五十二話 再会
顔見せを終えてエントランス?へと戻れば来た時ほどの視線はなく、人も減っている気がする。まあなんでも良いのでチルダさんに続いて受付へと向かう。そして引き出しから書類を取り出して
「く、ごほん、名前がわからないので君の名前とか必要事項に印を付けますので、わかる範囲で書いてください。良いですか?わかる範囲で、です」
そう言って書類にマルをつけていく。名前をぼかしてくれたんだろう。わからないフリをするチルダさんに感謝する。必要事項か、なんだろうかと思い書類を覗き込むと、名前と年齢それと性別だけらしい。意外と適当なんだなと思う。しかし簡単なのは間違い無いが年齢以外は記入するのに少し問題がある。
そう考えていると
《名前だけで良さそうですよ?》
『え?でもマルのところは書かないといけないんじゃないの?』
《まあ試しに名前だけにしてみましょう》
『クロ、は駄目だよね?』
《流石にやめておいた方が良いですね。変装した意味が無くなりますよ》
『うーんどうしようか?』
《では私の考えた名前でどうですか?》
『本当に!?アイちゃんがつけてくれるの?カッコいいのが良いなあ』
《うっ、そこまで期待されるとアレですが、ルビーと言うのはどうですか?》
『ん、良いかも。宝石?だよね』
『ええ、赤にも青にもなります。貴女の瞳の様に美しく、貴女に相応しいです。イヤですか?』
『あ、ありがとう。凄い嬉しい。じゃあ今日から私は、いや僕はルビーだね』
決まったので差し出された書類に堂々とルビーと書きそれだけで提出する。ソレをチルダさんは流し見して言う。
「よく分かりました。ではルビー君、身分証を出して下さい」
「は、はい」
言われて差し出す。
「はい、結構です。これから手続きとかで時間を暫く頂くことになるので、また数刻後にお越し下さい」
そう言って書類などを持って他の事務の人と話をしたかと思うと、そのままその人と受付を交代してしまう。
やるべき事は取り敢えずなくなったのでどうしようかと考えていると後ろから話しかけられる。
「やあ、大変だったね」
その声を聞き、振り向きながら少し違和感を感じる。聞き覚えのある声な気がする。誰だろうと思い顔を見て気付く。この前色々お世話になった4人組がそこに立っていた。
動揺を隠せず声が出る
「うぇ、あ」
「冒険者に絡まれた挙句にマスターに叱られたんだろう?まあ気にする事ないよ。みんながみんなあんなに酷い人じゃ無いからさ」
動揺で頭がフリーズして何を言っているのか全く理解できていない
「もし困ったことがあったら相談乗るからさ、めげない様にね」
「え、あう」
「おいおい、怖がってるよ、リーダー。よく知らない4人組に話しかけられたら誰だって怖がるんだから急に話しかけるのは可哀想だよ」
「お、おう確かに言われてみれば、申し訳ない」
そう言ってリーダーが謝るのを見て少し冷静になる。ん?そもそもバレてない?男の子だと勘違いしてくれてるのかな?
「しかし珍しいな、こんな新人に優しくするなんて中々無いだろう?」とかつて口の悪かった人が言う
「いやあ、あの子ぐらいの子を見かけるとねえ、なんとなくね」
「あの嬢ちゃんな。別の冒険者から聞いたが翠木亭で働いてるらしいぞ」
何故か私の所在がバレてるし
「なら今度食べにいくか?」
「そりゃ良いな。元気かどうかの確認もしたいしな」
マズい。このままではとにかくマズい。と言うよりも今の状況もマズい。取り敢えず返事しなきゃ。
出来るだけ声音を変えて喋る
「あ、ありがたいですが大丈夫です」
「そっか、まあ何かあったら出来るだけ助けるからいつでも頼ってね」
「は、はあ」
そう言って4人組は集会所から出て行く。
なんだか色々とトラブルが多すぎるよ。身分証を返して貰うまではこの格好の方が良いだろうし、そうなると行ける所は限られてくるなあ。ねえ?どうしよっかと親友に問いかける
《そうですね。取り敢えずお昼ご飯にしてはどうですか?もうお昼ですが朝も食べていませんから》
『そうしよう。あっ!この前の屋台に行ってみようか?サービスしてくれたところ』
《ふふ、良いですね》
決まったので早速集会所から飛び出して商業区方面へと向かう。意外と離れてはいなかったのですぐに辿り着く。この前と変わらない所で屋台が開いていたのでおじさんに話しかける。
「こんにちは、買っても良いですか?」
「おおう、なんだか凄いのが来たな」
「うぐ、凄い、ですか?」
「ああ、いや悪い。2本で鉄貨1枚だ」
「じゃあ2本で」
「あいよ。仮面で食べられるのか?」
その言葉を聞き固まる。誰にも見られてないよね?と思い辺りを見渡すと興味を持たれているのか視線が集まっている。つまり仮面を外せないので食べれない。どうしようかと困ってしまう
仕方ないのでおじさんにお礼を言ってこの場を立ち去る。私が安全に食べれる所はあそこしか無い。そうリド防具店である。幸い近いのでそちらへ向かう。
店の中に入れば流石に視線は無くなったのでようやく食べられると仮面を外す。
「まあ構わんのだがここは飯食うとこでは無いんだけどなあ」
「う、すみません」
「まあ嬢ちゃんには世話なってるしなあ」
いくらお客さんがいないとは言え流石に防具店で食べるのはいかがなものかとは思うが、背に腹は変えられず申し訳ないが頂く。
一応事情は説明したので許してくれたらしい
食べながら先程のことを思い出す。凄いのって言われた。やっぱり私って変なのだろうか?そう思い溜息を吐く
なんだかこの前食べた時よりも美味しく無い様な気がする。まあでもクヨクヨしてても仕方ない!と開き直るのだった