四十五話 幸せの欠片
朝早くに目が覚めたのでロビーへと向かう。制服も借りたままなので女将さんを探していると、厨房で朝ごはんを作っているのだろう旦那さんとの話し声が聞こえる。
「あのお嬢ちゃん働き者だったな」
「そうだねぇ。お嬢ちゃんさえ良かったらこのままうちに居てくれると良いんだけどね」
「誘ったのか?」
「いや、なんだか落ち込んでいたから言い出せなくてね」
「しかしまあ、凄い人気だったな」
「頑張り屋でまあ可愛いらしいからね納得だよ。それに覚えも良いから私の仕事が無くなってしまったよ」
盗み聞きをするつもりではなかったのだが私の事だったのでつい隠れて聞いてしまう。正直褒められていてとても嬉しい。緩んだ頬を直してチラリと覗き込むとマスターと目が合ったので挨拶をする
「おはようございます」
すると2人共返してくれる
「「おはよう」」
「昨日は助かった。是非ゆっくりしていってくれ」
「は、はい。あの制服はどうすれば?」
「うん?まあそのまま着てても良いよ。オリジナルって訳でも無いからね。折角だしあげるよ」
「えぇ?!でも申し訳ないですよ」
「いいのいいのお嬢ちゃんが頑張ってくれたサービスだよ」
そう言ってくれたので貰う事にする。持ってる服もボロボロだったからとてもありがたい。感謝を込めてお礼を言わなきゃ
「ありがとうございます」
そして朝ごはんが出来たみたいなので受け取って部屋へと持っていく。ご飯を食べているとアイちゃんが話しかけて来る。
《クロ?今日からどうしますか?》
『うん、服とか買いに行きたいね』
《いいえそうではなく。今後です》
『どう言う事?』
《ここに居たいですか?》
『え?‥‥‥なんで?』
《貴女が泣いていましたから。ここに居たいのなら居ても良いのです》
『本当に?』
《楽しそうな貴女を見て、帰りましょうなどと言えませんよ?》
『アイちゃんありがとう』
《いいえ。全ては貴女のしたい様にやるのです。さあご飯を食べたらお願いを言いに行きますよ?》
『うん』
アイちゃんと話しながら食べたご飯はとても美味しく、今日からのこのお店で働けるかと思うととても嬉しい。誰かの為に何かをする事が私にとってとても楽しい。アイちゃんとお話しする事も楽しいけれど、どちらも違った楽しさがあると思う
食事を終えてから食器を返却しに行く。そして意を決してお願いをする。
「ここで働かしてください」
そう言ってみると驚いた顔をした女将さんが、すぐに表情を崩して朗らかに笑いながら
「ああ、よろしく頼むよ」
こうして宿屋で寝泊まりしながら働かさせて貰う。宿泊代と食事代は今後は無料らしい。それだと悪いと思ったのだが、従業員なら当然らしく、それとは別にお金も貰えるらしい。なんだかとても破格の条件なのだが、働くのが初めての少女はその辺をよくわかっていない。ただ今後ここで暮らす事への期待しか頭の中にはなかったのである