八十七話 眠りし記憶
次話から19時の予約に変更します。大した事では無いかもしれませんが変更事なので。今まで夜中に読んで頂いていた方的には体感遅くなるので申し訳無いです。これからも変わらず読んで頂けると嬉しいです。
少女は夢を見ている。2人の男性が会話をしている。この記憶は誰のだろうかと思いながら眺める。段々と声が聞こえ始めて耳を傾ける。
「‥‥‥殿は名前がないのでしょうか?」
片方が訊ねればもう片方が少し悩んで話し始める。
「ん?我の名か。ふむ?‥‥‥イヴェトラ」
「イヴェトラ様、だけですか?」
「そうだが?今更どうした」
「その、黒龍殿と呼ぶのは些か他人行事だと思いましたので」
「ふん、敬称をつけているならば他人で間違い無いのではないか?」
「まあ、そうかもしれませんが」
「もう何千年と呼ばれなくなった。名など忘れておったわ」
「そうですか。では建国の記念にでもお名前を献上させて頂きたいのですが」
「ふむ?何か良い名があるか?」
「はい。イヴェトラ様に相応しいロードとリベリオンを献上致します」
黒髪の男性は大笑いをする。そして空気が冷えたかと思うほどに急激に表情を変えて話す。
「成る程。ロードは王か?リベリオンは?」
「はい。叛逆者と言う意味です」
「ふん、貴様も王であろうが?」
「貴方様の下に竜聖国があるのです。ですが貴方は神ではない。だとしても私より階位が下の名前は許されませんから」
「リベリオンにした理由は?」
「は!私たちの国は神と敵対している国です。そして貴方自身も。安直でしたか?」
砕けた表情の男性は少しだけ笑いながら答える。
「いや、まあ、貰うとしよう。だが我は貴様らを特に助けるつもりはない。望みがあるのならば自分で取りに行け」
「はい!貴方様が居るだけでも国民は安心します。なので貴方様のお手を煩わす様な事は致しません」
「ふん、貧相な子供が随分とまあ成長した物だな」
「は!奴隷だった私にチャンスを与えてくれました。ただそれだけで私はここまで来れたのです」
「ただの偶然だがな」
「そう言う事にしておきましょう」
「よし。ならば我は今日からイヴェトラ・ロード=リベリオンと名乗るとしよう。まあ黒龍と呼ばれ続けるだろうがな」
「確かに我らが友も畏れ多く、貴方様を名前で呼ぶのは私だけかもしれませんね」
「友か、まあ古き友人は我を龍帝と茶化す様に呼んでいたな」
そう言って静寂が訪れる。お互いが無言になり、いや口は動いている。そして段々と景色がぼやけ始める。引き上げられる感覚に抗う事も無く意識が繋がる。
そして揺れが収まっていてふと目が覚める。ルルさんはいつの間にやら外に出ている。太陽が沈んでおり恐らく野営するのだろう、道具を広げている。随分と寝ていたので目はとてもぱっちり開いている。そう言えば夢を見ていた気がするが思い出せない。忘れると言う事は恐らく大事な事では無いはず。そう思い夜ご飯を作り始める。
簡素なスープの様な物を食べながらそれとなく明日の予定を話し始める。どうやら明日の昼頃には町に辿り着くらしい。明日買い出しをしてから準備が整い次第すぐに出発する。そこで朝食兼昼食も取るみたいだ。
そう言えば魔物に一度も会ってない。少し退屈だと考えていると
《魔物に会いたいのですか?》
『うーん。暇じゃ無い?』
《まあそうですが。おっと、魔物で思い出しましたけれど、貴女は魔物ですよ?分類上は》
『え!?』
《正確には魔物に限り無く近い人間ですね》
『え?なら人間でいいんじゃ?』
《龍と言うものは魔物ですからね。常識としてはですが、まあ貴女は人から産まれましたからね》
『どう言う事??』
《龍寄りの人間と言ったところですかね?》
『う、うーん?』
《他人からは魔物と認識されるでしょうと言う事です》
『そっか』
《まあどちらでも良い事です》
『でもそれなら仲間を殺してるの?』
《まあそう言う考えもありますが、弱肉強食であり、貴女に歯向かう愚か者です。慈悲など無用ですね。それは人間に対してもですよ》
『難しいね』
《悩まなくとも好きにすれば良いのです。気に入らなければ根絶やしにしても構いません。貴女にはその権限が有りますから》
『私には出来なさそうだね』
《そうでしょうね》
どうやらアイちゃんは厳しくした方が良いと言っているらしい。でも甘い私には到底それは難しい。このままズルズルと引き延ばして行くのだろう。だけど私は決断する時が来るのだろうか?アイちゃんの指示では無い。私の意思で。大切な仲間を見捨てる事になるのだろうか?それは嫌だな。でも出来るだけ頑張ろう。
気を抜かない様に、と思いふと周囲を魔法で調べる。辺りを調べた結果何か人型の魔物?(恐らく人間では無い形をしている)が複数近づいて来る。辺りは暗く月も出て無い為、誰も気付いていない。ざっと10匹未満位の数の魔物が段々と寄って来ている。
食事を一度辞めてからナイフを抜いて構える。私の異変を見て反応する赤銅の3人。そしてどうやら皆気付いたらしい。リリアさんが口を開く。
「ゴブリン!?」
「みたいだね分担はどうする?」
「前衛2人を魔法で私がアシストする。ルビー君は好きに動いて。前に出ても良いよ。可能な限り助ける」
私はゴブリンをよく知らないので敵の能力を訊いてみる。
「強いんですか?」
「雑魚だよ。私とアルカでも全部倒せる」
「Dランクの魔物だからね。戦った事は無い?」
「その、無いです」
「んじゃ、戦ってみる?」
「あ、それ良いかもね」
するとカヴンさんが制止する。
「ルビー君には危険では無いですか!?」
「ん。大丈夫。うちの2人よりも多分強い。念の為援護はする」
「僕1人でやっても良いんですか?」
「うん。君の力見てみたいからね」
「私も気になるね」
「危なかったら助ける」
3人が少し下がったのを確認して、1番近い獲物に向かって走る。背の高さは私と同じくらいなので首にナイフが一応届く。近づいてから首元を一閃。返り血を浴びる前に次へと飛び掛かる。2、3、4と首に刃を走らせ、次の獲物は斬る場所を変える。腹であったり頭であったり突いてみたりと色々試す。そして最後の1匹がこの状態に恐れを成したのか背を向ける。
走り出したゴブリンの背中に迫り、最後に試してみたかった龍技撫爪を試す。ナイフを逆手に持ち替えて斜めに斬る。斬った剣閃の後を追う様に二筋の傷が入る。そして大きく吹っ飛び、舞い上がる。暗くてあまり良く見えないが鮮血と共に落下を確認する。当然ピクリとも動かず静止する。
初めて撫爪を使ったがかなり強い。しかしこの技の真価は使い易くてどの体勢でも使用できる事らしい。この結果を鑑みて他の龍技にも否応無く期待が膨らむね。
1人楽しんだ少年の姿を見て呆気に取られる4人。とても少年が起こした現象とは思えない。恐らく少年よりも重い筈の敵を軽々と上空へと舞い上がらせる力。そもそも敵に近付く速度も異常に早い。力も速度もあって、獲物の急所の首を寸分違わず同じ箇所を斬る精密さ。それらは並大抵の人類の強さを超えている。噂なんて当てにならないと思う3人+1人は少女が戻るのを待つのだった。
遂に戦闘回ですね!今まで濁して来ましたし、そろそろフラストレーションが。なので皆大好きゴブさんです。試し斬りにもってこいですよね?(ゴブリンファンの方ごめんなさい)