六十一話 保護
少女が少女(幼女?)を抱えて居住区を抜け、商業区へと向かう。昼前なので沢山の人が行き来しており、視線が集まる。何故なら小さい変質者が、より小さい娘をお姫様抱っこをして歩いているのだから。さらに片方は、かなりボロボロの衣服を纏っているので尚更だろう。
私は今更気にしても仕方ないので、視線を無視してリド防具店へと入る。
依頼の達成報告だけして来ないといけないので、女の子を置いて外に出ようとすると裾を掴まれる。何事かと振り向けば
「行かないで」
と言われてしまう。どうしたものかと考えているとリドさんが出て来る。丁度いい所で出て来たので押し付ける事にする。
「ほら、この人と一緒にここで待ってて。お兄ちゃんはこれから行かないといけないところがあるから」
「嫌、お姉ちゃんじゃないと嫌」
「どうしたんだ?その子は?」
リドさんが話し掛けると、何故か女の子は私の後ろに隠れる。取り敢えずリドさんに説明をする。
「えっと、拾った」
「随分と懐かれてるな」
「依頼を報告して来たいからご飯だけ食べさせてあげて欲しいんだけど」
「連れて行くわけにはいかないのか?」
「この格好で出歩くと融通が効かないから」
「それもそうか。よし、お嬢ちゃん名前は?」
問われた女の子は、泣きそうな表情で私を見つめて来る。仕方ないので私が聞いてみる。
「あなたのお名前は?」
「わたし、りな」
「そっか、リナちゃんはここで大人しく出来る?」
私がそう言うと裾をより強く握り、首を振りながら
「おねがい。おいていかないで」
「だ、そうだが?ご飯も嬢ちゃんと一緒でないと食べないかもしれんな」
「うーん」
『ナイフを預けて行ってはどうですか?貴女の魔力が流れているので安心できるかもしれませんよ?』
アイちゃんにそう言われて、ナイフをホルスターごと外してからリナちゃんに差し出す。
「ね?これを預けるから、少しだけ待ってて」
私をジッと見つめてナイフを受け取るリナちゃん。泣きそうになりながらも黙って頷いてくれたので一度店を出る。
『急がないとね』
《そうですね》
そう言って走ってギルドに報告に行く。
ギルドに辿り着いて受付の列に並ぶ。いつもは並んでいても苛々する事は無い。だが今回だけは前に行きたいと思う。私って自分勝手だよねと自分でも思う。漸く自分の番が来たので、依頼達成の証明書を提出する。そしてすぐさま報酬を受け取ってからギルドを飛び出す。
急いでリド防具店に帰ると、リナちゃんは大人しく座っていて、私が帰ってきたのに気付いたみたいだ。そして速攻で、私に抱きついて来る。とても愛くるしい。それはそれとして、着替えないといけないので引き剥がそうとするも、離れない。仕方ないのでリナちゃんを引き連れて更衣室に入る。着替えようとすれば、察してくれたのか私から離れてくれたので急いで着替え終える。するとまた抱き付かれる。半諦め状態で表に出てリドさんに話し掛ける。
「この娘どうしようか?」
「うーんそうだな。俺が面倒見ても良いが、多分嬢ちゃん以外に懐かないと思うからなあ。だから嬢ちゃんが預かるのが良いだろうが家はどうするよ?」
「なら女将さんに相談して私と暮らせるように頼んでみるよ」
「そうか。着替えだけさせてやってからご飯を食べに行ったらどうだ?」
「そっか、着替えないとね」
そう言われてもう一度更衣室に戻ってリナちゃんを着替えさせる。合うサイズは殆どなかったので上下を適当に見繕って着させる。
着替えが終われば、私達はすぐさま店を飛び出す。かなり弱っているので、急ぐ為に抱っこをしてあげてから、小走りで翠木亭へと向かう。
店内に入ると、女将さんが居たのでご飯をお願いする為に話し掛ける。
「この娘にご飯を食べさせてあげたいからお願いできますか?」
「うん?構わないけど嬢ちゃんは食べないのかい?」
「私よりも先にこの娘に」
「訳ありかい?」
「まあそんなところです」
「ふーんわかった。まあ急ぐのは判るけれど、お嬢ちゃんもそんなに慌てずに食べておきな?」
そう言われて少し慌てていたのを理解する。
「まあ、スープ系にしておくよ。痩せてるからあまり固形物はよく無いだろうし」
「あ、ありがとうございます」
「何言ってんだい?礼なんていらないよ。まあちょっと待ってな」
そしてすぐさま女将さんは2人前のご飯を持って来てくれて、私はリナちゃんに食べさせてあげる。何はともあれ食事も落ち着けば、見計らったのか女将さんが私の隣に座って耳打ちする。
「で?どうしたの?」
「弱ってたので、見かねて保護しました」
「そうかい。家は?」
「その、私が面倒を見ようと思って」
「ふーん」
「その、すみません。勝手に、迷惑ですよね?」
私が決めた事とはいえ、人に頼るしか無い癖に小さな女の子を拾ってしまった事は良くない事だろう。女将さんはとても難しい顔をしている。どんなお叱りが来るのかと身構えると
「そうだね。勝手な事をしたから罰として、今後2人分しっかり働いてもらおうかね?」
「え?」
「ちゃんと面倒を見るんだよ?そのかわり困った時には相談する事。いいかい?」
「それって?」
「その子と仲良く暮らすんだよ?」
「は、はい!」
そう言って女将さんに深々と頭を下げる。いつもいつもお世話になっていて、こんな面倒な事でも助けてくれる女将さんに頭が上がらない。心配そうに私を見つめるリナちゃんに、自信満々な笑顔で私はリナちゃんに告げる。
「ここで一緒に暮らそうね」
元々この次に情報紹介で一話ありました。単なる情報ではありますが、興味ある方は
「黒龍の少女 外伝」
の方を見て頂けると嬉しいです。目次ページから飛べる様にリンクしていますので、是非使ってください。