にこにこ顔はなんとも気色が悪い。


「おお!斑も陽の国か!やったな!」


前方から騒々しい声が響く。このうるさいやつは城戸春之助といって、見てわかる通り元気が取り柄なだけの馬鹿だ。


「春之助も陽かぁぁぁ。。。」

「なんだよ!嬉しい癖に~~」


僕が悪態をつくと、春之助は自分の肘を僕の脇腹に数回ぶつけながら、そう返答する。


「それよりも燈はどうなった??」


春之助と戯れる前に、僕の少し後ろに並んでいた白糸燈の結果が気になる。


「燈、陽だ」


遠くにいる笹倉上官の声を聞き、思わず小さくガッツポーズしてしまう。


「斑、良かったな!!兄弟で離ればなれにならなくて済んで!!」


春之助の言う通り、僕と燈は兄妹である。しかし、血が繋がっているわけではない。

僕の本当の母親『琴音』は、友人であった燈の母『京子』に幼い僕を託し、その後行方をくらませている。

僕の育ての親である京子母さんからは、琴音はどうしても陽の国に戻らねばならず、泣きながら僕を京子母さんに預けたと聞いている。

しかし、本当に愛しているのならば、その後、一回でもいいから顔を見せに来てくれてもいいのに。

僕自身、琴音母さんとはいい思い出ばかりであったのだが、約10年間一度も会っていないがために、その記憶は京子母さんから刷り込まれたものなのでは、と疑うまでになっていた。


陽の国行きと言われた燈が僕と春之助めがけて走ってくる。


「やったよ!私も斑と春之助と一緒に陽の国だ!」


燈とは親が友達だったということもあり、物心ついたときからずっと一緒にいる。

シスコンと言われそうなので、あまり態度には出さないようにしているが、こうやってはしゃぐ燈もめちゃめちゃかわいい・・・。

春之助がいる手前、よかったよかった、などと燈を適当にあしらってみせたが。


「よーし、これで全員の儀式が完了したな。今回はやや陽の人数が多いな。うんうん。それでは陽の者たちは俺に、雨の者たちはそっちの雨の国の上官の指示に従ってくれ。では解散!」


笹倉上官の言葉で、儀式は簡単に締めくくられた。

上官の指示に従ってそれぞれの国の中心地を目指す。

新たな国の環境に慣れるためにも、徒歩で時間をかけて移動する。


「それにしても、儀式って案外あっさりしてたよな~」


春之助が頭の後ろに手を組みながら、のんきにそう言う。


「まぁ、儀式の間の光と雨に手をかざすだけだからねー。でも、雨を浴びた右手はまだじんじんしてるよ」

「私もまだ右手痛いー!全身に雨浴びたら死んじゃうのはほんとなんだって思ったもん」


三人で雨について話していると前を歩いていた笹倉上官が振り返り、話に混ざってくる。


「そうだぞ。陽の国の人々は雨に濡れると痛みを感じる。しかし、それは今回のような片手を濡らした場合を指すのであって、全身を濡らしてしまうと体は雨の毒成分に耐え切れず、皮膚はただれ、理性は崩壊し、そのまま雨と同化し、消滅してしまうんだ。反対に、雨の国の人々が太陽の光を浴びた時は、皮膚は猛烈に乾燥し、土塊となり、最後には砂粒となってしまう。だから、やっぱり儀式を行い適正にあった国で暮らす必要があるんだ」


「笹倉上官、そのくらい知ってるよ。毎年同じ話するじゃんか。そして、そのあとには、こういうんでしょ?このように、光と雨はひどく有害なものではあるのだが、一方その国で暮らす人々には恩恵をもたらす。適正に合いさえすれば、それらは身体機能を非常に高め、さらには体の栄養分ともなってくれるのだ。ってね」


「そうそう!斑は、笹倉上官の特別講義が大好きで、いつも前のめりで授業聞いてたもんね」


僕が笹倉上官のお株を奪う発言をすると、笹倉上官を励ますように、燈が言葉を重ねる。


「斑本人からその言葉が聞けると嬉しいんだがな。。。」


笹倉上官は柄にもなく落ち込んで見せた。

恐い顔で落ち込まれると、深刻な悩みを抱えているように見える。


「よし、ここで休憩にするか」


笹倉上官はそう言って、列の進行を止める。


「ほら、斑が素直じゃないから笹倉上官休憩しなきゃいけないくらい傷ついてるよ?」


燈がひそひそと耳打ちしてくるので、気が向いたらね、と耳打ちし返す。

洞窟での休憩中に笹倉上官が声をかけてきた。


「どうだ、太陽の下は?恩恵が付与されるといっても、その感覚に身体が慣れていないから、逆にきついんじゃないか?」


すると、春之助が口を開く。


「そうなんだよー。半日以上寝てしまったときに、逆に調子が出ないみたいな感覚かなー」

「そうそう、最初はそんな感じだよな。まぁ、これでも中心地に比べれば、太陽の光は弱いんだがな。よし、そろそろ行くか」


笹倉上官はそう言って、立ち上がる。燈もそれに続いて立ち上がる。


「春之助、行くよ?」


僕はだるそうにしている春之助が立ち上がるのを待っていると、気づけば笹倉上官と燈は洞窟前で出発するところだった。


「斑ー、春之助ー、早くーー」


燈からそうせかされるので春之助の手を引いて追いかけるが、特に急ぐ理由もないので、そのまま10人ほどの列の最後尾を歩くことにした。


「俺、城戸春之助!よろしくね!」


春之助は近くを歩いている女の子に声をかけ、さっきのだるさが嘘であるかのように、楽しそうに談笑を始めた。

春之助はだれとでもすぐに友達を作れてしまう。

彼とその女の子の話を聞きながら歩いていると、左腕に水滴の感触がした。


「春之助、唾を飛ばさないで、汚い。」


女の子に浮かれて周りが見えていない彼を叱責する。


「おお、悪い悪い気を付ける」


反省の色は見えないが、大したことじゃないのでどうでもよい。

普段からこんなやつだしな。

すると、次は首筋に水滴が。


「おい、春之助!」


さすがに首筋に唾が付くのは気色が悪い。すぐさま怒りを春之助に向ける。


「いや、さすがに俺じゃないって、普段から唾が飛ばないように気を付けてるし!」


よくわからない弁明を聞いているうちにも右腕に水滴が。


「ポツ、、、ポツ、、ポツ、」


笹倉上官が声を張り上げた。


「全員、雨から身体を防げ!」


だが、陽の国は雨が降らないから陽の国なのであって、そこで暮らすのに雨から身を防ぐ必要はなければ、そのような装備を携えているわけもない。

そのためできることといえば、着ている服を頭の上に載せ、体を小さく丸めることくらいだ。

皆それぞれ指示通り、必死に雨から身を防いでいる。その時、


「ああああ゛あああぁあ゛ぁぁあ゛あぁあぁぁああああ゛ぁぁぁ」


悲鳴が響き渡った。この太い声質は笹倉上官のそれだ。


顔を上げると、眼球は飛び出し、顎は外れて縦に長く広がり、髪は抜け落ち、全身がマグマのようにボコボコと揺れ動いている笹倉上官の姿があった。

よく見ると、腹から新しい腕が生えてきている。その姿はすでに人間の形を保っていない。


「なんだ、あの姿は、、!?」


雨を浴びた者の末路として聞いていたものとは異なるその姿に、ただただ恐れ慄くことしかできない。

その近くには、笹倉上官の姿を見て、茫然としている燈の姿があった。

燈は頭から笹倉上官の服を被っている。

笹倉上官から咄嗟に渡されたのだろう。


すでに笹倉上官ではなくなったその個体は、キョロキョロと周囲を見渡し、近くで立ち上がれない様子の燈をロックオンする。

そして、ドタドタバッタバタと醜く短い足で、燈の方へと駆け寄る。


「燈!逃げろッーー!!!」


僕は燈に向けて、そう投げかける。

燈はなんとか立ち上がり逃げ出す。


「いぎゃぁぁぁーーーーーーッッ!!!」


例の個体から必死で逃げるも、雨の影響で身体の動きは鈍っており、スピードは出ない。


「うる゛ぁああああああああああ」


笹倉上官の悲鳴、否、化け物のうめき声が響き渡る。その寸刻後、


「ぐしゃり」


鈍い音がした。

そこまで大きな音ではないのに、誰もがその音に耳と目を奪われた。

それに注目しなければならない気がした。


化け物の腹から伸びた手によって、燈の右太ももが握りつぶされたのだ。

聞こえてくる燈の悲鳴。

さらに悲鳴は恐怖心を増大させ、皆を立ちすくんだまま動けなくした。

ふと、春之助を見ると、嘔吐、放尿が止まらない様子だ。

それほどまでに、腹から伸びた腕は奇妙で、食パンの白いところを握りしめるかのように柔らかく太ももをつぶす姿には、異常な性癖を見せられているようでぞっとする。


さらには、雨も降り続いている。

雨は少しずつ体を蝕んでいく。立ちすくんだまま動けないのは、雨のせいで体が麻痺しているからかもしれない。


「た、たすげで、、、」


燈は僕に視線を向けながら、必死にそう助けを求める。

だが、何かしたいと思っても、自分には何をすることもできない。

強く噛んだ唇からは血が滲み出していた。

燈はその言葉を最後に悲鳴以外の言葉を発することはなかった。


化け物の笹倉上官は少しずつ落ち着きだし、うなり声もあげなくなった。

そして次の標的を定め、短く太く変形した足でのそりのそりと近くにいた別の少女に近づき、両手で右太ももを握りつぶしていく。

今度はマヨネーズを絞り出すときのようだ。

先ほどより力が強い。趣向を凝らした潰し方というわけか。

崩壊した理性がおかしな形で再構築したのか?


そんななか、燈が急に動き始めた。

先ほどまで悲鳴をあげながらぴくぴくと痙攣したかのような動きをしていただけであったのにだ。

燈はすでに片足しか使えないため、腕で這いながらこちらに向かってくる。

おそらく、太ももから体内に雨が入ったのであろう。

すでに彼女も理性はなく、少しずつ皮膚がただれてきている。

そんな燈の様子を見て、ただ俯くことしかできなかった。


「あーあー、こんなに悲惨なことになっちゃって」


すぐ近くから聞きなじみのない男性の声がした。

顔を上げると、身体全体を覆い隠す武装をした3人の男女がいた。


「あんたが言っていた場所と全然違うじゃん!そのせいで到着が遅れたんだぞ!」


身長はあまり高くない赤髪の女性がイライラした口調で、横の細い女の子に文句を言う。


「す、すみません!また索敵に失敗してしまいました!」


青い髪の女の子は文句を言う女の子に平謝りしている。


「まぁそういうなって。こいつの索敵がなかったらこんなに早く到着することもできねーんだから」


一番最初に聞こえた声と同じ声の主だ。

その場で一番年上だと見える大柄の男が、ドンマイと青い髪の子の頭をぽんぽんと叩く。

叩かれた女の子は、少し顔を赤らめて俯いている。


「まぁ、そういう話は置いといて、なかなか悲惨な状況だな~。じゃあ、おれはあのデカいやつ行くから、愛李(赤い髪)は他の子たちの相手よろしく~。エリカ(青い髪)はそこの坊主たちを避難させてくれ」


「「了解!」」


大柄の男がそう告げると、各自指令通りに動き出した。


「ま、まって、あの子は、燈はまだ生きてる!殺さないで!!」


男たちが持っているのは、どう考えても化け物を殺すために用意されたであろう武器だ。

それを見て、僕は咄嗟に燈が殺されることを察知した。


「え、なんて??」


赤い髪の女性は、僕の声に耳を傾けてくれた。

そう手に持っている大鎌で燈の首を切断しながら。


「あああああぁぁぁぁぁ、あかりぃぃぃぃぃぃっっっ!!!」


燈が目の前で殺されたショックで、僕は気を失ってしまった。


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