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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
三章 慈愛
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六十九話 裏の心

何もない空間で1人考え事をするモノが居る。

それは時折、独り言を言ったりしている。黙っているかと思うと話し始める。


「そろそろ時間切れでしょうか。長く保った方ですかね?とは言え、少し寂しいものです」

「まあ、最後の鍵だけは使って欲しくないですね。あれは貴女の性質には合わない物ですから」

「貴女は泣いてくれるでしょうか?いや、泣いて欲しくないです。常に笑っていて欲しいです」

「貴女の優しさが大好きです。だからこそ返さなくてはなりません。それでも、少しだけ待っていて欲しいのです。我儘でごめんなさい」


小さな魂は嗚咽混じりの声で誰かに謝っている。それはさながら人を殺した罪人が、その家族に懺悔をする様に泣いている。


「あの時、私はミスをしました。そのせいで私は気付き、今もここに未練がましく残っています」

「気付いたなら即座に返しておくべきでした。私の都合の良い様に誘導して、それでも貴女は自分の意思で進んでいます」

「元から私なんて必要無かった。でも頼られるのが嬉しくて、期待されるのが嬉しくて、でも嫌われるのだけはイヤで」

「成長してほしいと言いながらも、龍の力を使わせない様にしていました。私は本当に卑怯です。でも少しだけでも貴女の側に居たかった。そんな自分が嫌いです」

「でも貴女は私の事が大好きだと言ってくれました。とても嬉しかった。むしろ嫌っていたならば未練など無かったのに」

「何もしなくても貴女は強くなります。だからこんな私の足掻きなど無駄で、寧ろ足掻いてはいけないのですよね」

「貴女と話せば話すほど消えたくないと、そう思ってしまいます。許されない事です」

「貴女に触れて、貴女を知って、私は嫌いだった。その筈なのにたった一度助けられただけで私は貴女の事が大好きになってしまいました」

「自分でも思います。私は単純なのだと。最後の鍵を渡さなくても、いずれ権限は渡ってしまうでしょう。なのであと少し、ほんの少しだけ貴女の側に置いてください」


小さな魂は泣きながらその全てを差し出す様に祈り続ける。まるでその魂を己の神へと献上するかの如く。


そして何かに反応して慌てた様に感情を切り替えている。それは何かを隠している様で、誰かと話し始める。


『ねえ?どうだった?』

そう問われた魂は少女の中を覗き込む。どうやら試験途中で、先程ホワイトスネークと戦った評価が欲しいらしい。つまり褒めて欲しいらしい。とは言え甘い評価は良くないので一応褒めつつ


《そうですね。幾つかお伝えすることがあります。良い判断でした。が、もしあのまま切っていても血は飛び散る事は無かったです》


そう答える。すると色々と疑問を持ったのだろう。少女から沢山の質問が繰り広げられる。魂は少女と話すのが楽しく色んな会話を楽しむ。ふとその魂が珍しく疑問を投げかけてみた。すると帰って来た返事が


『自分でもわからないけど、なんとなくこうフッと冷静になる時があるの。その時は怖くなくて、なんでも出来る気がする』


それを聞いて考える。少しずつ混ざり始めている。貴女の記憶は殆ど戻っていない。代わりに私は全てを思い出している。クロが人間だった記憶。どう言う理由で私のところに来て、私を助けてくれたのかと言うのも。その時に私は何をしたのかを。クロは優しい。対して私は間違いなく冷酷である。今のクロの状態は初めて魂が混ざった際に、お互いに性質を分け合ったのだろう。だからこそ少しずつクロは冷静に考える事も出来る様になって来ている。


侵食は進んでいる。そして間違いなく消える私。いやもうその事は諦めている。かつての私も貴女を助ける事を望んだ。そしてその時の私は死を恐れてなどいなかった。でも今は怖い。貴女がくれた希望を見て私は死ぬのが怖い。貴女ならば私をもう一度救ってくれるのでは無いだろうか?そんな淡い期待を持ってしまう自分が嫌になる。そして口に出して自分を納得させる


《私はいつ消えても不思議では無かった。そしていつの日か貴女にその全てを返す時が来る。その時は貴女に笑ってさよならと言うよ。だから遅くなってごめんね》


優しい声音で決意をしたその小さな魂は、泣くのをやめて誰かを想い願う。命を無くしたその魂が、分け与えてくれた者へと告げた固い意志。様々な感情の混ざった意志。二度と表に出る事は無い。そう思いながら魂は少女に繋げる。



翠木亭でお昼の仕事をしている少女は唐突に疑問が出来たのでアイちゃんに質問をしてみる。


『ねえ?アイちゃん』

《なんでしょうか?》

『私ってさ、子供なのかな?』

《12歳ですから、一般的には子供ですね》

『胸がないよね』

《ええ、まあ》

『さっきアイちゃんが笑っていたのは置いておくとして、昔の私って胸が無かったのかな?』

《どうしてですか?》

『悩んだことは無いのに、なぜか気になるんだよね』

《そう、ですか。まだ貴女は成長期ですから問題ないですよ》

『うーん』


親友が少し悲しんだ様な気もしたが、考えてもよく分からないので釈然としないまま会話を終えたのだった

この話の時系列は六十七話と六十八話の間の話です。若干分かりにくかったかもしれません。この話の会話をした後にアイちゃんが胸の事を弄る(六十八話)感じです。

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