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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
四章 竜聖国
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七十四話 親愛なる貴女へ

光が宿った空間で抱き合う双子の少女達。気まずそうな空気が流れる。少し間を置いて片方が離れる。名残惜しそうに見つめる、もう片方。

冷静で妹に甘い姉。我儘で優しい妹。見た目は全く同じで、並べば瞳の色でしか判別する術は無い。絶世の美少女(まだ幼いが)で女神と見紛う程に神秘的な雰囲気を醸し出す。

そして妹が話し掛ける。


『それで?他には何かある?』

《そうですね。私はもう殆ど時間はありませんが、その瞬間がいつかまではもうわからないです。逆に貴女は寿命が無いと思われます》

『そっか』

《貴女に最後の龍の力を渡したら封印が解ける筈です。そうでなくとも封印はかなり弱っています。私如きが貴女を縛る事など出来ませんから》

『じゃあその力を望まなければ、かなり保つと言う感じかな?』

《そうでしょうね。寿命が無いと思うのは、父が亡くなった時の歳は3000を超えていますからね》

『ええ!?』

《それでいて衰えていた訳では無いので寿命は無しと推測しています。これは父の記憶から掬った情報です》

『そっか、もう私のそばに居てくれるのはアイちゃんだけなんだね』

《ごめんなさい》

『なんで謝るのさ。私だって同じ気持ちだよ?でもまあ、私の親は優しかったんだね』

《はい》


しんみりとした雰囲気になってしまい、お互いに会話が止まる。もう他には無いか確認をする為にもう一度質問する。


『もう終わり?』

《そうですね》

『ならもう戻るよ』

《あ、》

『何?』

《も、もう少しだけ、その》


そう言ってもじもじするアイちゃん。照れて少し赤くなっている。同じ私のはずなのに妙に愛おしい。私って他人に甘いのかな?と疑ってしまう。とは言え己の欲望には逆らえないので無言で抱きしめる。


美少女2人が抱き合ってなんとも言えない妖しい空気となる。時折姉の方は熱の籠った声音で妹に甘えている。口を動かして何かを話している様にも見える。妹は姉の背中を撫であやしている。立場が逆転しているのだがそんな事も忘れて甘え、甘やかしている。その姿は家族への親愛であり、其れは他の誰にも邪魔をされぬ永遠の絆である。


暫し時間が流れ、落ち着いたのか2人は離れる。時間が流れたとは言ってもこの空間ではほとんど時は流れない。体感と言うものだ。だが確かに想いを伝え合う事で、悠久の愛となる。片や夢幻の儚い命。片や無限の如き寿命。その差がお互いを引き裂く近い未来。どれだけ辛くとも泣かない魂達は、笑って言葉を伝え合う。


『じゃ、帰るね』

《はい、また来て下さい》

『うん。大好きだよ。アイちゃん』

《私もです。愛していますよ。クロ》


肉体へと繋ぎ直した少女は、自身の大切な妹の為に奮闘する。愛情に目覚めた少女は人の為に戦うと決めた。


次の日から女将さんと相談を繰り返して、相手の親にも会いに行ってみたりした。当然一筋縄ではいかず、金額を上げられたり厄介なゴロツキが出たりと大変苦労している。それでも少しずつ進み狂わされた予定をなんとか修正しつつ、やっと昨日家族になったのだった。



少女は今、妹に詰められなんとか凌ごうとしている。「あーん」によって苦戦した後の戦い。つまり、リナちゃん軍による「お姉ちゃん!私のお姉ちゃんになってよ!」戦争である。この戦いは非常に厳しい戦いである。勝利条件は「泣かさずにリナちゃん軍を説得」であり、敗北条件は「クロが家族への帰属」である。


勝利条件はほぼ不可能であり、敗北は許されない。少女は寿命が無いので関係を深くすると後々必ず後悔するからこそ断っている。

まあ、もう手遅れではあるのだが。さらに言えばリナちゃんの説得は、女将さんの計略であるのだから止むことは無い。つまり敗北必須の耐え続ける他、術は無い。それもいつまで続くのか分からぬ耐久戦である。少女は詰んでいた。


なんとか捌き食事を終えてから、少女は外へと出掛ける。最近ではあまりに忙しすぎてリド防具店や冒険者ギルドに一度も行ってない。ギルドに至っては間違いなく一ヶ月は経っている。変装の手間があるため冒険者業務は暫くお休みにしていたのだ。先週にリドさんから、今日来てくれと言われたため向かっている。久しぶりの自由時間と言うことでとても楽しみにしている。


早朝ではないので人が居るのは分かっていたのだが、何故かリド防具店に客が数人居る。何故かと言うのは失礼が過ぎるのだが、私の思考は困惑が勝ってしまった。

取り敢えず店に入ってみたがやはりお客さんで間違い無いらしい。冒険者達は商品を見ている。私がとても場違いな気がして来て少し帰りたい。注目も浴びてるし。そう思っているとリドさんが


「おう!嬢ちゃん待ってたよ」

「え?約束はしてたけど、待ってた?」

「そうそう。渡したいものがあってね」


そう言って奥から何かを取り出してカウンターに置く。全容は見えないが(身長が足りていない)とても綺麗に箱詰めされており、リボンが結んである。訊いて欲しそうな笑顔のリドさんなので質問をする。


「これは?」

「ふふん。ペンダントだよ。何にしようか凄く悩んだんだけどね」

「えっと?何故」

「いつもお世話になってるからね」

「私の方がお世話になってます」

「いやいや」

「いえいえ」

「頼む!貰ってくれ。嬢ちゃんの為に作ったんだ」

「でも、その、高そうですし」

「勿論お金は要らないよ!それにこれはお守りさ。安全祈願のね。怪我をしない様にって願いを込めて作ったんだよ」


どうしたものかと困っているとアイちゃんから

《これはアレですね。愛されておりますね。とまあ冗談は置いておきますが、貰ってあげないと駄目でしょうね。この者は繊細ですから》

『でもタダでは』

《ふむ、恐らくですが貴女は払っていますよ。お代は》

『そうなの?』

《多分》


アイちゃんがそう言うならばそうなのかも?押し問答になるだけなので折れる事にする。

「わかった。でも必ずなんとかして返す」

「要らないよ。だってこのお店は嬢ちゃんのおかげなんだから」


意味はわからないまま蒼玉のペンダントを受け取ってお店を後にする少女。少女は今日も誰かを幸せに導きながら宿へと戻るのだった。

こんな感じで書いてますけれど、そう言う事は無しです。健全なのです。もし何か思うことがあれば、各人の妄想でお願いします。


因みに2回目抱き付く必要はなかったです。アイちゃんがもう少し、と言ったのは抱き付いて欲しかったのでは無く、もう少しいて欲しいと言う意味です。まあクロは天然ですからね。

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