六十八話 親子
そう言えば忘れられてるかもしれないですが、吸魔の宝玉について説明しておきます。あれは初めてクロが黒龍化した時に同化してます。その事を書き忘れてたので今更ですけどね。ともかく今後吸魔の宝玉が出て来る事は無い筈です。
裏話でした。大事な事なので言っておきますが、作者が忘れてたわけでは無いです。
着替えて出て来ると全員が私を見ている気がする。仕方が無いのでこのまま手伝う事にする。女将さんにはお世話になってるので、まあこれくらいはと思う。でもこの格好はなんだろう?いつもスカートを穿いていて、慣れている筈なのだが少し恥ずかしい。
《良く似合っていますよ?》
『それは嬉しいけどこのヒラヒラはどうなの』
《たまには良いものでしょう?》
『いや、別に』
そう話しているとリナちゃんが私に飛び込んで来たので慌てて受け止めて、頭を撫でてあげる。リナちゃんを相手していると女将さんが
「いやー朝から泣き出してね?気を紛らわせてあげるために、お手伝いをお願いしたんだよ」
その言葉を聞いてかリナちゃんが
「ないてないもん。しんじてたもん」
どうやら朝、私が居なくて泣いたらしい。しかし女将さんが私の荷物が残っているのを見て、ただ出掛けているだけだと説得して事なきを得たみたいだ。
「とまあ、そう言う事でね?」
そんな事を話しているのは良いが店員が全員ここに集まってるので大丈夫か疑問に思い
「今は忙しいんですか?」と聞くと
「おお、そうだ。手伝ってくれるかい?」
「まあ、手伝わないと言うのは無さそうですけどね」
「悪いね」
「ううん、いいの」
と言うと嬉しそうな表情でリナちゃんが
「おねえちゃんとはたらけるの?」
そう聞かれたらより断れなくなる。まあもうそのつもりだったので
「一緒に頑張ろっか?」
「うん!」
結局その日から、昼間も働く事になった。とは言え昼間は自由にしてくれて良いとなったので、前とそう変わらないのではあるが。
初めて昼間に働いたのだが、お客さんが中々居なくならない。出て行っては新しいお客さんが来て、そんな感じでとんでもない回転率だ。夜よりも忙しいかもしれない。それにリナちゃんの面倒を見たりも含めたなら、途方もない労力である。
リナちゃんが飲み物を溢してしまったりと、中々不安な状況が多かったのだが、何故か怒る人はいない。暫く何故怒られないのか疑問だった。だがある状況を見てふと私は気付いてしまった。そう、小さいって得だよねと。つまり子供に怒る気は起きないからだと言う事。それを見てリナちゃんが少し羨ましいなと思う。そんな事をぼんやりと考えていたらアイちゃんが大笑いしている気がする。
まあ、私は大人だから怒らないけど。だからアイちゃん?笑うのはやめようね。
まあそんな事よりも今後のリナちゃんをどうするかを考えなければならない。試験も乗り越えたので時間はある。まずは相手の親の情報を調べてから、その後どうやって説得するかと言う所だろう。そしてリナちゃんの気持ちも大事だね。私と一緒に暮らす事になっても喜んでくれるのか、親とは二度と会えなくなるかもしれない。その決断をして貰わないといけないから。
考えながら仕事しているといつの間にやらお客さんは殆ど居なくなっている。大体昼過ぎ、そろそろ夕方と言った時間帯である。
ある程度の目処がついたので休憩を取る事にする。ご飯も食べていなかったのでついでに今食べる。食事をしながら覚悟を決めてリナちゃんに質問をする
「ねえ、りなちゃん」
「なあに?おねえちゃん」
「お母さんと会いたい?」
私の質問を聞いて表情が曇る、少し間が空き
「どうして?」
「私ね、リナちゃんと一緒に暮らそうと思ってね」
「うん」
「それでね、二度とお母さんに会えないかもしれないから」
「おとうさんはこわいけど、おかあさんはよくわからないの」
「そっか。会ってみたい?」
その言葉を聞き、リナちゃんは少し躊躇ったが小さく頷く。それをみて私は
「わかった」そう答え、会話を終了する。
するとアイちゃんから意見が飛んで来る。
《この子は親と会わない方が良いかもしれません》
『なんで?』
《あの状態だったこの子の親が、この子を大事にしているとは思いません。私がこの子の親を説得した方が良いと言ったのは面倒を避ける為です。人は、愚かな生き物ですから》
『え、でも親は子供を大切にする物では無いの?』
《そうですね。私は、いえ貴女は、愛されていました。そのどちらでも。ですが必ずしも親が子に優しいとは限らないのです》
『私はお父さんにも、お母さんにも愛されてたの?』
《ええ、間違いなく。ですが他者が貴女の様に愛されているとは限らないのですよ》
『でも、リナちゃんは会いたいって』
《子は親を想うものですよ。いつだって忘れる事は無いと思います。頷いたのはそう言う所から信じたいと思ったのだと考えます。ですが、この子は恐らく‥‥‥まあ取り敢えず貴女は会ってみましょう。それから考えるしかありません》
『‥‥‥わかった』
《クロ、人には様々な者がおります。他者に優しき者は中々いません。だからこそ貴女の優しさが私は大好きです。胸を張ってください》
『うん』
《まあ、張る胸は無かったんでしたね》
『うるさいよ!』
こうしてリナちゃんをどうするかで悩むことになる。方針は決まって来たのでそろそろ行動に移す事を考えるのだった