七十九話 目指す果て
少女は何者かと会話をしている。ここでは他に聞くものは居ない。
《本当に助けるのですか?》
『うん。アイちゃんは反対?』
《反対です。かの者の自業自得だと考えます。現に貴女は反応が出来ていた》
『でも、私を庇ってくれたんだよ?』
《だからなんですか?クロ、よく考えてください。回復魔法が存在するのかもわかりません。ましてや貴女の魔法であれば間違い無く目立つ筈です。あの幼子ならば問題無いでしょう。ですがこの者達は言うなれば他人です》
『だからと言って私に見逃せって言うの?』
《‥‥‥決めるのは貴女です。そして貴女ならば助けたいと言うのも解っていました。ですが人というものは‥‥‥この前の事で理解した筈です。いつか貴女に牙を剥く愚か者がいるやもしれません》
『私が負けるとでも?』
《そうは言っていません。ですが貴女はそんな者にまで情けを掛けるはずです》
『‥‥‥しないよ』
《そうですか?まあ良いです。貴女が決めた事ならば私に止める事などありません。可能な限り貴女を助ける事が私の役目ですから》
『ごめん』
《そんな貴女だからこそ私の予想を超えて行くのでしょうね》
『どういう事?』
《なんでもないです。さて、助けて貰ったのは事実です。お礼は言っておきましょう》
『うん』
そう言って会話を終える。そして私は両手を差し出してお礼を言いながら魔法を発動する。傷痕の周りが青く輝き、ルルさんの腕を治す。歯形は完全に消えて、思いっきり指圧を加えて感覚の有無を確認する。痛がったので治った様子だ。
「痛っ!うぁ」
「我慢して下さい。問題無いみたいですね」
「あ、ありがとう」
「え!?え?回復魔法?」
「僕の魔法です」
「な、成る程。それなら顔も隠すか」
「回復魔法って存在しないのですか?」
「い、いや。一応ある。けど熟練者でさえ応急処置位しか出来なくて、魔力も相当使うから存在しないと言って良いくらい少数だね」
「希少度が高過ぎてお国に保護される位には価値が高いよ」
「君程の腕前なら君を巡って戦争が起きるかも」
「そうですか。なら内緒でお願いします」
私がそう言えば3人共頷いてくれて、どうやら内緒にしてくれるみたい。どうなる事やらと思いながらも治したけれど結果オーライだよ。
「ごめんね。ルビー君。私の所為で」
「ううん。ルルさんは僕を庇ってくれたから」
「おやおや?何があったのかな?詳しく教えてよ、ねえ?ルル?」
「なんでもない」
「へえー?私も気になるなあ」
私を置いてけぼりで3人で盛り上がる。所謂これが姦しいと言うヤツだろうか?一応私も女の子なんだけどね。それよりも良いなあ。3人が仲良さそうで。私も仲間が居たらなあ。そんな事を考える。
《貴女には私がいますよ?》
『うん。わかってるよ。でも私は人じゃないからね。時々寂しくなるよ』
《そうですね。貴女の全てを受け入れてくれる人はいるかもしれません。それでもいない可能性が高いのですよ。苦しいと思います。それでも私は貴女が強く生きていて欲しいと願います》
『うん。ありがとう』
《力になれず、申し訳ありません》
『違うよ。アイちゃんがいつも私を想ってくれているのは知っているよ』
《はい》
悪い訳でも間違っている訳でもない。なのに私に謝るアイちゃん。お互いに寂しさを覚えながら黙る。ふと前を向けば3人が私を見ている。なんだろうかと考えると
「ねえ。今回の報酬どうする?」
「僕は‥‥‥一匹だけなので少しだけ頂ければ」
私がそう言ってしまえば、少し空気が固まってからリリアさんが話し始める。
「あーその、お願いがあるんだけどね」
「はい?」
「今回の報酬は君が貰うべきだと思うんだよね。それで良かったらその、私達のパーティーに入らない?」
「え?」
「報酬はさ、君が治療してくれた代金には遠く及ばないけど、内緒にもするしどうかそれでお願い出来ない?」
「えっとその、少し混乱してます」
「あ!いや、そのまあ、考えてくれると嬉しいかなーって」
「他の皆さんは良いのですか?」
「ルルを治療してくれたからね。その恩には変えられないよ」
「うん。仲間になって欲しい」
私みたいな我儘を仲間にしたいと言ってくれる赤銅の人達。でも私は‥‥‥どうしようか?何が正しいのかよくわからない。アイちゃんはどうだろうか?
《貴女が望むなら良いでしょう。貴女が揺らぐのならそれはきっと価値のある物です》
『うん、でもさまた、あの時みたいにならないかな?』
《どうでしょうね。ただ正解は無いのかもしれません。貴女はよく私を頼ります。それはとても嬉しいです。でも私と貴女の求める結果は、至る結果は違うという事でしょうね》
『難しいよ。どう言う事?』
《難しいのですよ。ですがまあ、悩む事も大事なのかもしれません》
『うーん』
聞いても答えは出ない。恐らくアイちゃんでも難しい事なのかもしれない。だから答えを出せないので
「少しだけ、考えさせて下さい」
「あ、うん!そうだよね。ごめんね急に。また今度でいいから」
「まあ仲間では無くても一緒に依頼を受ける事も出来るし、そんなに急がなくても良いからさ」
「うん。また良かったら。お願い」
結局報酬は4等分になり、4人は帰路に就く。各々は思考に耽り、少しぎこちない空気を纏いながら街へと戻るのだった。