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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
三章 慈愛
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七十話 焦燥

初めて昼に働いた日の次の日。時刻は昼前、10時頃だろうか。リナちゃんから聞いておいた家へと向かう。一応アイちゃんからのアドバイス通り私1人で向かう。何故私だけで行った方が良いのかは分からないが、アイちゃんが言うならば正しいのだろう。


目的地に辿り着き、扉を叩く。全く反応がないので呼びかけながらもう一度扉を叩く。すると足音が聞こえて来たので少し下がって待つ。扉が開いて女性が顔を出してから、いかにも面倒臭そうに私に言い放つ。


「なんだい、朝から」

「すみません。そちらの娘さんを保護したのですが」

「ああん?だから何?金を払えってのかい?」

「いえ、貰っていっても良いですか?」

「はん、勝手にしな!いや?待てよ、タダではやれないね?」


あんな扱いをしておいてこの対応はいくらなんでも無いと思う。勝手にしろと言いながらも気が変わったのか、ちゃっかり請求までして来てるし。お金を払えば良いのだろうか?私の全財産は金貨10枚程だった気がする。一応お金は全額持ってるけど、どうしようか。

そう悩んでいると


《今払うのは辞めておきましょう。図に乗って再三、強請って来るのは目に見えています》

『じゃあ、どうするの?黙って引き下がるの?』

そう言いながら拳を握り込む

《落ち着いてください。金額の交渉はしておくべきです。ですが正式な書類がないと手を出さない方が良いです。なので金額を決めさせてから、帰りましょう》

『本当に、そうしないといけないの?』

《良いですか?貴女は子供です。貴女の話を聞いてくれる者はいません。だからこそ頼りになる大人を味方に付けなくてはなりません》


子供だと言われカチンと来てしまう

『黒龍である私が?』

《クロ、冷静に》

『私は冷静だよ!』

《貴女の気持ちはわかります。でもあの子を助ける為ならば失敗は許されないのです》

『っ!‥‥‥わかった』

《はい》

『ごめん』

《いいえ、貴女が優しいのはよくわかっていますよ》


つい、イラッとしてしまい、アイちゃんにあたってしまったのに、許してくれる親友に感謝をする。それにどさくさに紛れて褒められて照れてしまう。


『もう、それは良いよ』

《ふふ、照れていますね?貴女は自信を持って成すべき事に集中すれば、出来ない事など無いのですよ》

『ありがとう。いつも、その感謝してる』

《ええ、私もです》

お互いに感謝を伝えあってから話題を変える。


『それより金額はどうしようか?』

《そうですね、金貨2枚を提示してみましょう》

『そんなに安くて良いの?』

《貴女の財布的にもある程度低めで交渉すべきです。あの子の価値の話では無く、相手が過小評価していればそれで良し。もっと金額を提示してくるならば、ある程度は余裕を持たせて提示しておくのが良いのです》

『リナちゃんは金貨2枚程度の価値しかないの?』

《いいえ、そうでは無いです。しかし相手は必ずや引き上げて来ます。とは言えこちらも黙って言いなりになる事も出来ません。こちらの手札を見せない事も大事なのです》

『よくわからないけど、弱みを見せたらダメって事?』

《その通りです。分かっているではないですか》

『なんだか納得は出来ないけどね』

《何がですか?》

『リナちゃんについて交渉すると言う事が』

《そう、ですね。割り切るしか無いです》

『うん』


決まったので金額を提示する

「金貨2枚が私の全財産です。これなら文句無いですか?」

「ふん、出しな」

「今は無いので、また改めて来ます。その時は書類を持ってきます」

「チッ!持ってないなら帰んな」

「そのつもりです」


なんだろうかあの親は。本当に優しいリナちゃんの親だろうか?娘を厄介払いしようとした挙句にお金の事しか考えてない。ああ、早くあの子を解放してあげないといけない。母親はまともかもしれないと思った自分は馬鹿だった。アイちゃんはこの事を分かっていたのだろう。だからこそ私1人で行かせたのだと理解出来る。私は何も分かっていなかった。


そう考えて踵を返す。対策法はアイちゃんには分からないらしく、書類関係は大人を頼るしか無い。その為一度宿に帰ろうと思う。


誰を頼ろうか?私が頼りにしている人は皆優しい人だから助けてくれると思う。私は無力だよ。本当に。何もしてやれない。そう考えて自分自身を嘆いていると


《女将さんを頼るのが良いと思います。住居もあって、あの子もよく懐いています》

『うん、ありがとう』

《気にしては、駄目ですよ?》


親友がそう言ってくれる。だが私は心の底から怒りが湧いて来る。それは何に対してだろうか?あの母親に対してだろうか?それとも自分自身にだろうか?いつからだろうか?こんなにもイライラとしてしまうのは。


親友は私の事を優しいと言ってくれる。でも私は何も出来なくて、それで親友に怒りをぶつけるしか無くて、そんな私が優しい訳が無い。冷静にもなれない。龍のくせに弱い。そんな自分自身が嫌いだ。

家族は本当に私を愛してくれていたのだろうか?

私は‥‥‥捨てられたのでは無いだろうか?私は色んな人に迷惑を掛けて生きているだけの、厄介な存在では無いだろうか?

私は‥‥‥なんなのだろうか。アイちゃんに救われた私はどうすれば良いだろうか。


暗い感情に包まれ少女は悩み続ける。その心を見ていた魂は、掛ける言葉を見つけられないままお互い無言で宿へと向かうのだった。

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