五十一話 変質者
少女は今、道を歩いている。なんだかあらゆる方向から視線を感じる。すれ違った者は振り向き、遠くの者は近くの人とコソコソと話しをしている。まるで変な物を見るかのようだ。見られているのがわかるのでなんとも気まずい。しかし逃げる訳にも行かないのでこのままギルドへと向かう。
少しずつ心を擦り減らしながら漸くギルドに辿り着く。意を決し、頬を叩こうとしたが(仮面をつけているので叩けない)叩くのをやめて中へ入る。するとより一層視線を感じる。ほぼ全員に見られているのではなかろうか?もういっそ開き直って受付へと向かう。
この前の受付の人の所が空いていたので話しかける。一応声音と口調を変えておく
「冒険者登録したいんだが」
「えっと、身分を証明する物はありますか?」
「は、はい」答えながら身分証を取り出す。
すると冒険者と思しき人が野次を飛ばしてくる
「おいおい!得体の知れねえそんな小さいのを冒険者にするのか!冒険者の名が廃れてしまうぜ!?」
「うぐっ、ち、小さいは余計だ」
「まずその仮面を外せ!あと何だその外套は」
あまりの剣幕に1人脳内で愚痴る
うぅいいじゃん、この外套カッコイイのに。あれ?目がなんだか潤んできた。泣いてないもん。気にしてないもん。
《そうですよ!あんなアホにクロのカッコ良さが判る訳ないんですよ!だから気にしないで下さい》
『ありがとう、アイちゃん。そうだよね私ってカッコイイよね!』
《その通りです!》
自分でもカッコイイのが良くわかっているので開き直る
「うるさい!この髭面!わ、僕がどんな格好していようが僕の勝手だろうが!大体、登録の規定に格好の指定なんて無いんだから放って置いてよ!」
「確かに無いんですけどね」と受付さんが挟み込む
「なんだと!?このクソガキ、大人に向かってなんて態度だ表に出ろ!」
私と髭面が言い合っているとマッチョな人が現れ、言い放つ
「なんだ騒々しいな。騒ぐなら外に行って騒げ。どうしても言い合いたいなら人の迷惑にならん所で言い合ってくれ」
受付の人がマッチョな人を見て言う
「あっ!ギルドマスター、丁度いい所に」
「どうしたんだ?この騒ぎは」
「いえ、この子が冒険者になりたいと言ってまして、その困ってるんです」
「ふーん」
そう言いながらジロジロとこちらを眺める
その視線を感じ、悪い事はしていないはずだがとても居心地が悪い。だが引き下がれないので
「わ、僕は冒険者になりたいんです。駄目ですか?」と言うと
「駄目ってことはないが、顔くらいは見してもらわないと信用出来んしなあ」
「うっ、それは無理です」
「何か理由でもあるのか?」
「えっと、はい」
「仕方ない、おいチルダ」
呼ばれた受付さんは返事をする
「は、はい」
「来い。あと君もついて来い」
そう言って私の方を見る。仕方ないのでついていく。
こうして向かったのはギルドマスターの執務室だと思しき部屋である。これから尋問でもされるのだろうか?私も部屋へと続きギルドマスターが振り返ってから言う
「まあ顔を見せられないのは仕方ないのだが、流石に俺だけは君の事を知っておかねばならないから仮面を外してくれるだろうか?本当にどうしても駄目ならまあ諦めるが」
そう言われて困ってしまう。マスターだけなら大丈夫かな?と悩んでいるとアイちゃんが
《まあ仕方ないですね。この2人程度なら問題ないかも知れません。ただ誰にも情報を話さないように約束だけはしてもらいましょう》と言うので渋々仮面を外す
「これでいい?」
と言うと、とても驚いた顔をしたチルダさんとマスターがそのまま固まってしまう。
「お、おう嬢ちゃんだったのか。目立つだろうからそりゃ顔も隠すわな」
と言うマスター。一方のチルダさんは気付いた様に
「あ!クロさんじゃないですか!何故変装を?」
「色々あるけど、恩があるから」
「おい、チルダ説明しろ」
「ほらこの前調査報告した鉱山に住んでたって言う少女ですよ。四翼さん達の任務のやつです。」
「あ?黒髪異眼の少女か?言われてみればそうだな。聞いてた印象とは少し違うが」
「もういい?」
「ああ、済まなかったもう大丈夫だ。そう言えば君に頼みがあるんだが」
「何?」
「山の中の君の家を買い取りたいんだが」
「なんで?」
「鉱山労働者とかの拠点にしたいんだ」
それを聞き考える。今は家を借りられているから良いかと思ったら
《条件を付けて売ってはどうですか?》
と言われたので
「何かくれるなら良いよ」
「ふむ、なら冒険者になる事を許可しよう。元より止めるつもりは無かったしな。あとはまあ何か困った事があったらそのチルダに相談してくれ。出来る限り助けてやる。チルダがな」
「私に押し付けるんですか!?」
「それも元々予定にあったからな」
「わかった。あとは色々と内緒にしてください」
「わからないでください!情報については守秘義務があるから大丈夫ですけど」
「ああ、だからそこは絶対に守ると約束する。さてチルダ早速仕事だ。お嬢ちゃんの身分証に登録印と冒険者の手続きをしてやってくれ。それが終わったら、鉱山周りの改修と拠点化の手続きも頼むぞ」
「それって今日中に終わるんですか!?」
「やらなければ終わらんぞ」
「マスター恨みますからね!」
一応手続きは無事に済みそうだと安心する。色々あったけどなんだかんだで借りた恩は返せそうだなと思いながらチルダさんに続きエントランスへと戻るのだった