八十九話 イン・ニューヨク
前回の町を通過して4日。日が出てから数刻。朝と昼の間。その頃に次の街へと到達する。特に何も起こらず景色を眺めては寝て起きて、それから馬車を動かしての繰り返し。全員が退屈さに身を焦がしていた時にやっと到着する。
「やっと着いたー」
「いやー流石に長いわ」
「やはり冒険者様方には退屈ですかね?」
「あんまりジッとする事は無いからねー」
「それはリリアだけでしょ?」
「なに!?その私だけジッとしてられないみたいなのは!?」
「事実でしょ」
「そんな事ないよね!?ねえ?ルル?」
「うん?まあ‥‥‥うん。そうだね」
「あぁルルまで」
ルルさんは一応リリアさんを肯定しているけれどそれは多分違うやつだね。確かにリリアさんが座って待つイメージは無い。少し、と言うか結構イライラ?してた様な気もする。とは言え私は事実を述べるほど鬼では無いのだ。
《いえ?寧ろハッキリと言う方が清々しいかと。嘘は良くないですからね。まあどうでも良いですが、貴女は鬼では無く龍ですもんね》
『言わない優しさってあると思うの』
《確かにそうですね。貴女の言う通りです》
と言う事なので
「いえ!リリアさんは大人しくしていました!」
「あぁ唯一の癒しだあ」
「いや、子供に大人しいって言われるのは皮肉でしょ」
「ルビー君毒舌」
「ぐふぅ」
「あ!いやっ!違」
「ルビー君まで」
「違うんです。そんなつもりじゃ」
《中々どうして良い切れ味ですね》
私のせいで余計落ち込むリリアさん。言わない優しさってあるなと、別の意味で理解した。でもどうやらそれ程落ち込んでるわけでも無かったらしい。私が励まそうとすれば急に元気に戻ったから。いつもの3人の冗談らしい。寧ろ私が一杯食わされてしまった。
「ごめんってルビー君。許してよー」
「別に怒ってませんけど」
「怒ってるよー」
別に怒ってないですけど?ただ必死に謝ったのに、急に笑い出したからちょっと仕返ししてるだけです。まあ私も怒っていませんから、そろそろ許してあげますかね?
「ふふ、冗談です。意地悪なリリアさんにお返しです」
「やられたー」
「まあ、あれはリリアが悪いよ。謝ってるのにイジったから」
「うん。ルビー君は悪い事したらすぐに謝るのに、リリアは全く」
「あれ?私だけが悪いの??」
「リリアさんは悪くないです!」
「ルビー君がいい子過ぎて持って帰りたい」
抱き締められて連れていかれる私。別に苦しくは無いけど、私を抱えているから重く無いのかな?
「ルビー君滅茶苦茶軽いね」
「そうですか?」
「身長の割には軽い気がする。ちゃんと食べてる?」
「えっとまあ、一応」
他愛のない会話をしていれば今回泊まる宿に着いたみたい。カヴンさんが話し始める。
「さて今日は宿に泊まってから明日の昼にこの街を出ます。私は買い出しに行きますが、皆さんは自由にして下さい」
「え!?遊んでいいの?」
「そうですね計算よりやや早いのでのんびり出来ますから。まあ1日だけですけれど」
そう言って取り敢えず宿にチェックインしてから、必要な荷物などを馬車から出して部屋に置いたら遊んでいいらしい。部屋割りは私達4人とカヴンさん1人になった。私はカヴンさんと相部屋になりかけたが赤銅に拉致されてこの結果だ。
まあ3人は私を男の子では無いと知っているらしいからね。つまり助かったのかな?さてと、この宿には大浴場があるらしい。行ってみようかと思い準備をする。でもどうやらタオルは貸し出し出来るので必要な物は無い。
さて先程は意気揚々とお風呂に入ろうと決めていた。しかし今現在大きな問題に直面している。女湯に入れない事である。恐らく止められる。当然と言えばそうなのかもしれないが、なんと赤銅の皆まで来ている。仮面を外して素顔を見せれば女湯に入れるかもしれない。まさかこんな所で思わぬ伏兵である。
取り敢えず案内の人に話しかけてみる。
「あの女なんですけど」
「えっと、その仮面は?」
「その、色々あって外せなくて」
「うーん?流石にちょっと。親御さんは居ますか?」
「それが」
お互いに困っている。しかしその場に救いの手を差し伸べる人がいた。
「ルビー?駄目だよ1人で行動したら」
「あっ、その」
「親御さんですか」
「ごめんね。うちの子なの」
「お若いですね?」
「よく言われます」
とても笑顔のリリアさん。多分そう言う意味では無い。
「女の子ですか?」
「そうですよ」
「まあ子供ですから男の子でも親同伴でないといけませんから。失礼しました」
「いえいえこちらこそ」
どうやら男女問わず子供の1人入浴は駄目だったらしい。無事に突破したので女湯に向かう。
衣服を脱いで置いてある籠に入れる。全部脱いで裸になれば赤銅の全員から見られている。そしてアルカさんが話しかけてくる。
「いや、聞いてたけど本当に女の子なんだね」
「そうですね。内緒です」
「確かに脱いだら女の子らしい身体だね」
「そうですか?」
「うん。それよりも仮面は外さないんだ」
「まあ色々ありますから」
「残念」
「徹底してるんだねルビー君は」
「仕方ない。リリアもアルカも諦めて」
「ルルは気にならないの?」
「見れないのは仕方ない」
そう言って濁すルルさん。実際には見てるからフォローしてくれているんだよね。アレ?見せた方が上手くいくのかも?まあ、いっか。追い追いかな。
考えるのを辞めて浴場に行けば大浴場と露天風呂があるみたい。ここの旅館は所謂、温泉旅館と言うやつらしい。とても興奮する。何故か露天風呂に凄い惹かれるモノを感じる。とても浸かってみたい。なんでだろう?夢??だったのかな。どうやら誰も居ないみたいなので突撃する。
「ふぁ」
声を出しながら岩にもたれてお湯に浸かる。そうすれば親友が話しかけてくる。
《気持ちいいみたいですね》
『何故か抗えなかった』
《ふふ、私はお風呂と言う物に興味はありませんが貴女は違うのでしょうね》
『なんでだろう?』
《前世の貴女は温泉に憧れていたみたいですね》
『ふーん?』
《気持ち良いのならば何よりです。幸せそうな貴女を見るのが私の何よりの楽しみですからね》
『一緒に入れたらいいのにね』
《そう、ですね》
『うん』
少女は1人でお風呂を楽しむ。少し寒い風を肩に感じながらその温度差を噛み締める。2人だけの瞬間を大切に心の中で会話をする。少しでも思い出を分かち合う為に。
温泉とか行ったら掛け湯をして身体を洗ってから入浴するのがマナーです。ですが少女は汚れませんから問題ないでしょう。
ん?ならばお風呂に入る必要もない?
‥‥‥まあ旅人が真っ先にする事は汗を流す事だと思ってます。だから温泉回です。別に入らせたかった訳では無いです。ええ、断じて。
と、まあどうでも良い後書きでしたね。