五十七話 初任務
準備を終えた少女はギルドへと辿り着き依頼の確認をしている。基本的には依頼を受けずに動物などを狩るのは良く無いらしい。税金や管理の問題などがあり、普通は申請などを必要とするのだ。なのでちょうど良さそうなのを探すが、私のランクは1番下のEなので大物はボードには貼り付けられていない。最低でもCからであり、早速悩んでしまう。しかし
《ふむふむ、適当な物で楽なのを1つ受けましょう。例えばあの森の中の薬草採取とかはどうですか?同じエリア内にCランクのヘイトタイガー討伐の依頼もあります。》
『えっと?それってつまり』
《ギルドがどう言う理由で貴女が魔物を狩ったかの理由を判別する術は無いのですから》
『でもルールは守らないといけないよ?』
《人間如きが貴女を縛るなど滑稽な話ですね》
『ええー?良いのかな?』
《クロは龍ですから。それに約束を守りたいのでは無いのですか?》
『それはそうだけど』
《まあどうするかは貴女が決める事です。その為に私はアドバイスをするだけなのですから》
そう言われて悩むが、答えは最初から決まっていたのだ。迷うそぶりを見せつつも心の中では一直線に薬草採取依頼へと手を伸ばす。
そのままソレを持って受付へと行く。毎度お馴染みのチルダさんの所へ。するとチルダさんが
「薬草採取ですか?」
「うん」
「一応お伝えしておきますが、ヘイトタイガーが付近に出没しています。危険な魔物で敵対すると延々と追いかけ続けてきます。なので出来る限り遭遇しない様にして下さい」
その言葉を聞き内心ヒヤリとする。私の思惑は気付かれていない様で、どちらかと言うと心配の様だ。私の秘密を知っている数少ない人だからだろう。チルダさんからの忠告は一応聞いておく
「あとは依頼品についてはギルドに納品してください」
「わかった」
「はい!それでは初任務ですから頑張って下さいね」
その言葉を聞きギルドを出る。この街に入ってきた時に潜った門は南門であるが、今回の目的地は西の方角なので西門から出る。森まではそこまで距離はない為のんびりと歩きながら話をする
《そう言えばあのナイフを色々と調べましたが、貴女の体に収納出来そうですよ?》
『うん?どう言う事?』
《体に刺してみてください》
『え?』
《あ、いえ。そのなんと言いますか、貴女の意思で仕舞う事が出来たり、いつでも取り出したりが可能です》
そう言われて服を捲り、お腹に突き刺すと血が出るのではなく体に溶けてしまう。また念じると体のどこからでも取り出せそうだ。試しに左手から取り出す。
『このナイフ凄いね』
《護身用に変装を解いている時は体の中に入れておくと良いと思いますよ》
『え?でも取り出したらバレない?』
《まあそこは上手いことやってください。命の危機には変えられませんからね》
『まあそっか』
《まあそれはそれとして変装中は腰に刺しておいた方が良いです。武器を持たない冒険者はある意味で不審者ですからね》
粗方会話を終えれば森へと辿り着き目当ての薬草を一応探す。どちらかと言えばこちらが本来の目的なのでこちらを優先しておく。
単純な任務らしいので2種類の薬草をある程度摘めば達成である。奥地に行かなくても直ぐに見つかったのでカバンに仕舞っていく
『案外楽だね』
《まあ最低限の報酬金が鉄貨5枚ですから。量次第で12枚ですし、初心者向けですね。需要のおかげでかなり儲かる為、人気はあるみたいでしたが基本的な冒険者は薬草摘みを好まない様ですね》
『まあ地味だよね』
《命には変えられませんけどね。愚かな事です》
『でも私もヘイトタイガーと戦いに来たんだけど』
《あれ?そうでしたっけ?》
そう言ってわざとらしく惚ける親友。それに呆れる私。まあ来てしまったからにはやらないといけないよね。軽く溜息を吐き、魔力を使用する。すると森の中心部に一際大きい魔力が存在するので、その場所を目指し歩き出す
ヘイトタイガーを見つけ観察すると、サイズはかなり大きい。尻尾も含めた体長は3m程だろうか?何かを探す様に鼻を動かしている。ふとこちらに視線が動き、目が合う。ムクリと体を起こしこちらを向く。
茂みに隠れていたが無用だと考え、隠れていた体を出し臨戦態勢に移る。ナイフを構え腰を落とし魔物の動きを眺める。タイガーは唸り声と共に跳躍し突っ込んで来る。噛みつきをナイフで防ぎ耐える。ジリジリと押されて少しずつ後ろへ下げられてしまうが、左手に魔力を込め精一杯の力でタイガーの顔を横から殴る。すると真横に吹っ飛び、木に打ち付けられそのまま崩れ落ちる。それを見て勝利を確信する。人型での対魔物はナイフを試すことも無く討伐を終えたのだった