五十八話 処理
少女は亡骸を眺めながら少しばかり考える。ヘイトタイガーを持って帰るのは良いが、如何ともし難い。重量は300Kgにもなるので肉体強化をすれば問題はないが、持って帰るには少々骨が折れる。まあ大物を持って帰ると言うのは決めていたが、いざ改まって考えると少し面倒だと感じる。どうしようか迷っていると
《クロ、首を取らなくても良いですが深い傷を入れてください》
『なんで?』
《傷の無い死体というのは不審です。あとは念の為止めを刺す為です》
『血が飛び散るよ?』
《まあ汚れたくなければ避けてから実行して下さい。何にせよやらないと言う選択肢は無しです》
『わかった。そこまで言うならやる』
そう言って首筋を思いっきり切る。断ち切るのでは無く、残したまま。辺りに血が飛び散り完全に絶命する。とてもグロい。正直少し気持ち悪い。でも私がやった事だから目を逸らさずに耐える。追い討ちをかける様にアイちゃんが
《血を抜く為に木に吊るしましょう》
と言うので半ば諦めて指示に従いタイガーを担いで木に打ち付ける。すぐに尻尾にナイフを刺して木に吊るす。血が流れおわるまで少し待つ。ものの数分で殆ど抜けたのでナイフを取ってタイガーを担いでから街へと向かって歩き始める。
街へと辿り着いたので入ろうとすると門番さんに止められる
「なんだ!?魔物か!?」
「中に入りたいんだけど」
「魔物が喋っているだと!?」
「違う」
そう言って横に置いて身分証を取り出す。
「おお!?今日の朝に通った子か?」
「うん」
「それは?」
「依頼の魔物」
厳密には違うが面倒なので嘘をつく
「そ、そうか。凄いんだな君は。住民が焦るから真っ直ぐにギルドへ言ってくれ」
「わかった」
元よりそのつもりである。しかし言われてみればなんだか周りから注目を浴びている気もする。最近は慣れてしまいイマイチ自覚は無かったのだが。まあ今更考えても仕方ないので担ぎ直してまた歩き出す。やっとの事でギルドに到着するのだが、中に入る前にもう既に職員らしき人が外に居て話しかけられる。
「あなたは?」
「えっと?」
「身分証を出してください」
そう言われて取り出す
「はい」
「あなたEランクですよね?」
「なにか?」
「何故ヘイトタイガーを担いでいるのです?」
「説明が面倒だからチルダさんを呼んでくれる?」
「え?あ、はい。わかりました」
そう言って恐らく呼びに行く。それからチルダさんがものの数秒で飛び出してきて私の前に来る
「く、ルビー君どう言う事ですか!?」
「えーと?」
「何故あなたがヘイトタイガーを狩ったんですか!?」
凄い悪い事をしたのだろうか?唆されたとは言え、言い訳はどうしようかと考えると
《襲われたから不可抗力ですと、不安そうに言って下さい》
と言われたので
「採取してたら襲われて、やむを得ずに戦いました」
「そ、そうでしたか。無事で良かったです。新人冒険者は危険が多いので引率の者を出そうか迷っていたのですが、まあ狩ってしまったものは仕方がないです」
「怒ってない?」
「怒りよりも心配ですよ。とは言えまさかCランクの魔物を狩れるとは思いませんでした」
「む、無我夢中でした」
「の割には服が汚れて無い様な?ひょっとして?ルビー君?後でギルド長室に来てくれますか?」
ヒヤリと背筋を冷やす。まさか気付かれたのだろうか?確かに言い訳としては問題無いがあまりにも不自然だろう事を今更に理解してしまう
「まあ取り敢えずこれはどうしますか?」
「い、今から解体しようと思います」
「出来るんですか!?」
「い、一応」
「あー、そう言えばそうでしたか。では裏手にギルドの解体場があるのでそこを使って下さい。私が許可しますから」
そう言われてまたタイガーを担ぎ直す
「す、凄い力ですね。普通は複数人でバラしてから持ち込むんですけれど」
そう言われて気付く
「そ、そんな方法が!?」
「はあ、もうなんでも良いです」
何故だか知らないがもの凄く呆れられた気がする。そして間違い無くバレてしまっている。取り敢えず解体場に向かいながら考える。そうか複数に分ければ良かったのかと思うと
《いえ?貴女は1人ですから寧ろ一塊の方が便利ですよ。それよりも気付かれてしまいましたがあまり怒ってはいなさそうですね》
『そうなの?』
《ええ、怒りを通り越していると言うのが正解の様ですから》
『それってダメなのでは?』
《さあ?》
その言葉を聞き呆れながら解体場に着いたので、真ん中のテーブルを借りる。何人かの冒険者も付いて来ているが、あまり深く考えるのも面倒で視界の隅に追いやる。何故かギルドマスターも居るが、心を無にしてリドさんから借りたナイフを取り出し解体を始める。
数刻時間をかけて解体が終わり素材のあれこれについてチルダさんに呼ばれ、私は今ギルド長室に居る。素材について殆どの肉は食用になるので売却。それ以外の素材は取り敢えず保留。そして今はそんなことよりも
「まずは何故、ヘイトタイガーをお嬢ちゃんが狩ったのかだな」
「それは、その、襲われて」
「初心者が先手を取られ、無傷なのはどう言う理由だ?」
「無我夢中だったのでわかりません」
「解体は手慣れている様だが?」
「猟師の家系で」
「そうか、まあよくわかった。と言うよりはある程度はチルダから聞いたしな。で?本当は?」
凄い目つきで2人に見られている。この部屋に鍵は掛かっており、逃げることは出来ない。仮面は外され顔も隠せない。つまり絶賛説教中である。これは降参するしか無い様だ
「ごめんなさい」
「はあ、まあ実際はそれ程怒ってはいない。だが危険だからこんな真似はやめてくれ。まあお嬢ちゃんの適正はEでは無いのはよくわかったから早めに昇級させてやってくれ」
「わかりました。準備しておきます。それよりも心配したんですよ?クロさん」
「はい」
「まあ怪我が無ければそれでよし。報酬金とかは追って連絡するから暫し待ってくれ」
「どうせ私の仕事ですよね?」
「まあな」
「はあ。まあ取り敢えずは以上ですよね?ギルドマスター」
「おう」
思ったよりは説教は優し目で解放される。怒られると言うよりは殆ど心配と、素材についてのお話しばかりであった為、長くはなったが初めての魔石も手に入り笑顔で防具店に帰るのだった。