六話 看板娘のカナ
少し歩いて、(正確には、抱っこで連れて行かれて)辿り着いたのは風来亭と言う、何とも和やかな食堂である。
大きさだけでいえばこの村の中でも2番目に大きい。
とは言え、1番大きいのは村長宅なので比べるのも変な話ではある。
また、2番目とは言っても、あくまでこの村基準であり、丸型テーブルが8つ置いてあるだけの簡素な店である。良い雰囲気が、売りの店である。
それはさておき、中に入ってみれば昼時もあってか、沢山の人の話し声や騒ぎ声が聞こえる。
相席で食べるのが普通の食堂で、それでも空いている席は無いと思えるくらいには満席である。
因みに、この世界にある全ての村の中でも特にこの村は小さい部類である。
そして話し始める2人の男達。
「遅かったかな?かなり混んでいるな」
「あん?いっつもこんなもんだぜ昼は」
「そうか。確かに考えてみれば昼はほとんど来たことがないな」
「おっ?あそこだ。3人座れるな」
「本当だ。座ろう」
そう言って、私は2人の間に座らせられる。
すると、他に座っている人がトライさん達に話し掛ける。
「おい、遂に誘拐か?アルバスお前ってやつは。それにトライまで一緒に。特にトライ、お前はカミさんに殺されたりしねえのか?」
「バカ!ちげえよ。テメーと一緒にすんなガース。遭難してたから、村に連れてきてやっただけだよ。なあ、そうだろ?」
「ああ、そうだ。それにフレアには説明したかったんだが、家にいなくてな」
「ふーん?」
少し疑る様な目で、私を見るガースさんと言う人は少し苦手だと思う。なので、つい下を向いてしまう。
それより、フレアさんと言うのは会話の感じで察するに、トライさんの奥さんってことかな?
おっと、余計な事を考えたかも?それよりも誤解を解かなきゃ。
「はい。2人には命を助けて貰って有難うございます」
「うわ、小さいのに礼儀正しいな。悪いな疑って。それよりも、良いとこの嬢ちゃんかも知れねえが、どうすんのよ?」
「取り敢えず、トライのとこに預けるのが良いだろうな。また後で俺たちは、村長に報告しに行くから大丈夫だろう」
そう言って話していると女の人が近づいてきて
「いらっしゃーい。注文は何?って、何!この娘!?滅茶苦茶可愛い子じゃん!遂に誘拐?」
「お前らは全く。揃いも揃って同じことしか言わねえなあ」
「だってー?それはねえ??アルバスさんだし」
そう言って、アルバスさんとこちらを見る女性の店員さん。目線が私達を行ったり来たりしてる。
まあ、確かにアルバスさんは普通の人じゃないよね。見た目的に。
そんなことを考えていると、トライさんが会話を断ち切る。
「カナちゃん注文いい?」
「あっ!忘れてたどうぞ」
そう言って、各々注文していく。トライさんが私のも頼んでくれた。暫し、待ってから料理がきた。
「はい、お待たせ。お嬢ちゃんには、お姉さんからサービスでリンゴだよ。あと、名前は聞いても良いかな?」
と聞かれたので、出来るだけの笑顔で名前を答える。
「ありがとうクロです」
「可愛い。何この娘、ヤバいわ」
2人はその言葉を軽く流している。
それよりも、店員さんなのに一緒に座ってて良いのだろうか?
考えても、仕方ないのかもしれないけど。
少し悩んでいると、トライさんが優しげに喋る。
「それじゃあ食べようか」
「俺はもう食ってるぜ」
まあいっか。許可を頂いたので食事に集中しよう。っとその前に
「いただきます」
「あん?何だ、それ?」
「私の住んでた国の、ご飯を食べる時のお祈り?みたいなものです。多分?」
「何だか疑問系だな」
私も言っていて思ったけれど、やはり曖昧な記憶だよね。そもそも、いただきますってどういう意味なのだろう?
「何だか、忘れてはいけない気がしたので」
「えっ!?クロちゃんひょっとして記憶喪失なの?まずいじゃん!」
「まあ、そう言うわけだから、この娘には優しくしてやってくれると嬉しいな」
紹介までしてくれるトライさん。とても有難い。
こうして、村の人を覚えながらも、みんなと仲良くなれたら良いなあ、と思いながら食事を楽しむのであった。
ちなみにカナさんは厨房から怒られてました。