九十八話 龍の加護
室内で話し合う2人の少女達。その場に訪れる2人の大人達。王族3名と黒龍が集い、改めて話し合いが始まる。
「さて、紹介したい人が居ると聞いたのだが?」
私の対面に座った見るからに王様が話し始める。それに答えるラーナちゃん。少しツーンとして私相手ならばしないだろう冷たさを感じる。
「はい陛下。紹介致します。このお方は黒龍様であります」
「な!?誠か?」
「事実です。竜操の杖に魔力を込める事が出来ていましたので、黒龍様で間違いありません」
「そうか。しかし随分と御姿が変わりましたな?」
そう言いながら私を眺める王様。まあ、それは仕方ない。どうも父と勘違いをしており、それを正せて無いみたいだから。取り敢えず娘だと言う事を説明しておこうかな?
「はい。私の父がお世話になっております。私は黒龍の娘です」
「な!?あの方のご息女でありますか!?とすれば父君はどちらへ?」
私のお父さんは亡くなっています。と答えても大丈夫だろうか?相手は王様だから慎重に答えないとね。そう考えているとアイちゃんから
《そこは真実を言っておきましょう。どちらにせよ父と貴女は違いますからね》
『でもこの国の重要人物を殺したんだよね?私が』
《違います。貴女を守る為に亡くなったのです。間接的に殺したと言えなくも無いかもしれません。だとしても貴女が気にすることはありません。後悔では無く、寧ろ感謝をする事です。そうすればきっと父も報われます》
『そうだよね。ごめん』
《ふふ、気にし過ぎですよ。胸を張るのです。失敗を恐れず進むのです。そうすれば貴女はきっと幸せになれますよ。私が見守っているのですから》
『うん!いつもありがとう。頑張る』
《竜巫女に憧れているのかもしれませんが、貴女はいつも頑張っていますよ》
べた褒めされて気恥ずかしい思いをしてしまった。照れながら会話を終えて、先程の王様の質問に答える。
「父は亡くなってしまいました」
その言葉を聞き絶句してしまう3人の方。とても申し訳無さそうにする王様。そして王様を睨んでいる王妃様。この一瞬で1つ予想が浮かんだ。恐らく基本は王妃様は王様を立てている。しかし公務以外では尻に敷かれている気がする。私の中で階級ピラミッドが構築されていく。‥‥‥王妃様には逆らわない様にしておこう。
「陛下?不躾な質問をしてしまいましたね?王だからなんでも訊いて良い訳ではありませんわね」
「うっ、ぐっ、済まぬ。黒龍様。失礼な質問でした」
謝られてしまう私。しかも最高権力者に。気を遣われてしまうのは嫌なので、一応謝罪は受け取っておく。そもそもそこはあまり気にしてない。もうどうしようも無いから。なので
「い、いえ!頭を上げてください」
私がそう言えば質問者が切り替わり王妃様が口を開く。
「それでラーナちゃんに会いに来て下さったのですか?」
「うん。この国を助けて欲しいって頼まれたから」
私がそう言えばビクッとして震えながら下を向く竜巫女様。訝しむ様な表情の王様と王妃様。そして質問を続ける王妃様。もしや?とは思ったが、私がここに来た経緯を説明する。
「成る程。国の為にわざわざ来て頂いたと言う訳ですか?」
「竜巫女様からこの国で戦争とクーデターが発生したと聞いた。だから来た。黒龍だと証明する方法が無くて困ったけど、なんとか助けられそう」
私がそう言えば眉間に皺を寄せてラーナちゃんを睨む王様。あっ、これは怒ってますね。
「ラーナ?どう言う事だ?」
そして震えながら少しずつ話し始めるラーナちゃん。
「そ、その、この国の危機だと思い。それで、黒龍様に助けを」
「そうでは無い!クーデターとはどう言う事だ?」
「それは、その」
あー多分、嘘だね。そう言えばクーデターなんてどうやって情報を得たのか疑問だもんね。恐らく私に早く来て欲しくて‥‥‥嘘ついちゃったんだろうね。この国を守りたかったんだろうね。嘘は良くないけどね。
程なくして大粒の涙を流しながら謝り始めるラーナちゃん。
「ごめんなさい。お父様、お母様ごめんなさい」
今にも怒りそうな王様。それを手で制し口を開く王妃様。
「ラーナちゃん?顔を上げなさい」
「は、はい」
大泣きで下唇を噛み締めている女の子。とても痛ましい泣き顔のラーナちゃん。
「謝る相手が違います。私達ではありません。黒龍様に嘘をついたのです。ならば黒龍様に謝罪をしなくてはなりません」
「もうじわけ、ございまぜん。黒龍様」
ボロボロと涙を流すお姫様。私は怒っていない。でも多分このままにしておくと、後から物凄く怒られるのだろうなと予想する。なのでラーナちゃんを庇う。
「いいえ、怒っていませんから。それよりも竜巫女様は褒められたくて頑張ったみたいです。私は気にしていませんし、どうか褒めてあげて下さい」
私はそう言って王様を睨みつける。そうすれば申し訳無さそうに王様は頭を下げる。
国で1番偉い人が簡単に頭を下げている。そしてそれに続く王妃様。あぁ2番目まで。3番目の人は殆ど下げたままだよ。私は気にしていないから、話題を変える為に王様に何をして欲しいのか質問をしてみる事にする。
「それよりも、私はどうすれば良いの?敵国を滅ぼすの?」
「そ、その様な事は!しかし民を守る為に、黒龍様の御姿を他国に見せつけて頂きたいのです。さすれば民達も安心出来ます」
黒龍化して欲しいらしい。でもそれをするとアイちゃんがどうなるかわからない。でも出来れば期待に応えてあげたい。竜巫女様の為にも。そう思えばアイちゃんが話し掛けて来る。
《クロ?私を心配してますか?》
『うん』
《大丈夫です。黒龍化程度ならば問題ありません。何をしたら駄目なのかは、正確には判明していませんが恐らく大丈夫です》
『本当に!?それなら』
《ええ。可能です》
許可が出たので私は王様に応える。
「わかった。頑張るから、竜巫女様をあまり怒らないであげてね?」
「わかりました。ありがとうございます」
深々と頭を下げる王様。優しげな笑顔で私と娘を眺める王妃様。涙を溢しながら私を見つめる王女様。私は竜聖国の未来を守る為に立つ。
私に出来る限りを救う為に。
竜操の杖は国宝なのですが、教会に祀られているのはレプリカです。広く国外に杖の存在は知られており、情報欺瞞の為に設置していると言う訳です。本物は代々竜巫女が身に付けております。
杖を使えば限定的ではありますが竜を操れます。正確には命令が出来ます。これはイヴェトラ様が名を貰ったお返しに初代国王に渡した魔道具です。
かつて戦争に使い、国土を広げる事に成功した為に、各国は杖を巡って戦争を仕掛けています。仕方がありませんよね?それ程魅力のある道具ですから。