五十四話 お使い
お金を預かりお買い物へと出た少女はメモを見ながら商業区を歩いている。頼まれていたものを確認すると、買って欲しいものはどうやら野菜が5種類各4つずつ程度のようだ。そしてよく見ると下の方に、余ったお金は好きにしてくれていいと書いてある。預かったお金は鉄貨60枚程あるので恐らく半分くらいは余る。それを見て思ったのが多過ぎないだろうかと言うこと。
まあお小遣いとして渡してくれたので折角なので甘えさせて貰おうと思う。取り敢えず青果店を探していると
「そこの可愛いお嬢ちゃん!ここで何か買っていかないかい」
そう言われて品揃えをチラリと見るとどうやら目当てのお店だったので応じる
「あのここに書いてあるものが欲しいんですが」そう言って青果店のおじさんにメモを渡す
「ふむふむ?お使いかい?」
「うん」
「わかった今袋詰めするよ」
「ありがとうございます」
「ほい。出来たよ」
そう言って渡してくれる。
それを受け取るとおじさんが木の串で刺した何かをこちらに向けてくる。
「はい、あーん」
言われるがまま口を開けると、果物を口に放り込まれる。よくわからないまま咀嚼すると、
とても甘い。むにゅむにゅと柔らかく、瑞々しい。所謂桃である。飲み込めば次がさし出される。側から見れば店主が客の少女に餌付けしている様に見える。
そしてその様子は殆ど表情のない少女の顔が崩れ笑顔になる程でありとても美味しいのだろう事がよく解る。その笑顔を周りは微笑ましく眺め結構な人が足を止めている。だが残念な事に少女の瞳には果物しか映っていない
食べ終わり平静を取り戻すとお使いの話に戻る。
「サービスでさっきの果物入れといたから是非食べてね。お金はあるかい?鉄貨20枚だよ」
そう問われたので預かった小袋から取り出す。しかし予想よりかなり安いので
「はいこれで。それより値段がかなり安い気がするのですが」
「ああ、サービスだ。また来てくれな」
「ええ!?何から何まで申し訳ないです」
「小さいのに偉いからね。それよりも持てるかい?」
無理矢理話を終えられたのでせめてものお礼を言う
「ありがとうございます。また来ます」
そう言って袋を両手で抱えると前が見えない。だが問題はない。魔導認識操作のおかげで目を閉じても周囲に何があるかは理解出来るのでそのまま帰路につく。何故帰るのかと言うとそれは仕方がないだろう、両手が塞がりお買い物を楽しむ余裕は無いのだから。
少女の去ったお店ではいつもより客が増え、買い物に勤しむ者は多い。このお店にとって少女は女神の様なものだ。女神ではなく黒龍であるがまあ関係はない。
さて少女が一度帰ってみれば殆ど客の面々は変わらずいつも通り視線を感じる。いつもとは何かが違うがそれはわからない。疑問に思いながらも荷物を厨房へと運ぶ。そこで女将さんと会ったので一応報告をしておく。
「あの、果物がサービスです。あと値段が鉄貨20枚でした」
「ん?あぁ、そう言う、成る程ね」
「それでどこに置けば?」
「まあその辺に置いといてくれるといいよ。それより買い物は楽しめたかい?」
問われたのでどう答えようかと迷いながらも答える
「手が塞ったので帰ってきました」
「ありゃ?そうかい?そりゃ悪かったね。ならまあお釣りは好きにしてくれていいから買い物でも行っといで」
「えっ?でもこんなにたくさん」
「良いんだよ。気にせず街を回っといで」
そう言われてしまえば反論する理由はないのでもう一度街へと繰り出すのだった