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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
四章 竜聖国
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九十話 始まりの歯車

この世界の技術では不釣り合いな、装置?の様な物の前に立っている男性がいる。その装置の中には水が張っており、小さな女の子が浮かんでいる。

女の子かどうかの判別をつけることすら難しいが間違い無く女の子で、まだ産まれて間もない赤ちゃんである。子供を眺めながら男性は口を開く。つまり独り言である。


「この装置の中ならば幼児期は問題無いだろう。この中ならば栄養や魔力の補給が自動で行われる。龍の子とは言えまだまだ弱いからな、力の暴発も怖いから暫くはこの中で成長させるとしよう。しかし便利な世の中になった物だな」


「しかし何故アリシアはイヴを我に預けたのだろうか?我よりも母が面倒を見る方が教育的に良いと思うが。まあアリシアの頼みとあれば構わんが、あの時のアリシアは少し変だったな」


「取り敢えずこの子はこの中に入れば大丈夫だな。久しぶりにアリシアとデートでもするかな?うむ、そうしよう。出来ればこの子とアリシアを竜聖国に連れて行きたい。この子は次期龍帝として祭り上げられるかもしれんな。それは可哀想だから、自我が芽生えてから戻るとしよう」


「さて、何はともあれテメリア王国か。あの国はきな臭い。さっさとアリシアを連れて行きたいが、何故か断られるし代わりに娘を預けられたな。よく考えれば何かを隠していたのか?嫌な予感がする」


黒髪の男性は、独り言を止めて建物から出て行く。自然豊かな木々に囲まれ、不自然な建物が目立つ場所。その男性は地面を思いっきり蹴り、空へと舞う。ある程度上空に至れば、翼を生やして高速で飛んで行く。


目的地周辺の上空で、目を凝らして地上を眺める。最愛の妻が居る、王都に異変が起きている様に見える。お祭りだろうか?と思い、地上に向かって高度を下げて行く。段々と近づけば広場を取り囲む様に人々が見ており、その中心で銀色の髪の女性が倒れている。事情を聞く為に気付かれ無い様人に紛れ、周囲の人に訊ねる。


「ど、どういう事だ!?何があった!?」

「俺も詳しくは知らないんだがな?国王様が、女神様を本物かどうかを調べると言ってな。女神様に何かを飲む様に指示をしてから、女神様がソレを飲んだんだ。それで多分毒だったんだろうな。女神様おいたわしや」


それを聞いて黒龍は大切な妻を抱き抱える。その動きに反応して、とある青年が黒龍に話し掛ける。周囲の人間はまばらに散って行き、人は減ってきている。


「あ、あなたは」

「何だ人間。我は今機嫌が悪い。死にたくなければこの場から消えよ」

「失礼致しました。私はこの国の錬金術師です」

「だから何だ」

「女神様を守れず、申し訳ありません」

「貴様が我が妻の言っていた同士とやらか?」

「女神様と志を共に、この国を変えようとしました。ですが、私は未熟でした」

「妻を守ろうとしたのか?」

「当然です!ですが、何も出来なかった」

「そうか、ならばここから消えよ。我の怒りを止められる者は居ない。アリシアの友人を殺すつもりは無い。だが我は貴様を避けて街を破壊出来るほど、器用では無い」

「申し訳ありません」

「とっとと行け。この会話すら、我には不快なのだ」


黒龍の言葉を聞いた、青年は近くの馬に乗って駆ける。それを見送った黒龍は本当の姿へと戻る。太古より黒龍の怒りに触れた者は全て、例外無く滅びの道を辿る事となっている。神を滅ぼし、人間を見限った龍は暴れ狂う。そして言うまでもなく、その街は廃墟となる。結果、沢山の死者が出た。怪我人よりもこの世界を去った者の方が多い。それ程までに黒龍は激怒し、終わりの時まで止まることは無かった。



龍が暴れる少し前。広場の真ん中に立っている私。国王から見下され、近くには毒の入った容器が置いてある。静まった空間で波紋を生む声が響く。


「さて!女神よ。其方には女神では無いのではないか?と言う、嫌疑が掛けられている。戦争では女神が居ながらあの結果。あの小国を滅ぼせず、終戦までさせてしまった。申し開きはあるか!?」


問われた私は理解している。私はここで死ぬ。そしてその事を最愛の夫に相談していない。未来予知で黒龍が暴れる光景を見た。私が死ぬのを黙っていれば、未来は変わる筈。娘も預けた。距離も置いた。後は私が自死するだけになった。全部計画通り。なのに得体の知れない感情が湧き上がる。


怖い。理解していた筈。今ここで死ぬのだと。人々を守る為、黒龍を暴れさせる訳にはいかない。なんとしても人々を守り、最愛の夫に罪を背負わせたくない。

怖い。でも、私が死ねば人の命は助かる。あぁ、大切な夫に泣き付きたい。抱き締められ、不遜に笑う夫の顔が見たい。助けて欲しい。死にたくない。感情が止まらず涙が溢れ始める。そして決心する為に最愛なる者の名を呟く。


「イヴェトラ様、嘘をついてごめんなさい」

「さあ!女神であると言う証明をするならば、そのカップの液体を飲むのだ!」


国王にそう言われて、カップを丁寧に持って口元に運ぶ。涙を流し女性は容器の中身を呷る。そして数秒後にその女性は倒れ、少し悶え、綺麗な蒼の瞳は光を失う。


気高く人の身でありながら、他者に祈り続けた者はその命を散らしてしまう。運命は動き始める。例えば、この未来を黒龍に相談すれば、未来は変わっていたのかも知れない。だがそれこそは、神のみぞ知ると言う事なのだから。

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