七十三話 想い
さて、今回から第四章です。(暫定)タイトルは「竜聖国」です。一旦節目の章も終わり、心機一転といった感じです。どうぞ楽しみにして下さいませ。
風は落ち葉を攫い、少し寒い。日は出てから半刻、朝の秋模様である。木々に葉は残っているので夏を越えて直ぐ、と言う所だ。
さて、とある宿に住み込みで働く姉妹がいた。血が繋がっている訳では無い。だがその絆でお互いを大切にしていて、本物の姉妹となんら遜色ない。殆ど何時も一緒で、今もご飯を共に食べている。何を思ったのか妹の方が姉に向かってご飯を差し出す。
「おねえちゃん、あーん」
「え!?な、なに」
戸惑っている姉を見て、少し不満げに頬を膨らませてもう一度繰り返す
「あーん」
「えっと、でも、恥ずかしいし」
「たべてくれないの?」
妹は悲しそうな表情で姉を見つめる。その顔が効いたのか、姉は観念して食べる。まだ大して寒くは無いが、湯気が出そうなほど真っ赤になっている。その状況を眺める宿泊客達や女将さん夫婦。笑顔の絶えぬ宿である。
様子を見ていた女将さんがやって来て言う。
「全くもう、朝から何やってんのさ」
「すいません。イミナさん」
「あ、ごめんなさい。その、お、おかあさん」
「まだ慣れないか」
「ふふ、良いのさ。ゆっくりで。それよりもクロもうちの子にならない?」
「昨日お伝えしましたが、私の親はただ2人だけです。その、ごめんなさい。でも、嬉しかったです」
「仕方ないね。まあいつでも歓迎するからさ、気が変わったら言って欲しいね」
とても優しい言葉を掛けられ目が潤む。昨日やっと正式にリナちゃんの親権を女将さんに移す事が出来た。それに伴って昨日はお店を休みにしてから色々と会話をした。女将さん達はリナちゃんを快く引き取ってくれたので、昨日から家族になっている。その際に私も家族にならないか誘われていた。でも私は断る事にした。リナちゃんは納得出来ていないみたいだが仕方がなかった。その場では適当にはぐらかすしかなかったが、その一月ほど前にアイちゃんと話したから。私はその会話を思い出す。
《クロ、貴女は昔何者だったか知っていますか?》
『昔?前世と言う事かな?人だったんだと思うけど』
《ええ、そうですね。ある世界から来たんですよ》
『ふーん』
《驚かないのですね》
『時々そうかな?って思う事があったから』
《そうでしたか。では、貴女の親についてです》
『父は黒龍だよね?』
《そうですね。そして母が恐らく女神です》
『え!?敵同士だったんじゃ無いの?』
《確証は無いですが、貴女の力を抑える程です。ほぼ間違い無いでしょう。例えば銀髪碧眼と言う情報も貴女の左目と一致します。他には‥‥自分で見た方が早いでしょう。右眼で己を覗いてみて下さい》
そう言われて右眼の力を使う
体力 300 /300
筋力 266
敏捷 107
防御 53
魔力 2702 /2706
耐魔 281
魔法‥‥魔導認識操作 肉体強化 女神の祈り
状態‥‥封印 対認識
特殊能力‥黒龍の眼 龍化/人化 龍鱗
不可視の歪衣 魔力回復II 龍技I
蒼神の導き
能力がかなり伸びているのはさておき、二つほど項目が増えているので右眼で詳しく見る。
女神の祈り‥‥‥傷を治し、安らぎを与える。効果は使用者の優しさに左右され、自身には使用出来ない。愛情溢れる者の象徴。
蒼神の導き‥‥‥神の加護。神へと至る素質。神に類する能力が宿る。
あれ?いつの間にか神になってるよ私。なんでだろう?あの魔石を光らせたからかな?そう考察しているとアイちゃんから否定が飛んで来る。
《違いますよ。アレのほんの少し前です。女将さんに励まされてた時です》
『どんなだっけ?』
《辛くても貴女は他人の事を思っていました。その時に吹っ切れたのでしょう。貴女から優しい光が出て私を包んだので、その報告も兼ねてお話をしているのですから》
『成る程?』
《あの子が寝てしまったのは女神の祈りの効果ですね》
『そっか』
《話を戻します。次は封印についてです》
『うん』
《分かりやすく言います。封印者は私です。封印が解けたら私は消えます。以上です》
『え?』
《分かりましたか?》
『え、いや?ちょっと待って。封印者はアイちゃんだよね。それよりも解けたら消える?』
《何か?》
『本当なの?』
《はい》
その言葉を聞いた私は一瞬頭が回らなくなっていたのだろう。そこから少し会話が止まる。その後の言った言葉は少し後悔してる。でもまあ、お互いに本音を言い合えたのだから結果的には良かった。
つまりなんと言ったかと言うと
『アイちゃんの馬鹿!!』
《ば、馬鹿とはなんですか!?》
『馬鹿だよ!この大馬鹿アイちゃん!!』
《な、な》
『あー時々悲しそうにしてたのはそれだったんだ。まさか黙って消えるつもりだったんじゃ無いの?』
《そ、それは》
『はい、ぷっつーん』
《え?》
『今からそっち行く』
《え?と?どう言うことですか?》
『大人しく座って待ってて。逃げたら許さないから』
《は、ハイ!》
何故かは知らないが、アイちゃんの居る空間へと行ける気がしたので接続する。するとそこには私に瓜二つの少女が居た。違いと言えば両目とも赤だと言う事だけである。どうやら言われた通り、と言うか正座して怯えている。
《ど、どうやって来たんですか?》
『さあ?神の力だよ。多分ね』
《お、怒ってますか?》
『うん。それはもう』
そう言って抱きしめる。涙をこぼし泣き始めるアイちゃん。初めてアイちゃんに勝った気がする。それよりもお説教タイムが始まる。
『どうして黙っていたの?』
《嫌われると思って。わ、私は嘘つきですから》
『ふーん。私が嫌いになると思ってたんだ』
《ごめんなさい。黙ってて》
『もう、良いよ。許す。でも困った事があったら助け合おうよ?私とアイちゃんは2人で1人なんだから』
《私は貴女の偽物です》
『そ、じゃあアイちゃんの気持ちも偽物なんだ』
《そんな訳ないです!》
『なら、それで良いじゃん』
《うっ、》
『私アイちゃん好きだよ?だから黙って消えないで』
《すみま、せん》
『うん』
そう言って2人抱きしめ合う。話をする流れでは無く、もう暫く少女達はこの時を過ごすのだった。