五十話 変装
今日も早く起きた少女は宿を出てある場所へと向かう。道中で冒険者とすれ違うと冒険者は止まり話しかけてくる。
「やあ今日も翠木亭に食べに行くよ」
翠木亭とは私が働いている宿兼食事処の事である。しかし私は少し申し訳ない気持ちで返答する
「今日はその、私はお休みです」
「え!?そっかあ」
私の返事を聞いた途端、急にテンションが下がって行くのが見て取れる。このままでは良くないと思い
「いつでもご飯は美味しいので是非食べに来てくださいね」
そう言いながら笑顔で顔を傾ける。すると冒険者は元気を取り戻したのか
「よしわかった!絶対行くよ!」
そう言ってくれたので会釈をしてその場を立ち去る
こうして辿り着いたのはリド防具店と言うお店で、私が初めて毛皮を持ち込んだお店だ。つまりナイフをくれた人のお店で、店主の名前がリドさんと言うからリド防具店らしい。安直だよね。相変わらず今日も閑古鳥が鳴き、いや?もはや鳴いてないかもしれない。言ったら傷つきそうなので、思考の隅へと追いやる。
リドさんはとても繊細でとても優しい人なのだ。見ず知らずの私に親切にしてくれるからいい人であるに違いない。そんな事を考えながら店内に入る
「いらっしゃい。お?嬢ちゃんか」
「うん、今日ギルドに登録しようと思って休みにした」
「今から行くのか?」
「だから装備を借りに来た。あと仮面も」
「ふむ借りに来たか。残念だが貸せないな」
「えっ!?何故ですか?」
この前は貸してくれると言っていたのに、何故急に借りられ無いのか聞いてみる。何か不都合でも発生したのだろうか?
「そうだな。どうせ嬢ちゃんしか使わないからな貸せないが、嬢ちゃんにやるよ」
「それはつまり」
「まあオーダーメイドだな。好きに注文してくれ。それか好きなのを選んでくれ」
「えっとでも、申し訳ないですよ?」
「まあ嬢ちゃんが活躍したら、ウチを宣伝してくれ。まあもしダメでもそれはそれでどうしようもないしな」
「が、頑張ります」
「取り敢えず仮面に外套あとは鎖帷子に靴それと上下服だな」
「そんなに、本当に良いんですか?」
「どうせ売れねえしな。そんなことより脚甲はどうする?」
「そんなことって」
「良いんだよ。それよりも重くなるから嬢ちゃんは装備しないほうが良いかもな」
リドさんはあまり触れてほしくないらしい。大人しく話を聞いているとアイちゃんが話に入ってくる
《まあ防具よりも肉体強化の方が強いですから要らないと思います。それに脚甲は足の柔軟性を阻害しますからあまりメリットはないでしょう》
『そうだね、あんまり注文するのは申し訳ないよね』
《ふふ、ええそうですね》
決まったのでリドさんに断りを入れる
「必要なさそうです」
「よしわかった。サイズが合うのはほとんどないが一応探せばあるはずだ。防具はなんとか今日中に用意しとくから取り敢えず、仮面と外套あと上下を探してくるから少し待っててくれ」
「うん」
答えるとリドさんは奥に入って行く
暫く待っているとお客さんが来た。しかしリドさんは気付いていないのか、出て来る気配はないので緊張しながらも仕方なく対応する。
「いらっしゃいませ?」
「おや?店主さんは居ないのかい?」
「いま少し出てますよ。私は店員ではないですが要件があれば伝えておきましょうか?」
「防具の修理を頼みに来たんだが、置いて行くから頼んでくれるかい?」
「わかりました」
そう言ってみると冒険者さんはバックから両手の手甲を取り出してカウンターに置いて店から出て行ってしまう
「ん?誰か来てたか?」
「これ、修理頼むって」
「ああ、あいつか。まあそれは置いといてほら着てみな。鎖帷子はなかったからまた作っとくよ」
と言いながらカウンターに様々な服や外套を広げて行く。
「服とかよくわかんないよ」
「まあ適当だ適当、俺も女の子の服とかよくわかんねえしな」
「うん、適当に目に付いたものにする」
赤色の外套に黒色の上下を選ぶ。すると
「ちょっと待った!流石にそれはすぐ気付かれる」
「なんで?」
「黒に赤ってまんま嬢ちゃんだよ!外套はいいが服とかは緑にしよう。あとスカートでは無くズボンにしよう。ひょっとしたら性別を勘違いしてくれるかもしれない」
「えー可愛くない」
「まあそのなんだ、気付かれる訳には行かねえんだろ?なら大人しく聞いてくれ」
結局はそれを聞き入れ、今後から街の外に行く場合は変装して出ることになった。それは良いのだが私は大人だ!と心の中で反論したものの何故か親友が笑っている気がする。とは言え証拠はないので何も言えず諦めるのだった